商人(遭難者)。
ソレを手に入れたのは偶然だった。
行商の旅の途中で病死した商人が死に際に世話になったからと
格安で譲ってくれたのだ。
残っていた商品と一緒に。
代金は商業ギルドの口座に振り込んだ。
こうしておけば遺族に届くことになっている。
魔族の国との境にある魔獣の森。
あそこの魔獣は特別強いが取れる魔石も特別でかい。
伝手があって魔族の国の向こうの獣人国への船に乗れた。
アノ国なら人の国よりずっと高値で売れると分かってた。
けれどオレは運が悪いんだろう。
この季節には滅多に来ないはずの大嵐に会ってしまった。
船は大破して海に放り出された。
そこで死んだはずだったが気が付けばフカフカのベッドの上で手当てされていた。
何と! 勇者に助けてもらっていた。
体中が傷だらけの上に手も足も無くなっていた。
助からない方が良かった・・と絶望した。
でも勇者は妙な薬と回復魔法で元通りにしてくれた。
信じられないとはこういう時の言葉なんだと納得したよ。
指一本の欠損の復活でさえ大金を高位の神官にお布施しないといけない。
なのにオレって体中のアチコチが無かったんだ。
自分で動くことすらできなかった。
それなのに完璧に元通りだったんだ。
勇者の弟子らしき子供が色々面倒をみてくれた。
結構マメな子だった。
飲まされた薬のことを勇者に聞いてたけどなんとソレはエリクサーだという。
オレでさえ知ってるおとぎ話な伝説の薬!
・・・お礼のしようがない・・・
持ち物はすべて海の藻屑になった。
残っているのはアノ魔石だけ・・・
でも勇者は受け取ってくれない。
「ソレがなかったらアナタのこれからが成り立たない。
気持ちは嬉しいけど受け取れませんよ。」
それでも・・受け取ってほしかった。
「出世払いでどうですか?」
弟子のあの子が言う。
「聖女さんが孤児院で活動されてるので少しでいいので儲かった時にでも
寄付してもらうということでは? 」
なるほど・・それならオレでもできる。
獣人国に送ってもらって仕事を再開することもできた。
行く先々で少しづつ寄付を続けている。
孤児院は神殿の管轄だけど門前の市場を使わせてもらうのに
許可とかスムーズにいくようになった気がする。
勇者に助けられた話をするとラッキーにあやかりたいと
言って来る客まで出て来た。
大儲けができるほどの商才はオレには無いと分かっている。
でも勇者のおかげで今日も商売ができる。
寄付しに行くと神官様たちや孤児院の子供たちが喜んでくれる。
こっちこそ寄付できることが嬉しいと思えて来た。
さて、客と勇者とあの弟子の子に感謝して今日も商売に励むとしよう。
なんだかんだ言っても商才がなくても商売が好きだと分かってきたからな。