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携帯が鳴った。
「はい――はい、そうです」
電話は、ビルの管理室からだった。ちょうど一階に降りたばかりだった白崎は、回れ右して進行方向を変えた。
「――何も? わかりました、連絡を取ってみます。ええ、とにかくすぐそちらに伺いますから。ええ……では後ほど」
通話を切ってから、白崎は廊下の壁にもたれて自社に電話を掛けた。コール二回で、応答があった。当然、蔵石だ。
「はい、立原技研です」
「白崎だ。立原はいるよな? 繋いでくれ」
「はい、少々お待ちください」
隣の部屋にいる人物に繋ぐには長すぎる時間が経って、ようやく立原の眠たそうな声が聞こえた。
「はーい。どうした? 何か見つかった?」
「見つかったと言えば見つかったな」
「え、ほんとに?」
眠気が吹き飛んだらしい声に満足して、白崎は頷いた。
「もっと驚け。ものすごい偶然で鎮森さんに会ったぞ」
「え……そこで?!」
「バーゲンに来てたそうだ。買い物は終わってたから、ついでに見てもらうことにした。いま例のカメラの所にいるはずだ。よかったな」
「よかったなって、それはそうなんだけど……」
あれほど琴美を呼べと騒いでいた割には、立原の声は浮かない。
「嬉しくないのか? 来て欲しかったんだろ」
「あのさ、暁。それって、ちょっとできすぎじゃないか?」
廊下の向こうから人が来たので、白崎は声を落とした。
「お前もそう思ってくれて嬉しいよ。実際、今、急にカメラが写らなくなったって言ってるしな」
「写らない? 全部?」
「いや、四階のだけだ」
「……もしかして、そのカメラの前に鎮森さんがいたりするわけ?」
「いるな」
白崎は天井を見上げた。二つ上のフロアの様子は、直接出向かない限りわかりようが無くなった。
やれやれと、立原が珍しくため息を吐くのが聞こえた。
「また鎮森さんは、俺たちには見えない誰かと話をしてるのか」
「あるいは、鎮森さん自身が故障の一因なのかもな」
「ああ……そういう方向もあるね」
完全な証明がされないうちは、立原は否定も肯定もしない。それは時に、機械じみた冷たさに見える。
「とにかく監視室にこれから向かうから、また掛け直す」
今度はすぐに電話に出ろよと言い置いて、白崎は通話を切った。