召喚主(貴族)。
先に手を出したのは確かにこちらの、人間の方だった。
でもしょうがないだろう。
だってアイツラは魔族なんだ。
何をするか分からん相手に手加減なんかできるか!
ヤツラは確かに強かった。
手を出したのをすこし後悔するくらいには。
だから勇者を召喚したんだ。
でも出てきたのは妙な絵のついた抱き枕を抱えたガキだった。
こんなので大丈夫かと思ったが意外と使えた。
だがガキなせいか詰めが甘い。
魔族の奴らにうまいこと逃げられる。
押し気味ながら一進一退だった。
そうしてやってきた〔魔族の勇者〕。
間の抜けた顔のくせに無茶苦茶な魔法を使った。
ガキに付けた隷属の首輪も簡単に外した。
国境に造った土魔法の壁は10年持つという。
もっと高くもできると宣言した。
「10年考えてまだ戦争する気なら頑張ってください。
ただし、また勇者を召喚したりしないでくださいね。
今度は見逃したりできません。
この国でも魔族の国でも全部大地に還します。」
異世界から来た〔魔族の勇者〕を名乗っていたが
もしかしたら異世界の〔神〕だったのかもしれない。
人も魔族も平等に扱うなんて魔族にも人にも無理だろう。
少なくともこの世界では・・・
こちらで召喚したあのガキの勇者はどうやら〔魔族の勇者〕の
知り合いだったようだ。
一緒に帰っていったが恨み言を言う訳でも無かった。
詰めが甘いと思っていたがもしかしたらわざと魔族を
逃がしてたのかもしれない。
そう気づいたとき背筋がぞっとした。
大人しくしてたが首輪が無くて逆らえたらアイツは・・・
10年後に勇者を召喚したいと言う者はいなかった。
戦争をまた仕掛けようと言う者もいなかった。
魔族の側も・・・
人と魔族は違う。
違うがお互いに排除してはならない、できない存在なんだろう。
あの〔魔族の勇者〕は「自分達のことは自分達で」と言った。
10年でお互いに少し頭が冷えた気はする。
付き合い方を「自分達で」なんとかしなければならない。
また勇者に頼って「全部大地に還」される訳にはいかないからな。