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体育館の新しい管理人。(夫)

オレは守ってやれなかった。

勇者なのに、、、妻の一人すら守れなかった、、。


そうしてこの川のほとりから動けない。

この川があの川だということは分かる。

渡らなければならないということも。

渡りたいとは思って居ないのだが、、、

、、、なぜオレはココから動けないでいるんだろう?


気が付けば妻が側にいた。泣いていた。

やっぱり動けないようだ。


慰めてやろうと思うのだが声も出ない。

どーしてココから動けないのか、、訳が分からない、、。


いつの間にきたのか息子と同じくらいに見える方が側におられた。

見掛けどーりの方ではないのは勇者のレベルの低いオレでも分かった。


「動けませんか?困りましたね。

ココが何処かはお分かりですね?

う~ん、、動けないのはどうもあなた方の現世への未練って

訳じゃあないみたいですねぇ、、

調べてみますから少しこのまま待ってください。」


待てと言われても動けないのだからこのまま居るしかない。

妻は相変わらず泣いている。

声を押し殺しながら、、、


そーして分かったのは息子のマモルのスキルのせいだということだった。


「本人は無自覚です。

無意識に発動してしまったこういう力は厄介なんです。

解除するのにも意識的なモノより大変なんですよ。


あの世界の担当神が色々手を打ってくれています。

どーするのかは本人次第なところもあるんですが、、、」


妻は息子の思うように計らってやってほしいと言う。

このままココに縫い止められてもあの子の思うようにと。


あの子を愛しているのだ。

ずっと溺愛してきたのだ。

弟妹ができてもあの子への愛が薄れたわけではない。


オレも息子の思うようにとお願いした。

ココで成仏も転生もできずに縫い止められたとしても。


しばらくしたら少し動けるようになった。

でもなぜか川には近づけなかった。

息子は自分のレベルを1に戻してオレ達をココに縫い止めたスキルを

アノ神さま達に封印してもらったんだそうだ。


「まさか今まで営々と積み上げた全てを捨てるようなことをするとは

思いませんでしたね。

しかも彼はためらいもしなかったんですよ。


彼のスキルは禁忌に近いモノでした。

魂の循環を妨げるようなものですからね。

しかも勇者としてのレベルが高かったせいで引きずられるかのように

スキルのレベルも高くなってました。


あなた方への思いが強かったからでしょうが影響が残ってしまいました。

川に近づけないでしょう?

封印は無事にできましたがソレはかなりの期間あなた方を

輪廻の流れに乗せてくれないと思います。


でもこのままココに居てもらう訳にも行きません。

ココはタダの通過点のようなものですから。」


どーすればいいんでしょう?

現世に戻る事なんてできませんよね。

影響が消えるまで居られるところなんてあるんでしょうか?


「あの世界の担当神とも相談しました。

神域の中ならあなた方を保護しておけるそうです。

でもあの世界は大きな神殿は無いんです。


なのであなたもご存じの「体育館」に居てもらおうという提案がありました。

ただ現世への影響は最低限にしないといけません。

息子さん達に会っても他人でいなければなりません。


記憶を消すこともできますがまだ成仏されてませんからね。

残しておくこともできます。」


親だと名乗れなくても成仏するまではあの子たちの親でいたいと思った。

妻も同様だった。


そーしてオレ達夫婦はアノ「体育館」の管理人になった。

ココから召喚されてしまったことも有ったということで

入館退館の確認とか掃除とか息子の友人が育てている薬草類の

水やりといった雑用をしている。


そして息子は切なそうな顔でこう言った。


「あなた方は両親に似ています。

弟と妹はまだ幼いので親が死んだことが分かりません。

時々でいいですから遊んでやってもらえませんか?

小さくて大人になったら忘れてしまうでしょうけど

両親と一緒の時間があったと感じさせてやりたいんです。」


双子たちにはもう会えないと思っていた。

マモルはココに来ることができても双子たちはまだココに来るには幼過ぎるから。

来られる頃にはオレ達はココに居られなくなるかもしれない。

そー思って居たんだ。


だが喜んでいると悟られる訳にはいかない。

特別な計らいでココにいることが許されているのだから。


マモルが修行している間、双子の世話をすることになった。

妻は喜びながら悲しんでもいる。

どーしてこんなことになってしまったのか、、、


「なんでも平等で公平なことなんて少ないよ。

オレにはまだ父さんが居るし君達だっていてくれる。

君のご両親はあそこに居ても現世の存在じゃあない。

しかも君のことも双子たちのことも忘れてる。

ほら、平等でも公平でもないだろ。


 君のほうが幸運なのかもしれないしオレのほうが幸運なのかもしれない。

受け取り方しだいだよ。

ご両親があそこに居てくれるのはラッキーなことだとオレは思うね。」


息子の友人がそー言って励ましていてくれた。

彼は母親がもういないのだ。


ラッキーなこと、、、そうだな、、。

オレ達は死んでるはずなのに多少とはいえ子供たちに関わることができている。

親だと名乗れはしなくても親でいられるのだ。


マモルはなんだか急に大人になったようだった。


それでもまさかあの歳で「親」になるなんて早すぎだろう!

どこかで教育を誤ってしまったんだろうか、、、


マモルはチビだったのに急激に背丈が伸びていった。

チビで生意気なちいさな息子だったのに、、、


そんなに急いで大人になるな!

小さな息子のままでいてほしい、と思っても無駄なことを

思っている自分に気づく。


なるほど、、溺愛していたのは妻だけじゃあなかったんだな。

死んでから気づくなんてバカな親だなぁと思う。


双子たちと遊びながらこの子たちをは多分マモルほどは

溺愛しないだろうとも感じてしまった。

まあ、マモルの時はオレ達も親として「初心者」だったからな。

のめり込むように溺愛していることにすら気づけなかった。


死んだことでマモルとは違う距離ができた双子たちはどんなふうに育つんだろう。

機嫌よくしている双子たちを抱きながらただただ幸せになってほしいと願った。

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