魔王の執事。
魔王さまは退屈されている。ずっと・・・
魔族は強さを重視する。
あの方には誰も敵う者は居なかった。幼い頃から。
コノ世界では最強だと誰もが認めていた。
そう・・この世界の管理神でさえ。
魔族の神はココの管理神ではあられないがココの出身だそうで
ほんの時たま里帰りされる。
そんな時にされたお話に魔王さまは反応された。
「最強勇者」
コノ世界ではその昔、勇者と魔王の一大決戦が行われたことがある。
元の魔王城の有った場所は人の国と魔王国の北側にあって
完璧な荒野となっている。
勇者と魔王の決戦のせいで豊かだった国土は二度と植物すら育たない
不毛の大地となってしまった。
魔王と勇者は相打ちだったが魔王国のほうが人の国より国力を残していたせいで
勢力的には魔王国が有利な状態で現在に至っているのだ。
それでも国を勇者に不毛の地とされたことは魔族にとってはトラウマとなった。
魔王さまは最強勇者と会ってみたいと望まれた。
召喚は一応禁止事項だ。
なので人の国の神官に召喚させた。
あー・・やってきたのはとても強そうとはお世辞にも言えない若い勇者だった。
オマケの魔法使いは問題外だな。
つまらなそうに軽くあしらったあとは放置だった。
殺さないのかと思っていたら〔次〕が来た。
城の誰もがガッカリした。
そうだろう? あんな成人にも程遠いチビなんて・・
ところが意外なことに最初の連中より強かった。
魔物をけしかけたがみんな一撃だった。
オークキングもオーガもグリフォンも!
魔王さまはすこしご機嫌が良くなったようだった。
だがあの程度では魔王さまに敵うわけもない。
3時間も粘ったが魔王さまにしてみれば遊びでしかない。
彼は負けたら最強勇者を召喚要請すると言った。
最強勇者の弟子だそうだから彼なら簡単だろう。
もう体力が限界なのは私にも目に見える。
そう思った。
そう思ったんだ。
『あーっ!!! 魔王さま! 後ろーっ!!! 』
皆が魔王さまを振りかえった。
魔王さまは後ろを振り向いていた。
そして吸い込まれた。何かわからないが透明な容器だった。
『杖や魔道具を使ってもよろしいと? 』
そうだ・・そう確認していた・・アレは魔道具なのか?
魔王さまの代わりに対戦していた弟君は怒りに眼がくらんだ。
そこを突かれて魔法で拘束され封印までされた。
どうやら弟君がホントの魔王ではないことは見抜かれていたらしい。
『コレはあなた個人とではなく魔王さまとの試合ですよね? 』
アレで気付くべきだった。
捕まった二人をどうすれば・・
そこへ現れた魔族の神のとりなしで二人は解放された。
『ご加護を下さったあなたのことですから喜んで。』
あれほど驚いたことは無い。
魔王さまがあの魔道具に吸い込まれても対応を考えられた。
神になられているとはいえ魔族が勇者に〔加護〕をだなんて!
頭が真っ白になったのは私だけでは無かったろう。
「実力はともかく勝負は君の勝ちだよ。」
魔族の神はそうおっしゃられた。
魔王さまが実力で劣っていた訳ではないのだ。
けれど魔王さまは・・・
暫く悶々とされていたと思ったら弟君に王位を譲られて
最強勇者とあの勇者のいる世界に「留学」されてしまった。
弟君は反対されていたのだが・・・
期間は一年ということだった。
王位にあられても退屈しか無い方だったから異世界では退屈は
しないで済むかもしれない・・でも・・
・・・帰って来られるだろうか・・・
それがとても・・とても気になった。