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キュンマグ!  作者: てきてき@tekiteki


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借りたマンガ

 中村は、千代田に借りたマンガを開く。


 「モテモテ男子は「天聖院」ね。

 まぁ、大層な名前だこと。

 あとは、ハツラツ女子「榊」っと。

 新田は、おとなしい子なんだなー。

 へー、見事にこれ、王道展開だな。」

 

 なんて感じだ。


 

 「ふーん、三角関係ねー、

 これはこれは大変だ」


 なんか人ごと。


 そして、その中の何気ない一話が、

妙に心に残った。


 

ーーー


 タイトル『恋はいつもトライアングルマジック』


 第十二話 お子様セット?


 放課後のファストフード店。

 夕方前、客足が少し落ち着く時間帯。


 新田は、端の席に一人で座り、マンガを読んでいた。

 テーブルの上には、冷めかけのポテトと、半分ほど残った紙コップ。


 この店は、一人でも入りやすい。

 だからここにいることに、特別な意味はない。

 少なくとも、新田自身はそう思っていた。


 ページをめくった、その時。

 視界の端に、影が落ちる。


「……あれ? 新田じゃん。何してるの?」


 榊だった。


「マンガ。ちょっと時間あったから」


「へー。相変わらずだね」


 深い意味のない声。

 いつも通りの距離感。


 榊は新田の向かいに座ることはせず、立ったまま、軽く覗き込むだけだった。

 それが、自然だった。


 その光景を、店の外から天聖院が見ていた。


(あ、榊。こんなところで)


 足が止まる。

 声をかけるか、少し迷う。


(今、行く?

 ……いや、どうだ?)


 考えているうちに、榊が店の中へ入った。


(あ、入った。

 じゃあ……行くしかないか)


 天聖院は、ほんの少し間を置いてから、店に入った。



「あ、榊。こんなとこで会うとは」


「おー。奇遇だね」


「……なんか奢るよ」


 自分でも、雑な理由だと思った。


「え、いいの? ラッキー」


 会話は、そのまま自然に流れていく。


 榊が、ようやく新田の存在に気づいた。


「じゃあさ、新田にも奢ってあげなよ」


「え?」


「いや、もう食べてるじゃん」


「ケチだなー」


「……じゃあ、新田。何か食べる? 奢るけど」


「い、いいよ。ほんとに」


 即答だった。

 必要以上に、はっきりと。


 けれど、その視線がふと、カウンターの写真に止まる。


 ――お子様セット。

 ――小さなおもちゃ付き。


 新田は、ほんの少しだけ考えた。


「……じゃあ」


 二人が、同時に顔を向ける。


「お子様セット、欲しい」


「え!? まじか?

 ここで俺に恥かかす気か?」


「なにそれ。面白いじゃん!」


「早く! 私はテリヤキのやつね」


「はいはい……」


 天聖院は、諦めたように立ち上がり、カウンターへ向かった。



 トレーが戻ってくる。


 新田は、子供用の箱を開け、

 中からおもちゃだけを取り出した。


 小さな、にこにこ笑っているおもちゃ。


 新田は、箱の中のバーガーとポテトを、

 そのまま天聖院の方へ差し出した。


「これ、食べて」


「え?」


「私は、これが欲しかったから」


「……それでいいのかよ?」


「うん。欲しかったから」


「よかったね」


 新田は、おもちゃを両手で包むように持つ。



「でさ、聞いてくれよ」


「またその話?」


「俺さ、何も悪くないのに――」


 始まる、いつものモテ話。


 榊は慣れた調子でツッコミを入れる。


「それ、自慢って言うんだよ」


「違うって!」


 二人は笑う。

 店内の空気も、軽い。


 新田は、その横で静かに聞いている。


 相槌も打たない。

 話に割り込むこともない。


 ただ、

 おもちゃを大事そうに持っている。


 最後のコマ。


 テーブルの上。

 紙袋。

 空になったお子様セットの箱。


 新田の手の中には、

 にこにこ笑っているおもちゃ。


 そのすぐ横で、

 新田の口元も、ほんのわずかに笑っている。


 けれど、

 視線は榊の方に向いている。


 楽しそうに話す榊。

 それを受けて笑う天聖院。


 新田は、ほんの一瞬だけ、

 羨ましそうな表情をする。


 おもちゃは、

 ずっと笑っている。

ーーー


 中村は、その表情を見て、

 ある人物を思い出さざるを得なかった。


 「三角関係って、辛いな」


 今度は、人事の口振りではなかった。

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