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回復魔法は使えない大神官。

 私は大神官ということになっている。

だがほとんど光魔法も回復魔法も使えない。

前任の大神官様の補佐というか秘書というかそういう役目を

長い間してきて神殿の裏表に詳しいだけだったのに・・・


前任者が亡くなられて新しい大神官を選ぶ段になって派閥の

争いが激化してしまった。

王宮の貴族たちまで巻き込んだあまりの大騒ぎにさすがに

マズイと気が付いた一部の者たちが私を両派閥の抑えのために

私を大神官に押したのだ。


あの時は文鎮の役目くらいに言われて渋々引き受けたのだ。

魔王に対抗しなければいけない時に神殿がモメゴトでガタガタ

しているわけにはいかなかった・・


コノ世界には勇者がいないと思っていた。

人の国々に打診して探し回ってもダメだった。

だから彼女を、勇者を召喚したのに・・

まさか王子本人が勇者だったなんて・・・


勇者の彼女が怒るのも無理もない。

王が廃嫡までされるとまでは思わなかったが・・・


しかし彼は勇者だ。

コノ世界を守らなければいけない立場だ。

異世界の勇者たちが鍛えてくれても何か足りない気がする。

聖女はまだ子供だが共に聖術を施していた神官は成人だろう。

彼は王子の心が問題だと言う。


誰よりも勇気を旨とする勇者なのにすべてから逃げていると。


「あの勇者たちは望んで勇者になった訳ではありません。

でも、勇者であることからは逃げませんでした。

私の知る限りの勇者たちは全員そうです。


王子に勇者の力を鍛えさせることは彼等でもできます。

ですが心を鍛えるのは無理だと思います。

神殿は修行の場でもあるのですから彼にココの修行を

体験させてみたいと思うのですが。」


勇者たちが話していた。


「アレは強くなっても魔王には勝てないだろう。

あのままではな。

勇者に生まれたことがどういうことか理解していないし

理解しようとも思っていない。

王太子の立場を失ったのが自分のせいとも思ってないしな。」


自分をみつめたことが無いのか・・

王子に生まれたことがむしろマイナスなのかもしれない。

コノ神殿の修行でどこまで彼の心を鍛えることができるかは分からないが

やってみる価値はあるかもしれない。


彼は「勇者」でコノ世界を守るべき立場にある。

王に廃嫡されても彼の役目が無くなったわけではない。

異世界から代わりの勇者を召喚するのはもう論外だろう。

 

ならば彼を、王子をきちんと勇者に鍛えるしかない。

我ら神官の修行で彼の心に変化をもたらすことができるだろうか・・


魔王と戦う者の不安はこんなものではないのだろうが前途多難だとは感じる。


だが王子に勇者の責任を負わせるなら我等にも負わせた者の責任があると思う。

王は懲罰の意味も込めて王子に隷属の首輪を付けた。

召喚した勇者の彼女の気持ちを理解して欲しかったんだろう。


自分の気持ちだけでなく周りの者の気持ちを慮ることができるように

王子はなれるだろうか・・


王は悲し気な目をされていた。

せめて王の親としてのお気持ちを分かるようになってほしい。

それができれば勇者の勇気も持てるようになるかもしれない。


異世界の勇者たちは王子を鍛えたことの報酬も望まず彼の修行の継続をのぞみ

励ましてやってほしいとの言葉を残して帰っていった。


「〔勇者〕はちゃんと〔勇者〕でいてほしい。」


簡単で厳しい言葉だと思ってしまった。

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