ラッキーボーイを捕まえてウキウキな商人。
この季節にあんな嵐は起こったことが無かったと思う。
何度も通った航路なのになぁ。
船団と言うほどの数でも無かったがそれでも僚船は居たんだ。
だが今は一隻だけ・・
しかも島影が一切見えないなんてなぁ。
海には島が星のように点在している。
だから航海は島を目印に行われるんだ。
三日も島影が見えないなんて場所があったなんて。
マストに見張りが交代で登って行ったがすぐ降りてきた。
密航者だという。
はて？
さっき降りて来て代わりにアイツが登ったんだよな？
誰もその間に登って行かなかったと思うが・・
密航者は子供だったが異世界人で魔術師だという。
まあ、彼が呼び出されたという無人島が分かったので船の現在位置が特定できた。
この船はどうやら島々の微妙な間を進んでしまったようだ。
もうすこしコースがズレていればちゃんと島が見えたはずだと
船長が苦笑いしていた。
明日には港というところでスパクオークスに襲われた。
船員達も戦ったしアノチビな魔術師も戦った。
オレ？ 商人に戦闘力なんか無いよ。
震えて連中の闘いを見てただけだったよ。
風魔法なんだろうがスパクオークスの足は切り飛ばしたし
なんだかわからない衝撃波みたいなものを浴びせるしで
撃退しちまうんだもんなあ・・
あんなスゴイのは初めて見た！
回復魔法も使ってたし海に落ちた船員まで拾い上げていた。
王族とかに雇われてる魔術師でもああはいかないだろう。
船長はなじみのヤツで薬酒用に酒を譲ってほしいというので
コッチにも回すことを約束させて分けてやった。
薬酒のほうが儲かるからな。
納品予定のところにはスパクオークスに襲われたのを
言い訳にしておけばいいだろう。
次の取引の時に埋め合わせれば文句は無いはずだしな。
まあ、あの子の幸運がコッチにも回って来たんだろう。
無事に港に着けたのは有り難いことだ。
嵐で沈んでてもおかしくなかったんだし。
領都までの護衛を雇いにギルドに行ったら彼が居た。
どうやら登録年齢と見てもらえないらしい。
まあ、そのへんは口八丁手八丁の商人に任せなさい！
ということで上手いこと彼を雇うことに成功した。
こういう幸運値の高そうなヤツは居るだけでオッケーだ。
旅は順調だった。
索敵のスキルまであるとは驚いたねぇ。
アレは持ってると軍隊から勧誘がくるくらいなんだ。
オカゲで魔物も賊どもも一蹴だった。
魔術師が火魔法を逸らせてしまって食料がイカレタのには困ったけど
彼はアイテムボックスから食料を提供してくれた。
なかなかアイテムボックス持ちっていないんだよな。
最初に分かってれば色々運んでもらえたかも・・
おっと！ 欲張りすぎると幸運は逃げやすい。
気を付けないとな。
賄い係は故郷の親戚の一人だがハッキリ言ってドジだ。
料理は美味いんだが・・
彼はなぜか色々と手伝っていた。
彼が居るとドジが減った気がするんだが。
魔術師の火魔法で大ヤケドを負ってしまった賄い係に
惜しげもなく上位だと思う回復魔法を掛けていた。
アレって・・神官にお願いしたら大枚のお布施が要るよな。
「仲間の負傷は仲間が治して当然ですよ。
領都までですがオレ達は仲間ですからね。
神官さんよりは下手ですから遠慮はいりませんよ。」
魔術師は得意の魔法で皆に迷惑をかけたと落ち込んでいた。
皆が声を掛けにくく思ってたのにちゃんとフォローしていた。
「乱戦になったらミスがでることも有りますよ。
イメージと集中を明確に保ち続けるってのは疲れますから。
オレも散々師匠に叱られましたよ。
オレは結構色々な属性が使えますけどやっぱり特化した人には
敵わない面がどうしてもあるんです。
威力では負けなくても精度で負けるんですよ。
要するに器用貧乏なんです。
でも常に最高峰の威力が必要って訳でもないですからね。
オレ程度でも役には立つ訳なんです。」
アレで最高峰でないんならどんなヤツが最高峰なんだよ？！
まあ、上には上が居るとは言うけどねぇ。
意外に謙虚なヤツなんだな。
アレくらいできればもっと傲慢になっても当然なんだが。
魔術師は立ち直ってくれたようだ。
チビの彼を気に入ったようで自分の技術を教えたりしてた。
チビの方も自分の応用技なんか披露してたよ。
ああいうのは普通は秘密にしてたりするんだがな。
このコースは領都まで近いくせに整備が足りないし
物資の補給が少ししにくいんだ。
納品期日が迫ってたんだが予定より早く着くこともできた。
チビの彼にはボーナスを弾んじゃったね。
後で聞いたら護衛連中にも分けてたそうだ。
全部合わせたらオレがやった金額より多かった。
食糧の代金も分けたんだな。
自分の事だけ考えててもよさそうなのに・・
彼の言葉どうりならココは彼の世界じゃあないはずだ。
戻ることができればココの世界のことなどどうでもいい事に
なるんじゃあないのか？
それでもちゃんと仕事をしたし期間限定の仲間でもちゃんと助けてくれた。
賄い係も魔術師も護衛達もモチロンオレも皆彼に助けてもらったんだ。
ボーナスを弾むくらいしかお返しができなかったが・・
無事に元の世界に帰れるといいな。
神殿に行くと言ってたからきっと神さまが彼を助けてくれるだろう。
・・・オレもちょっとお祈りでもしておこうかな。
