八朔
大阪空港は雨だった。
気温は京都とそう変わらない。
リムジンは、いつもの場所につけてある。
黒澤修二は、手にした八朔を皮ごとかじった。
が、その皮をすぐに手のひらに出すと、近くにあったゴミ箱に八朔ごと捨てた。
もっとジメッとしているかと思った大阪だが、涼しい風が吹いていた。
黒澤は、ポケットからペットボトルを取り出し、薬を飲んだ。
「大阪から京都までは、けっこうかかりますぜ」
リムジンに乗り込むと運転手は言った。
「何年目?」
黒澤は運転手に聞いた。
すると運転手はすぐに「3年目」と答えた。
(合格)
黒澤はシートに寄りかかった。
「いい時間ですから」
運転手の声に黒澤は目を開けた。
ナビゲーションは、延々と赤く染まっている。
京都に近づくほどに、雨は止んでいた。夕暮れせまる時、黒澤は目の前にあるビルを眺めた。
まだ十五だ。時間はたっぷりあるかと思いきや・・・。
「おなごはどこにでもいるじゃけ」
父親の言葉を思い出す。
「じゃが、花は一人きりじゃけん」と黒澤はつぶやいた。
(一人で運転できねぇかな)
黒澤は思った。
歳は十八、まだまだ若い黒澤は、ふと花の裸を想像してみた。
バックミラーで運転手と目が合う。
だんだんと闇に包まれて来た高速道路だが、クラクション一つならずに静かだ。
突然車が動き出すのだが、またすぐに止まるを繰り返しているうちに、「次で降りましょうか?」と運転手は言った。




