表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キュンマグ!  作者: てきてき@tekiteki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/26

計画と選択

 「僕なら、榊と新田、一緒に遊ぶ計画を立てるかな」


 中村は、できるだけ軽く言った。


 机の上で軽く指先を組む。

 窓から差し込む光が、その影を机に落とす。


「へぇ〜?」


 有本の眉が上がる。


「天聖院なのに、

 選ばれる側じゃなくて“一緒に遊ぶ計画”立てるんだ」


 面白そうに笑うが、目は細く観察している。


「それってさ、決めないってこと?

 それとも、“場を作る”ってやつ?」


 千代田はすぐには答えない。

 ほんの一瞬だけ視線を落とし、考える。


「それ、優しい案だと思う」


 柔らかい声。

 でも、すぐ続ける。


「同時に、一番ややこしくなるやつでもある」


「出た、千代ちゃんの分析モード」


 有本が茶化す。


「だって」


 千代田は中村を見る。


「一緒に“遊ぶ”ってさ、

 勝ちも負けもない顔できるでしょ」


「でもその分、

 “どこに立ってるか”が分からなくなる」


 教室の後ろで椅子が擦れる音。

 誰かが大きな声で笑う。


 でも三人の机の周りだけ、空気が濃い。


「確かに」


 有本が頷く。


「楽しいとこだけ共有するやつだ」


「……うん」


 千代田は少感心した様子。


「中村がそれ言うの、すごく“中村らしい”」


「褒めてる?」


「半分はね」


 すぐに視線を外す。


「もう半分は……

 覚悟、足りてるのかなって思った」


 中村の喉が少し鳴る。


「覚悟? 遊ぶだけで?」


「ん?遊ぶ“だけ”で済まない時があるから」


 その言葉は静かだが、揺れない。


「中村が立てる計画って、

 誰も傷つかない顔してるけど」


 中村を見上げて。


「実は一番、誰かの期待を育てやすい」


「……重っ」


 有本は笑うが、目は真面目だ。


「じゃあさ、中村、

 もしそれやるとしたら誰が一番楽しむ想定?」


 わざと間を置く。


「あたし? 千代ちゃん?

 それとも……」


 大きい瞳で中村を見る。


「中村?」


 ほんの一瞬、静寂。


 苦しさからの苦笑い。


「ゲストを楽しませてこその主催者だろう?

 それはお二人をね」


 言い切る。

 少し誇らしげに。


「……うわ、出た」


 有本が笑う。


「その言い方、ずるくない?

 “いい人の顔”しながら逃げ道全部塞ぐやつ」


 でも、口元は少し楽しそうだ。


「主催者ムーブは完璧だけどさ」


「それ言われると、

 楽しむかどうかまでこっちの責任みたいになるんだよね」


 中村は手を広げて“まぁまぁ”と言いたげ。


 千代田はゆっくり息を吸う。


「“お二人を”って言い方、

 ちゃんと距離取ってるつもりなんだろうけど」


 再び目を上げる。


「私からすると、

 まだ“まとめて扱ってる”感じはする」


 その目に、中村の背筋がわずかに固まる。


「責めてないよ、ただ……」


 ちょっと目を伏せながら。


「中村が主催者に回る時って、

 自分が一番“安全な場所”に立ってる」


 再び中村にフォーカスがあう。


「楽しませる側って、

 選ばなくていいから」


 教室のざわめきが、遠く感じる。


「なるほどねぇ」


 有本が軽く頷く。


「じゃあ逆に聞こ。

はい!」


 手を挙げる真似。


「主催者・中村くん」


 中村は咄嗟に顎を引く。


「もしその場でさ、

 どっちかが“楽しくない顔”してたら、

 どうするつもり?」


「……うん、それ聞きたい」


 千代田の目は逃がさないやつの目だ。

 

「え、えっと……」


 中村は笑う。


「そ、そんな事はありえないから。

 うん、大丈夫だよ! 任せて」


 早口。


「杞憂ってやつ」


 言った瞬間、自分で少し後悔する。


「……あー」


 有本が笑ってから止まる。


「それ言うとさ、

 余計に“起きるやつ”なんだよね」


「うん」


 千代田は即答。


「“ありえない”って言葉、

 中村が使うときって――」


 中村は千代田の目が見れない。


「だいたい、もう想像しちゃってる時だと思う」


 中村の指が机をトン、トンと軽く叩く。


「今ちょっと早口だったでしょ?わかるから」


「だって“取り繕った”って顔してたもん」


「杞憂って、考えすぎる人が

 自分に言い聞かせる時に使うやつだよ」


「経験談?」


 有本は小さく笑う。


 でも千代田の目は真剣。


「“任せて”って言われるとね、

 安心する人もいるけど――」


 少しだけ言葉が揺れる。


「私は、“どこまで任されてるのか”分からなくなる」


「任せるって、

 責任ごと預けるって意味でもあるでしょ」


「もし誰かが楽しくなかったら」


 目の奥を覗き込む様な瞳。


「それ、中村の失敗になる?」

「それとも――私たちの我慢になる?」


 その瞬間。

 教室の音が遠のいた。


 中村は答えを探す。


 冗談で流すか。

 真面目に答えるか。


 選ぶ時間が、伸びる。


 有本が言う。


「……中村、今の質問、結構大事だと思うよ」

「答え、ちゃんと用意してた?」


 ほんの少し、挑戦的。


 中村は笑う。


「僕を1日好きに使っていい券、差し上げます」


 静止。


 空気が凍る。


「…………は?」


 有本がゆっくり瞬きする。


「え、ちょっと待って」

「今の、聞き間違いじゃないよね?」


 口元は笑っている。

 でも声は一段落ちる。


「“一日、中村を好きに使っていい権”?

 それ、賞品って言い方していいやつ?」


 千代田は、笑わない。

 視線も逸らさない。


「……中村」


 空気が変わる。


「それさ」


 冷静な口調が効くやつ。


「“楽しませるための冗談”として言ったんだよね?」


 中村は軽く笑おうとする。


「まぁ、冗談だよね」


 有本も続ける。


「中村そういうとこあるし」


 でも、千代田の顔を見て止まる。


「でもね」


 声は低い。


「それ、“主催者”の立場で言う言葉じゃない」


 はっきりと。


「自分を賞品に出すってことはさ」

「誰かに選ばせるってことだから」


 有本の目がわずかに見開く。


「しかも」


 千代田は続ける。


「今の中村、

 “誰が勝ってもいい顔”してない?」


「どっちかが取る前提で、言ったでしょ」


 中村の喉が詰まる。


「有本」


 名前を呼ばれて、有本が止まる。


「これ、冗談で流したら

 一番ズルいの、私になる」


 深く息を吸う。


「中村、今の、撤回する?」


 ほんの少し声が揺れる。


「それとも――」


 中村は喉を鳴らす。


「本気で“選ばせるつもり”だった?」


 教室のざわめきが戻る。


 でもこの三人の間だけ、

 時間が止まっている。


 中村の中で、

 逃げるか、向き合うかの葛藤が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ