マモルくんに勝手に勇者にされたヒーローさん。
最初は役者をやりたいんじゃあなかった。
友人がそういうサークルに居て催し物の手伝いをしたのが
きっかけでいつのまにやら引き込まれてたんだ。
ソイツにエキストラのバイトに穴を開けたくないからとか言われて
映画の現場へ見学のつもりで代わりに行ったんだよ。
ソレが最初だったね。
バイト感覚のエキストラは楽しかったよ。
メインじゃあないから緊張はさほどじゃあないしスタッフとか監督さん達とかを
観察するのも面白かった。
全体を俯瞰してみてる気分になれたしね。
ある日の撮影でカメラが廻る直前にビックリして大きな声を出しちゃったんだ。
女優さんの着物の打ち合わせが反対だったんだよ。
アレは反対だと棺桶の中の人になっちゃうんだ。
「左前」と言って経済的ヤバイって意味にもなる。
なんで誰も気付かなかったんだろうねぇ。
大声は怒られたけどすぐ褒められた。
カメラが廻る前だったしね。
まあ、ソレでちょっと目立っちゃって色々役がきたんだ。
端役だけどね。
でもそれなりの収入になったんで卒業したら脇役専門の役者を
目指してみようかなーなんて思っちゃったんだよ。
まさか主役をヤレ! なんて言われるとは思わなかったよ。
まあ、新人監督の二作目だしさほど注目されてる訳でも無い。
子供向けな色合いが強い特撮ものだし主役ってコレだけになるかもしれないしね。
撮影は順調だったよ。
あの日は足首がおかしいような気がしてたんだ。
でも見学に来たエライさん一行とお茶して休憩が終わったら
なんだか足首が楽だった。
おかげで予定どおりに進行したね。
ソレが起こったのは次の休憩だった。
エライさんのお供な子供達と一緒にいたら大道具のスタッフが落っこちた。
えっ?! と思ったら足元が光ってたんだ。
ラノベは読んだことがあるけどそんなことが自分に起こるとは
考えたことすらなかったよ。
結局ダンジョンの攻略をすることになった。
子供達はまだ中学生だ。
オレは一応成人だからな。
なんとか帰してやりたいと思ったんだよ。
意外なことに連中は冷静でなんだかトドメをオレにばかりさせてる気がして
聞いてみることにした。
君たちってもしかしてオレが思ってるより強いのかい?
「アナタの負担にならない程度には。」
「オレたち召喚は初めてじゃあないんですよ。」
「 一応経験はアナタよりあります。」
「あんまり気にしなくてもイイですよ。」
「ダンジョンも初めてじゃあないです。」
「 回復魔法ならお任せを。」
まさかと思うけどオレより強いとか?
「オレ達ホントは勇者の弟子なんです。
師匠には遠く及びませんけどね。」
結局オレって〔勇者〕じゃあなかった。
なんだかちょっと落ち込んだねぇ。
引きこもり魔族やらダンジョンボスやら果ては魔王まで来て
もう頭がゴチャゴチャだったね。
済んだら帰すというのはウソだった。
文句を言ったら首輪が発動してひっくりかえったよ。
まあ、子供達は平気だったんだけどね。
レジストできるように彼等の師匠に仕込まれたんだそうだ。
保護者な気分で居たけど結局足手まといだったと思ったよ。
自分がそんな立場だなんてねえ・・
彼等はオレにほとんどトドメをさせていた。
アレはパワーレベリングだったってことか・・
「ヒーローさんが居てくれたおかげでオレ達は連中の視界外でしたからね。
色々探るのに好都合でした。」
囮くらいには役にはたったらしい。
なんだか納得しにくかったけど仕方ないな。
召喚した連中は帰し方を知らなかったけど子供たちは神さまにお祈りして
帰してもらえるように頼んでいた。
神さまが高校生にしか見えないってどういうことなんだろう?
ともかく帰ってこれた。
気が抜けちゃったよ。
エライさんはあぁいうコトについて説明してくれた。
彼も召喚されたことがあるんだそうだ。
コノ世界とは別の世界のことなんか考えもしないもんなぁ。
体育館は驚きだった。
確かにオレと同じような目にあった人たちがいることが実感できて
なんだか安心したね。
オッサン勇者は長いこと首輪付きでこき使われたそうだ。
帰れなかったらオレもそうなってたのか・・
体験をノートにまとめたのも心を落ち着かせるためだった。
監督に見られるなんて思わなかったよ。
エライさんは上手く監督を誘導してくれたようでアレは
次回作の「味付け」に使うことになった。
まあ、オレの次の仕事は確保できた訳だ。
オレはあの世界でヒーローなんだと思ったけどヒーローはオレじゃあなくて
あの子達だった。
オレがヒーローなのは演技の中だけなんだな。
まあ演技力には最近は自信も付いて来たと思う。
役者の仕事は楽しい。
今はヒーロー役だけど悪役とか脇役も面白そうだと思う。
あの子たちはスタントとか殺陣のモブとかをしている。
なるほど・・身体能力がバレても誤魔化しやすいんだな。
役者になりたい子ばかりじゃあないだろうけど普通じゃあないというのは
苦労も多いだろう。
オレは保護者のつもりで保護されてたマヌケだけどココなら
少しは大人のフリくらいはできそうな気がする。
みんな体が大きいようでも中学生なんだもんなぁ。
まあ、〔タダの中学生〕じゃあないんだけどね。