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お店の中にあるREIの私室では、テレビが朝っぱらから中央広場での殺人事件を繰り返し報道していた。
その映像を見るわけでもなく聞き流しながらREIは雑誌を捲りつつ、コーヒーを啜る。一口飲んで顔を顰めた。
やはり市販のインスタントは美味しくない。
と、裏口から樋口の「おはようございま〜す。」となんとも間延びした眠そうな声が響く。
「あれ?今日どうしたんすか?いつも魔物みたいな格好だけど今日はさらにも増して魔族っぽいですよ。」
「君は常にセンスゼロな発言をするが、今日は一段と頭が悪い発言だぞ。私は今日くらい静粛に喪に服そうとしているのに、なんだ君の格好は。」
樋口はいつも通りの出勤姿で、グレーのパーカーにジーパン姿、おまけに寝癖つきの頭となんだか冴えない。
対してREIは黒魔女のような服装だった。胸元に黒薔薇をあしらったレースがたっぷり使われたワンピース。黒い長手袋に編み上げタイツ。黒のパンプス。ベール付の黒帽子で顔の半分覆っている。
「えっ、誰かお知り合いでも亡くなったんですか?」
「君は朝テレビも観ないのかい?だから流行にも遅れるのだよ。まあ、流行ほどくだらないものもないがね。」
そう言ってREIはチャンネルを切り替えた。ちょうど切り替えた先の報道番組が広場の事件を取り扱っていた。
昨日のお客の顔が加害者としてテレビにアップして映されたとき、樋口は思わずテレビにしがみついていた。
「ええええええ!?なんで、なんで彼女が!!」
「樋口くん。うるさいよ。それよりコーヒー淹れ直してくれ。」
樋口はキッとREIを振り返り、「それどころじゃないですよ!俺たち昨日本当の自分を見せてあげるなんて言って彼女の犯行の後押ししちゃったんじゃないんですか。」と叫んだ。
「それはないから安心してコーヒーを淹れたまえ樋口くん。」
REIは再び雑誌に目を戻しながら、答えた。
「私が服をコーディネートしていた時、私はバッグも提供するつもりだった。しかし彼女はガンとしてバッグだけは変えようとしなかった。よほど愛着があったのか、またはそれほど他人に知られたくない大事なものが入っていたのか。さらに言うと彼女はバッグを絶対に斜めに持たないよう気をつけていた。テレビで報道されていたあの刃渡り20cmのナイフがあのバッグに入っていたなら斜めにバッグを向けたら刃先か柄の部分が覗いてしまうからね。だから彼女はここに来る前から覚悟を決めていて殺すつもりだったのさ。」
「ははぁ・・なるほど。」
樋口は顎に手を当てて唸り、そういえばあのナイフ入りのバッグを自分がロッカーから出し入れしたのだと思い出すと顔を青くさせた
。
そんなに表情を変えて疲れないのかね、とREIは呆れながらテレビに目を向ける。アップされた平山美咲の顔は生気に溢れ、一段と美しかった。
「やはり私の腕は、素晴らしいな。見なさい、彼女、質の悪い映像でもあんなに美しく映っている。」
「なに言ってるんすか。あ〜あ、美咲さん凄いタイプだったのになあ・・・恋人との縺れが原因でってのがまたショックだ。」
すっかり肩を落とした樋口にRElは意味ありげな笑みを浮かべた。
「樋口くん。覚えときなさい。女は男のために美しくなるものだ。愛され尽くされた時と愛する男に裏切られた時、その美しさは頂点に達する。男は女を美しくする材料でしかないということだ。」
ええ、なんか男に対して酷くないすかそれ。
樋口は口を尖らせ、コーヒーを淹れに席を立った。
1人になった私室で、REIはテレビの向こうにいる平山美咲に微笑む。それは今、最も美しいシンデレラを祝福するに相応しい笑みだった。




