岸辺の婦人。
目の前のこの小川がただの小川ではないと知っている。
私はすでにソレを渡ってしまったのだということも。
それでもココから動きたくなかった。
動いたらあの子のことを忘れてしまう。
そう分かっていたから。
小川には時々あの子が映る。
楽しそうに女の子とお出かけしているけどそれは
そう見えるだけに過ぎないと分かっている。
最後に会えなかったことがお互いの後悔となっているのだ。
いつまでも嘆いているのは良くないことだと
知ってはいてもどうしようもない時はある。
大人のはずの私でさえココから動けないのだ。
あの子はまだ・・・
それでも男の子の友人ができたのは嬉しかった。
周りより多少裕福だということがいつの間にかあの子の周りから
男の子の友人を遠ざけていた。
女の子たちは気にしなかったのだけれど。
あの子は変わった体験、危ない体験をして少し大人になったのかもしれない。
私の知っているあの子ではなくなっていくようなそんな気がして少し寂しかった。
そんなある日、あの子が川の向こう岸を歩いてくるのが見えた。
そんな! あの子は! でも・・・
気が付いたらあの子を呼んでいた。
私のそばにいてほしい。
もうあちらに居られないのなら・・・
突然のように友人の男の子が現れてあの子を担いで小川から離れようとした。
・・そんなことは・・不可能なはずだ!
あの子の声が響いてくる。
「かあさん! かあさん! かあさん! ・・」
でも友人の子はそれが聞こえないかのように走り続けていた。
「許してよ! コイツはまだ13だ!
アンタの半分も生きてない!
許してよ! 連れて行かないでくれよ、オレの友達なんだよ!
許してよ! オレのせいで死にかけてるって分かってる。
でもあの世界に一緒に居ていいって言ってくれたんだよ! 」
ココにいる私がダレなのかあの友人の子には分かってるんだ!
そう思ったらもう私が居なくてもあの子は大丈夫なんだと
突然のように理解した。
支えてくれる友人ができたのだと。
そうしてソレは突然起きた。
私はあの子に手を振った。
別れの挨拶はあの子に見えただろうか・・
でもコレは私のためのものかもしれない。
どちらの神さまかは私には分からなかったけれど
加護をいただいたことだけは分かった。
消えてしまった二人は多分・・・
いつのまにか隣にあの子達と同じくらいの少年が立っていた。
「もう、よろしいですね?
ココに長くいるのはアナタにとっても良くないことです。
あの子たちは現世に戻りました。
戻れることなど滅多に無いことです。
あれほどこの川に近づいていたのにねぇ。
魔族の神の加護があっても無理なはずのことを
あの勇者の子はしちゃいましたからスゴイですよ。
アナタのあの子は素晴らしい友人ができましたね。」
本当の友人がいれば他に足りないものがあってもあの子は大丈夫だろう。
ココに居ることで子供のように見えるこの方に
迷惑をかけていたのかもしれない。
それをお詫びして小川の岸から離れることにした。
これまでのことは全て白紙に戻るのだそうだ。
でもそれでも、これまでのことはあの子のおかげで満足と納得が
いくものだったと思う。
白紙に戻るというその寸前まであの子の事を私は祈り続けた。