秩序の影、混沌の牙
### 秩序の影、混沌の牙
東京の夜は、やはり忙しい。
ネオンの光も、人の喧騒も、すべて裏側では意味を失う。
「春日、聞いてる?」
渋谷の声で、現実に引き戻された。
俺はスマホを持つ手を止め、彼女を見る。
「何?」
「秩序派の動き。奴ら、俺たちが動いた瞬間から全て追跡してた」
「……マジで?」
「ええ」
渋谷は淡々と報告する。
「新宿の件以降、東京中の刀使いに通達が出てる。
欠番を捕まえろ、と」
「捕まえるだけ? それとも、殺せ?」
「ケースバイケース」
軽く言うけど、背筋が凍る。
つまり、俺は標的だ。
「で、混沌側は?」
渋谷は、眉をひそめる。
「静観。
だけど……こちらを利用する気配はある」
「利用?」
「欠番の動き次第で、戦局が一変するから」
なるほど、わけが分からない。
俺は刀を握りしめた。
――欠番だから、すべてが中心になる。
「春日、これからどうする?」
「……作戦?」
「観察は続ける。
次の戦いまで、準備しろ」
「次の戦い……って、敵は誰?」
「分からない。
でも、確実に言えるのは一つ」
渋谷は、外を見た。
「今のうちに学べ。
欠番は“中心”だから、逃げる時間は少ない」
「……逃げないけど」
「それでいい」
沈黙のあと、渋谷が口を開く。
「情報戦も重要だ」
「情報戦?」
「刀使いの世界では、戦う前から勝敗は決まってることもある」
「どういうこと?」
「噂、記録、流言。
敵味方の心理、街の概念……全部利用できる」
なるほど、戦闘だけじゃないのか。
「つまり、俺たちは次の戦いまでに、
東京の裏側を理解しろってことか」
「その通り」
渋谷が、微かに笑った。
「春日は、刀の力だけじゃなく頭も使うからね」
「……それ、褒めてる?」
「事実」
そのとき。
――ピコン。
スマホが震える。
「来た」
渋谷が画面を見る。
「秩序派からのメッセージ。
“欠番へ、話し合いの場を再設定。
安全は保証する”」
「前回と同じだな」
「でも、今回は条件が違う」
「どんな?」
「場所が、中央区。公開区域」
――人の目がある。
つまり、罠ではあるが、秩序派としての“顔”を立てる行動だ。
「どうする?」
俺は刀を握る。
「行く」
「理由は?」
「戦わずに済むなら、可能性を試す」
渋谷は、頷く。
「作戦を立てる。
でも、念のため戦闘準備も」
「当然だな」
夜の東京を歩く。
ネオンが、裏側の影を映す。
「春日、覚えておけ。
欠番は狙われる。
逃げることも、戦うことも、選択次第で運命が変わる」
「分かってる」
「……でも」
渋谷は、一瞬だけ迷いを見せた。
「私も、あんたを失うかもしれない」
「……」
言葉にならない。
でも、心は決まっていた。
――逃げない。
欠番として、この街の中心に立つ覚悟はできている。
その夜、東京の灯りが一層冷たく光った。
――次の戦いは、もうすぐだ。
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