それでも息子を愛している王。
できのよい息子のはずだった。
誰もが認める王太子。そのはずだったのに・・
人の国々にも協力してもらって探し回っても勇者はどこにも
見つからなかったはずなのに。
陣頭指揮をして探していた本人だったなんて。
他の人の国々をも欺いていたことになる。
どんな言い訳ができると言うのだ。
勇者の召喚しか道は無い・・
そう息子の説得されてしまった私のせいかもしれないと今更ながら思うが
もう手遅れだ。
召喚でやって来たのは女の子だった。
彼女に隷属の首輪まで付けて魔王と戦わせたなんてとても
〔勇者〕のすることとは思えない。
無断の婚約、侯爵の暗殺の企て・・コレは・・かばえるのか?
いや・・かばえば国の威信にかかわるだろう。
息子が可愛くない訳ではないが・・国のためには・・
侯爵夫人に入れ込んでいたようだが夫人が息子を愛していた
とはとても思えない。
自分のささいな不幸を弄んでいたとしか思えない女性だ。
悲劇の主人公に自分を見立てて楽しんでいただけだ。
だが騒動の原因なことは確かなのだから当分は謹慎でもさせる必要はあるだろう。
侯爵は厳罰を望んだがそれでは侯爵家の名誉にキズが付きかねないと諭した。
亭主を殺したいと思う妻なんて掃いて捨てるほどいる。
思うだけで実行までは行かないし次の日には忘れて愛の言葉を
ささやいたりするのだ。
実行どころか準備すらできていなかったんだからな。
修道院にでも放り込んで侯爵とは離婚させれば侯爵夫人だった
ことがどれほど恵まれていたのか実感できるだろう。
息子を惑わしてくれたことへの仕返しとしてはささやかなものだろうが
本人は皆が言うほどの悪女でもないからなぁ。
反省してくれればイイとは思うが・・
息子は勇者だ。
王太子だからと勇者であることを拒否したが王太子でなくなれば逃げ道など無い。
・・廃嫡・・しよう・・・
他にも息子がいない訳ではない。
これは国のためだ・・息子のためにもそのほうがいいと思う。
あとは・・首輪か・・・
そういう理不尽な目に会わせたのだ。
しばしの間でもどういうことなのか体感すれば勇者の女の子の
気持ちも少しは分かるかもしれない。
異世界の勇者達は息子の手足を復活させて特訓をしてくれた。
だが、それだけでは足りないと言う。
いったい何が・・心か・・・
大事な全ての事から逃げようとする心か・・・
大神官は神殿の修行もさせたいと言ってきた。
それで心を鍛えるなんてことができるのだろうか・・
だができることはなんでもさせてみなければ・・
今更ながら何も心配の要らなかった頃の息子を思い出してしまう。
私は息子の本当の姿を見ていなかったのだ。
勇者達は特訓の報酬も受け取らず修行の継続を望み
息子を励ましてやってほしいと言って元の世界に
帰って行った。
「〔勇者〕はちゃんと〔勇者〕でいてほしい。」
大神官はそう言われたそうだ。
息子は本物の勇者になることができるだろうか・・
なれなければアノ魔王にコマギレにされるだろう。
私にできるのは励ましてやることだけか・・・
廃嫡してしまった私の励ましなど素直に受け入れるかは分からないが
これでもまだ息子を愛しているのだ。
王ではあるが自分も親なのだとしみじみと感じてしまった。