戦後の対策に頭の痛い神殿長。
まったくなんだって私なんかが神殿長なんて偉そうな役を
しないといけないんだか・・
まあ、分かってはいるんだよ。戦死者が多すぎたんだ。
おかげで世代がポッカリ空いてしまっている。
長老方は知識や知恵はおありでも現場の仕事をされるのには
もう体力も魔力も充分とは言えない。
若い連中はまだまだ修行が足りないので全面的に仕事を任せるのには力不足だ。
一番現場向きな世代はほとんどがあの世行きだしなぁ。
生き残りのオレに神殿長をやらせたがる訳だ。
回復薬がもっと準備できれば回復魔法を多少なりとも補助ができるんだが・・
栽培地も採集地もかなりやられてしまっている。
採集に行ってくれていた冒険者も最近は魔物退治の方が稼ぎが
良いので採集の仕事は見向きもされない。
日々悩みながら神さまにお祈りしていたらなんとお告げが!
『異世界の勇者の一行がこの世界に迷い込んだ。
先ほどこの街に入れたようだ。
彼等の中に居る神官は薬神の加護を持っている。
助力を願ってみなさい。
受けてくれるかどうかは彼等次第ではあるが・・』
先代の神殿長ですら一度しか頂けなかったお告げを下さったなんて
驚きでしかなかった。
せっかくのお告げを無駄にはできない。
早速お告げの勇者の一行を探して招待した。
年長者もいたがどうやらリーダーは一番小さな少年に思えた。
彼等には謙虚な印象を受けた。
現在の窮状を訴えて助力をお願いした。
特別な条件があるかと思ったのだが常識的な範囲だった。
『特別な薬は神殿で管理すること。
利用者から料金を取ってもよいが常識の範囲内な値段で。
払えない人には分割払いとか後払いも認めること。』
薬草を薬にするのはこちらの人員で頑張ることになった。
まあ、ソレくらいは当然だな。
欠損部位の復活薬はもっと効き目のいいものもあるらしい。
だがどうやら材料がドラゴンだとか盛大な魔力を込めるとか
ココでは到底不可能なことを言われてしまった。
だが時間がかかろうと元の体に戻れるという希望があれば
多少のことも耐えられると思う。
まだ若い神官は丁寧に制作方法を伝授してくれた。
流石に薬神がご加護を下さるほどの方だと思う。
次の日に彼等は参拝に来た。
神さまと彼等の会話は全部聞こえてしまったがまさか加護を辞退するなんてなぁ。
自分より仲間に・・か。
ココへの滞在は4・5日だということだった。
領主さまへも一応報告はしておいたのだが若様が今度の勇者だということで
指導の依頼をされていた。
でも、誰が見ても若様には〔勇者〕は無理に思えた。
外で遊ぶことすら稀というくらいの病弱な方だったから。
段階的な薬の投与による体質改善。
食事のバランスによる体力強化。
アノ神官は〔医食同源〕なんて言葉を教えてくれたが
なるほど食事は薬並に重要だということか。
それにしてもたった一日だけで魔法を発動させてしまうとは!
信じられなかった。
コレは発動させるコツとかあるんだろうか?
なんとか聞き出したいところだな。
神官はそんなことは大したことではないという風情で惜しむこともなく
発動方法を伝授してくれた。
神殿にいても回復魔法も聖属性魔法もできない者はいる。
そもそも魔法自体を発動できない者すらいるのだ。
これで彼等にも我々にも道が開けるというものだ。
有り難い限りだな。
彼等は神さまの助力を得て元の世界に帰って行った。
コノ世界に迷い込んだのは本当に偶然だったようだが
神殿にも領主さまにもモチロン勇者の若様にも僥倖だった。
若様は別人のように健康になられて訓練に励まれている。
我等も若様に負けないように励まなければ。
せっかくの僥倖だったのだから生かさなければいけない。
そうそう連続して僥倖が訪れてくれることなど有り得ないからな。