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『十二都刀戦(じゅうにととうせん)』  作者: 匿名希望


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逃げる理由、戦う理由



### 逃げる理由、戦う理由


肩の傷は、思ったより深かった。


「……縫うよ」


渋谷が言った。


「医者みたいに言うな」


「応急処置は慣れてる」


「それが一番怖い」


使われなくなったビルの一室。

裏側と表側の境目みたいな場所で、俺は床に座らされていた。


「動かないで」


「はいはい……っ」


痛い。


「新宿、殺さなかった」


渋谷が、ぽつりと言った。


「……うん」


「迷った?」


「した」


正直に答える。


「斬れば、終わったんだろ」


「多分」


渋谷の手が、一瞬止まる。


「じゃあ、なんで」


答えは、すぐには出なかった。


しばらく沈黙してから、俺は言った。


「消えるのが……嫌だった」


「誰が?」


「俺が見てる前で、誰かが」


渋谷は、何も言わない。


「新宿はクズだと思う」


「同意」


「でも、あいつが消える瞬間を想像したら……」


言葉が、詰まる。


「……俺、耐えられない」


渋谷は、縫合を終え、糸を切った。


「優しいね」


「褒めてる?」


「事実」


彼女は、立ち上がる。


「でも、この世界じゃ致命的」


分かってる。


「なあ、渋谷」


「なに」


「俺、逃げたい」


言葉にした瞬間、胸が軽くなった。


「東京から?」


「この戦いから」


渋谷は、少しだけ目を細めた。


「逃げられない」


「……だよな」


「でも」


彼女は、窓の外を見る。


「逃げたい理由は、聞く」


「……」


俺は、拳を握った。


「また、誰かが消えるのを見るくらいなら」


「?」


「俺が消えた方が、マシだ」


空気が、凍った。


渋谷が、ゆっくり振り返る。


「それ、本気で言ってる?」


「……分からない」


正直な答えだった。


「でも、俺が欠番なら」


声が、震える。


「俺がいなきゃ、均衡は戻るんだろ」


「戻らない」


渋谷は、即答した。


「もう、壊れ始めてる」


「俺が原因じゃないのか」


「引き金ではある」


容赦がない。


「でも、元凶じゃない」


「じゃあ、何だよ」


「選択」


渋谷は、俺の前に立つ。


「十二振りが揃ったとき、

 東京は変わる」


「……」


「どう変わるかは、誰にも分からない」


「嫌な話だな」


「だから、欠番が必要」


渋谷は、真っ直ぐ俺を見る。


「壊すためじゃない」


「……?」


「止めるため」


心臓が、強く打った。


「俺が?」


「うん」


「買いかぶりすぎだろ」


「見たでしょ」


渋谷は、静かに言う。


「混沌を、否定した」


「一瞬だけだ」


「一瞬で十分」


彼女は、少しだけ笑う。


「東京は、隙だらけ」


沈黙。


「春日」


渋谷は、俺の名前を呼ぶ。


「逃げてもいい」


「……」


「でも、その場合」


彼女は、視線を逸らした。


「代わりに、私が戦う」


胸が、痛んだ。


「それは……」


「私の選択」


渋谷は言う。


「強制しない」


しばらく、何も言えなかった。


逃げたい。

怖い。

でも。


「……ずるいな」


「何が」


「そういう言い方」


渋谷は、少しだけ肩をすくめた。


「慣れてる」


俺は、深く息を吸った。


「逃げる理由は、ある」


「うん」


「でも」


言葉を探す。


「戦う理由も、できた」


渋谷の目が、わずかに見開かれる。


「誰かが消えるのを、見たくない」


俺は、はっきり言った。


「だったら、止める側に立つ」


「……覚悟、決まった?」


「たぶん」


「たぶん?」


「今決めたから」


渋谷は、しばらく俺を見てから言った。


「十分」


そのとき。


――カチ。


スマホが、震えた。


「……来た」


渋谷が画面を見る。


「誰」


「秩序派」


嫌な単語。


「内容は?」


渋谷は、短く読み、眉をひそめた。


「“欠番へ。

 話し合いの場を用意した”」


「罠じゃん」


「十中八九」


「行くの?」


渋谷は、俺を見る。


「どうする?」


選択。


まただ。


俺は、刀を見下ろした。


逃げることもできる。

今なら、まだ。


でも。


「行く」


そう言った自分の声は、思ったより落ち着いていた。


「話し合いで済むなら、安い」


渋谷は、少しだけ笑った。


「甘い」


「知ってる」


それでも。


「戦わずに済むなら、試す価値はある」


渋谷は、頷いた。


「じゃあ、準備しよ」


窓の外で、東京の灯りが瞬いた。


この街は、何も知らずに回っている。


――その裏側で、選択が積み重なっていることも。


そして俺は。


逃げないことを、選んだ。


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