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ロゴスなき世界  作者: ジョナ3
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プロローグ

 それは本当に何の変哲のないよく晴れた日だった。

 いつも通りの退屈な授業を受けて、いつも通りに部活に行って、いつも通りに下校する。

 山上にある学校から町を一望できる坂道を降りて、最近開発が進んだ町を抜ける。

 この町をなぞるように走る線路を持つ鉄道会社が、より電車を利用する人間が増えるように土地開発を進めたのだ。

 それまでは取り立てて何もないただの田舎町だったわけで、電車も降りてくる人よりも出ていく人の方が多かった。

 しかし、駅前に出来た巨大ショッピングモールはすでにこの沿線の中でも最大規模を誇るようになり、映画館が出来た日には各地から客が来るようになった。

 かつてはなかった高層マンションや、住民の増加から様々な会社がこの町に店を構えようと集まり、近年では珍しく人口が増加する町になった。

 そんな町の中心から外れ、県境にある田園を抜けるとある古いアパートがぽつんと山沿いに立っている。

 そこが我が家のかすみ館である。

 築40年の古い木造の集合住宅は下宿屋と称したほうがふさわしく、取り壊されることなくいまも残っているのは大家の道楽故だという。

 貸部屋の総数は5、トイレや風呂、台所などの水まわりは共同、あまりに前時代的な建築物は化石館などと近所の住民には言われている。

 アパートの真後ろはすぐに山なので虫がよく飛んでくるし、周り一帯は空き家も多く、あまりの静けさに少し離れている電車の音も善く聞こえる。

 電柱も少ないために夜には本当に現代日本の平野地かと思うほど暗いし、買い物に行くには別に手間というほどでもないが時間もかかる。

 しかも難儀なのは立地だけでなく、その内装もである。

 俺が住むまで誰の手も入れられなかったその地獄は、蟲と埃と傷みの三重苦に苛まれており、それを一から片付け現代人が住むにふさわしい状態にするのには一月かけた。

 屋根の瓦はボロボロですぐに雨漏りするし、戸や窓は隙間風が入るものだらけ。

 水道やガス管は完全に死亡して素直に読んだ両会社のおじさん達の顔は引き攣っていた。

 かろうじて電気系統が生きていたのは幸いだが、おおよその下宿屋の半分ほどの馬力を出すので精一杯で、ブレーカーは簡単に落ちてしまう。

 そんな絶望的で、先進国日本の平成民族若者を担うにはどう考えても役不足。

 俺はその排他的下宿型アパートかすみ館201号室の住民である。

 当然、俺以外には住民はいないのだが、下宿屋なのに大家もしくは管理人は入居せず、入居希望者も誰もいない。

 だというのに下宿屋に俺が住んでいる理由はというと、このかすみ館が元々ここ一帯の地主だった我が家所有物だったからだ。

 他に誰もいない理由はこの俺の数少ない趣味として存在する読書と家庭環境が理由である。おおよその小遣い全てをつぎ込んでこの趣味に没頭している俺の実家の部屋は、すでに本に占拠され寝る場所も確保するのに困難を極めるようになった

 しかし読みたい本は年々増えていくばかりで、高校でバイトを始めては歯止めもきかずに増加する。

 そんな俺にとってこの話は渡りに船だったわけだ

 まぁ、話に聞いたときはあんな惨劇的な状態だとは夢にも思わなかったわけだが

 しかし、何として住めるようにまで改善できた以上、俺はこの空きスペースをふんだんに使って本を収納していった。

 おかげで五つある部屋は一年ですでに二つも埋まってしまった。

 様子を見に来た母もこれには苦笑を隠さなかったが

 そしてもう一つの理由の家庭環境の話だが

 実家でも作家をしている父は、家にいるが家事能力は皆無で、その父を抱える出版社の編集者として働く母はあまり家にはいないことが多い。

 妹がいるが二歳も違えばまだ十分に幼い。

 必然的に俺は小さい頃から家事を手伝い、いつしか母に代わって全権を取り仕切るようになった。

 煮詰まった父の気晴らし六時間トークや、仕事から帰って我儘を爆発させる母の相手、甘えたがりの妹の相手をしながらの生活は異常に充実していて別に嫌いだったわけではなかったのだが

 その分他の若者達とよりも自由時間は少なく、あまり友達とどこかに遊びに行くことは少なかった。

 その様子を快く思はなかった母は、妹が中学生にもなり、自身の仕事も落ち着いたことと、先程の税金 対策を理由におれをここに住まわせた。

 本当に俺なしでやっていけるのかは疑問だが、何とかすると母は豪語した。

 父親は話し相手がいなくなってしまうのに大反対だったが、母親の一睨みで黙った。

 そんなこともあって、俺は高校生となった春からこのかすみ館に住みはじめ今年で二年目になるわけだ。

 そんな俺の高校生活二年目、何の変化もなく過ぎていった一年目をしり目に、事は起こった。

 正直に申し上げて、今後の人生においてもおそらくこれを超える珍事は起こらないと確信している。

 もし起こったとすれば、それは神の現世降臨レベルだと思う。

 本当に、それだけの事件が起こったのだ。

 その事件が起きたのは、やはり何の変哲もないある善く晴れた日の夕方。

 学校での部活も終わり、友人と別れを告げて帰宅している最中に起こった。



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