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『夢見る年月』

作者: 鉄下 学

私は、49歳のおばちゃん。


そう、どこにでもいるような普通のおばちゃん。


そんなおばちゃんにも、ちゃんと旦那様はいる。

ここだけの話、家では「旦那様」なんて可笑しくて言えてません。

けれど、こうして他人様にお話しするときには、「旦那様」。


気恥ずかしいんだけど、この「旦那様」っていう響きが好きなのね。

当人に向っては、何か、余程のきっかけがないと言えないと思うんだけど、手紙や日記には必ず「旦那様」って書くの。


これって、きっと、中学生ぐらいの時からなんだと思うの。

もちろん、まだ今の「旦那様」とは出会ってないわよ。

ほら、少女時代って、「恋」に「恋する」って言うでしょう?

きっと、あれなのね。


友達なんかは、「ボーイフレンド」だとか「彼氏」だとか言ってたけれど、私は「未来の旦那様は・・・・」ってな言い方をしてたの。

笑われたわよ。

今時なによ。古臭いってね。

でも、そう言われると余計に「旦那様」って言葉に惹かれちゃうのね。

だって、私だけが使う私のための言葉って気がしたの。



それだけ憧れていた「旦那様」って言う呼び方なんだけど、結婚後は「よっちゃん」。

そうなの、気がついたら、友達として5年も傍にいてくれたの。

「そろそろ結婚ねぇ」なんて、親にも言われるし、会社でも「結婚はまだなの?」なんて言われるし。

で、あるとき、その「よっちゃん」に言ったのね。

「私の旦那様になる勇気ある?」って。

そしたら「よっちゃん」がね、

「旦那」にだったらなれると思うけど、「旦那様」じゃあなぁ。

って言うのよ。

「よっちゃん」の方が2歳年下だったからね。


それで、まあ、何とか、人並みに「売れ残り」寸前に結婚したんだけど、

結局は、結婚前の「よっちゃん」が暫く続いたの。

そして、子供が出来て、それで「よっちゃん」も恥ずかしいって言うから、

「お父さん」になったの。

「パパ」という選択肢もあったんだけれど、これは2人ともパス。

で、「お父さん」で決まり。


それから23年。ずっと、「お父さん」。

ホント、あっという間よね。



その娘も、昨年結婚。

来春には子供も出来る予定なの。



でね、私、今朝、「お父さん」に言ったの。

孫も生まれるんだし、「お父さん」って呼び名も変えない?って。


そしたらね、「お父さん」、「おいおい、お爺ちゃんだけはやめてくれよ」って。

私もそんなつもりはなかったわ。

第一、彼、まだ47歳だもの、「お爺ちゃん」はさすがに気の毒。


でね、私、遂に言ったの。

じゃあ、「旦那様」でいい?って。


「お父さん」、びっくりしてたけど、新聞を読む振りをしながら、

「様」を付けてくれて有難う、って。


もうすぐ、その「旦那様」が会社に出かける時間なの。

恥ずかしいんだけれど、三つ指ついて、「旦那様、行ってらっしゃいませ」って言ってみたいの。



(完)



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― 新着の感想 ―
[一言] 鉄下 学様の小説は長いのが多いので中々読みきること出来ません。まずは短いのからとこの作品を読ませていただきました。こういったさりげない人生の一幕を上手く切り取られているのに感心しました。何気…
[一言] 暖かくて優しくって、それでいて女性特有の綺麗で可愛らしい部分の描写が光るなぁと感じました。 実は私も"夢みる"と言ったタイトルでほぼ同時期に短編を書いていたもので、それでつい、拝借させて頂…
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