魔王に逆らえない神官。
魔王は最強だ。
ココの世界の神さまでさえ敵わないとおっしゃった。
それに逆らうなど正気なものなら不可能だろう。
その魔王から内々の要請が来たのだ。
神殿中が大騒ぎになった。
しかも勇者を召喚しろという。
勇者・・魔王に対抗できるほどの勇者は確かに今はコノ世界にはいない。
昔々には確かにいて北の荒野は魔王と勇者の決戦の結果だと伝わっている。
あの魔王に対抗できる勇者を召喚したりしたら荒野がまたコノ世界に
増えるだけなんじゃあないだろうか?
なのでできるかは不安だったが召喚陣に手をいれて〔最強〕の指定を
解除してみた。
魔王の気を逸らしてみようとしたのだ。
魔王は強すぎるせいで全てに退屈しか感じていないと言う。
彼女の退屈しのぎに荒野が増えてはたまらないが、かと言って
とても逆らえないのだ。
勇者は成人からさほどたっていないだろうと思われる若い男だった。
しかも友人だというもっと若い・・多分成人はしていない男。
魔法使いだとは分かったが・・強いとはお世辞にも・・
それでも召喚時には魔族側の見張りが来ていたから彼等を引き渡すしかなかった。
神殿の者達は避難させてあったから心配はなかったが彼等をこのまま
という訳にもいかない。
なので魔族には煙たがられたが付き添って行くことにした。
勇者の彼はきっと負けると思ったがその通りになった。
殺されこそしなかったが拘束された。
なんとか彼等の開放を交渉したがほとんど無視された。
ところが救いの神が現れたのだ。
友人の勇者たちを開放してほしいという同じ世界の勇者だと。
我らの世界には今現在は勇者はいない。
最強勇者の世界にはそんなに大勢の勇者がいるのか・・
だが彼はどう見ても子供だった。
召喚に巻き込まれた魔法使いよりも更に若い・・
こんなので魔王の相手なんか無理だろう。
魔王も、執事ですらそう思ったらしい。
ミニ闘技場と言った雰囲気の中庭に彼を通すと魔物をけしかけた。
あんな子供になんてことを! ・・と思ったのだが・・
一撃だった・・オークキングもオーガもグリフォンも。
「神殿で神さまからココの魔王さまのお相手をするようにと
お言葉をいただきました。」
彼はそう言ったそうだ。
もしかしたら・・・だが魔王の強さは桁違いだ。
魔王の弟が魔王のフリで彼と対戦するという。
彼は3時間も粘ったが力量の差は明らかだと私も分かった。
だが、それからは目を疑うしかなかった。
魔王はなにやら透明な容器に閉じ込められ魔王弟は魔力で拘束され
封印までされた。
怪しい魔族が現れたと思ったら魔族の神だと言うし勇者の彼は
あの神の加護を受けているという。
魔族の神のとりなしで魔王と魔王弟は解放された。
「実力はともかく勝負は君の勝ちだよ。」
実力はともかく・・か・・
実力が遥かに及ばないはずなのに彼は諦めずに勝利した。
我々はあまりの実力差に抵抗すらしていない・・
先に召喚した勇者も魔王弟に自分が及ばないことは分かっていたはずだ。
それでも彼等は魔王に対峙した。
勇者か・・
勇気は勇者だけが持つものではないだろうが彼等は確かに勇気を持っていた。
我々に足りなかったのは多分その〔勇気〕だったんだろう。
圧倒的は実力差があろうとなおも立ち向かう勇気こそが必要だったんだ・・