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序章 終

 日が暮れた。

 空は既に暗く沈んでいる。星々が輝き、月が大地を照らす。もう、なんの明かりもなしでは、まともに歩くことも困難だ。そんな頃になって、山から下りてくる影が二つ。他に誰がいるはずもない。それは、ラクトにエリナだった。

「……殺されるな、俺」

 暗がりで、その表情をはっきりと伺うことなどできようはずもないのだが、しかしこの時、間違いなくラクトの顔は青ざめていた。

「諦めなさい」

 そんな彼にかけられる言葉は無慈悲そのもの。しかし、それも仕方なきこと。なにせここまで遅くなったのは、ラクトに原因がある。上の方で幾分か体力を回復させてはいたのだが、芯に残る疲ればかりはどうしようもなく、やはり登りと同じでのろのろと、その歩みは亀そのものだったのだ。

「人生をそう簡単に捨てられるかよこんちきしょうめ」

 真っ直ぐに町を目指すエリナとは別に、ラクトは道を外れていく。

「どこに行くの?」

「さぁ、どっか。とりあえず、今日は家に帰らねぇ。つか帰れねぇ」

 それは特別なことでもなく、ありふれたこと。理由は様々ではあるも、昔から色々とやらかしているラクトは、その都度、家に帰らずそこらで寝起きすることが何度もあった。

「じゃな、また明日。その……なんだ、よろしく言っといてくれると助かる」

 昔から繰り返しているだけに、安全に、より快適に眠れる場所というのをラクトは心得ていた。その足取りは確かであり、見送るエリナも、そう心配することなくその後ろ姿を見送った。

 昔から繰り返し、眠る場所の目星も付いている。それは逆に言えば、つまりはだいたい寝泊りする場所は決まっているということ。実のところ、寝泊りしている場所のほとんどが把握されているのだとは、しかしまだ一度も踏み込まれていないが故に、ラクトは知らぬ事実であった。

 今度ばかりは、そうとはいかぬやも知れぬ。エリナは、夜の闇に消え行く影に苦笑いを向けて、歩き出す。目指すは我が家。ラクトの言うところの熊親父――つまりは自身の父と、母の待つ、帰るべき場所へ。



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