修道院の侯爵夫人。
歳の離れた夫にうんざりしていたのよ。
好きでもないのに結婚させられたことも。
王子はそんな私の愚痴を聞いてくれたわ。
夫が居なければ・・という言葉が漏れてしまったのも王子に安心というか
油断してしまっていたせいね。
王子が夫を〔消して〕あげようか? と聞いて来たの。
恐ろしいと思わなかったわけじゃないわよ。
でもそうなってくれたら・・と夢想を止められなかった。
王子が召喚された勇者の女の子と婚約しても特に嫉妬を感じたりしなかったわ。
王子なんですもの。
政略がいろいろおありなんだろうとは思ったけど・・
まさか彼女もいずれは始末する気だったなんてねぇ・・
神殿に勇者の手足の復活に出かけた王子が呼んでいると迎えが来たのよ。
なぜか王さままでおられて王子の手足がなくなっていて勇者の彼女は
手足が復活していた・・
あんな姿の王子・・いえ王子でなくてもあんな姿になった人を
私は見たことなんて無かった。
気を失った私は神殿の何処か分からない一室で尋問された。
動揺しているところへの巧妙なウソを混ぜた尋問。
気が付けば私は夫の暗殺を企てて王子を誘惑して彼と結婚をしようとした
悪女にされていた。
殺そうなんて思ってなかったわよ!
死んでくれればいいと思わなかったとは言わないけど・・
消えて欲しいとは思ったけど殺そうなんて思って無い!
あの人は目の前からいなくなってくれればいいうっとおしいだけの人だったのよ。
離婚を考えなかったのかって?
修道院の生活なんて一年どころか一日だって私に耐えられるとは思えなかったわ。
夫が入ってくれるなんて思えなかったし・・
うんざりした生活から解放されたいと夢想してるだけだった。
王子を愛していなかったのかって?
そう聞かれると・・
だって相手は王子でしかも王太子なのよ。
普通に社交としてお付合いするだけでも取扱注意な相手だわ。
王子がそういう気持ちをお持ちなのは気付いてたんだけど。
私は既婚者なんですもの。
うんざりしていようがあの人が夫なのよ。
そういうお付合いにはなって無かったと言っても誰も信じないわよねぇ。
結局私は修道院に放り込まれたの。
まあ侯爵夫人の生活から比べたら天と地だわね。
自分でもココの生活に馴染んできてるのが不思議なくらいよ。
夫は一度だけ面会に来たわ。
もうこれで縁切りでしょうけどね。
色々ゴチャゴチャ言ってたけど私にはもうどうでもいい事ばかりだったわね。
私の事なんてほとんど無視した生活をしてたくせに今更どうこう言ったって
取り返しなんかつかないわよ。
お互い運が悪かったとでも言ってやれば良かったかしら。
王さまには申し訳ないとは思ってるわよ。
王子の心を惑わしてた結果になっちゃったんだし・・
でも彼が〔勇者〕だなんて知らなかった。
召喚した勇者の彼女の周りをうろついて色々面倒をみてたのって
そういうことだったのね。
王子はどうされてるのかしら?
異世界の勇者たちにムチャクチャな特訓をされて隷属の首輪まで付けられて
神殿の神官たちからも修行をさせられて・・・
あー・・お気の毒な・・でもそれもみんなに〔勇者〕だってことを
言わなかったからなのよね。
お気の毒でも自業自得でしょう。
自分は自業自得だって思わないのかって言うの?
まあ、そうかもしれないわねぇ。
夫ともっと向き合っていればちょっと優しくしてくださった王子に
隙なんか見せなかったでしょうしね。
修道院から出られてももう夫とも王子とも元のような関係に戻るのは
不可能だってことは私だって分かってるわ。
出られるかどうかも分からないわねぇ。
最近は修道院の生活もそう悪くはないと思えて来たのよ。
うっとおしい夫はいないし会ったら多分罪悪感を感じちゃう王子もいないしね。
できることはお祈りすることだけだわね。
王さまや王子・・あの夫のことも祈ってるわよ。
それで全部許してはもらえないでしょうけど。
でも私ってみんなが言うほど自分が極悪人な気はしてないのよ。
まあいろいろと迷惑を引き起こしちゃったってのは分かってるんだけどね。