いざ行かん、町へ!
早速着替えた私は複雑な気持ちでゲンさんの前に立っていた。
「ふむ……なんというか」
言いにくそうにしているが、ゲンさんの言いたいことはわかる。ものすごくわかる。
「ちょっと小さかったですね……」
そう……
着 物 が ち ん ち く り ん な の だ ! !
下の裾は弁慶の泣き所あたりまでしかなく、袖は七分丈である。
ちなみに私は163㎝と現代ではいたって平均身長である。
断固として主張させてもらうが、決して巨人などではない。
だがゲンさんは腰が曲がっているためはっきりとはわからないが、だいたい150㎝前半代といったところだ。
いくら若いころのものでも丈が合うはずはなかった。
「仕方ないですし!行きましょう!町楽しみだなー」
苦笑しながらゲンさんに早く行こうと促す。
最後が若干棒読みではあったが、これ以上策もなかったためかゲンさんも薬箱を背負う。
「そうだね。日が暮れる前に帰らなければならないし、早く出なくてはの」
そう言って外に出るゲンさんの後に続く。
戸を閉めたゲンさんは、なにやら板に文字が書かれた立札を戸に打ち付けてあった釘にかけた。
「それ、なんて書いてあるんですか?」
「ああ、これは出張中と書いておる。たまにおるんだよ、この家まで赴いてこられるお客が。そういうお方はだいたい文字が読める方ばかりだから、こうして立札で不在を知らせておくと、出直してくれるんだ」
「へえー、なるほど。そういうことなんですね」
わざわざこの家まで赴く人がいるのか……。
しかもこの時代、識字率はそんなに高くないはず。
結構身分の高い方も来られるってことなのかな。
「さて、町までは走っていくが大丈夫かの?」
「大丈夫です! こう見えても根性はあるんで」
ゲンさんの走るスピードなら遅れをとることもないだろう。
……そう思った時期が私にもありました。
「ほっ、ほいっと」
獣道を軽快な足取りでサクサク進んでいくゲンさん。
とてもご老体とは思えないそのスピードは、私を置いていかない程度に加減しているのだろうな、という余裕が感じられる。
一方の私は、ついていくのがやっとだ。
なんだあの人超人か!?
いくらなんでも元気すぎるだろう!
あの小さく、腰もまがった体のどこにそんなエネルギーと体力があるのか。
ゼェゼェと息切れしながらスタミナ切れを起こしかけている私とは大違いである。
それでも置いていかれまいと必死に足を動かすこと20分と少し。
「着いたぞ。ここが町だ」
目的地に到着した。