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『十二都刀戦(じゅうにととうせん)』  作者: 匿名希望


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初戦闘、即敗北


### 初戦闘、即敗北


逃げる、という行為に、こんなにも必死な意味があったなんて知らなかった。


肺が焼ける。

足がもつれる。

それでも止まれない。


背後では、金属がぶつかる甲高い音と、空気が裂けるような衝撃が何度も響いていた。


「くそ……!」


俺は路地を曲がり、倒れ込むように膝をついた。


――見失ったか?


そう思った瞬間。


「甘いな」


声が、すぐ後ろから聞こえた。


「……は?」


振り返る暇もなかった。


衝撃。


身体が宙に浮き、次の瞬間、壁に叩きつけられる。


「がっ……!」


息が詰まる。

視界が揺れる。


目の前には、新宿が立っていた。


「速さは悪くない。

 でもさ」


彼は、楽しそうに言う。


「逃げる才能は、ないな」


「渋谷は……?」


「生きてるよ」


新宿は肩をすくめた。


「今は、な」


嫌な言い方をする。


「……っ」


俺は立ち上がろうとして、失敗した。

足に力が入らない。


「安心しろ」


新宿が刀を構える。


「すぐ終わる」


「待て……!」


俺は、無理やり刀を握った。


手が震える。

重い。

こんなもの、振ったこともない。


「初戦闘?」


「……だったら、なんだ」


「いいねえ」


新宿は、心底楽しそうだった。


「最初はみんな、そういう顔する」


次の瞬間。


世界が、壊れた。


新宿が踏み込んだだけなのに、地面が歪む。

距離の感覚が狂う。


「――混沌」


彼が呟く。


刃が、ありえない角度から迫ってきた。


「っ……!」


反射的に、刀を振る。


――当たった。


はずだった。


「……?」


感触がない。


俺の刃は、新宿の刀をすり抜けていた。


「は?」


「斬れない?」


新宿は笑う。


「違う違う。

 “当たってない”んだ」


「意味……!」


次の瞬間、腹に衝撃。


蹴りだった。


「ぐっ……!」


転がる。

視界が回る。


「混沌の刃はな」


新宿は、講義でもするみたいに言う。


「距離も、順序も、意味を持たない」


「ふざけ……」


「本気だよ」


刃が、首元に突きつけられた。


「普通なら、ここで終わりだ」


冷たい感触。


「でも――」


新宿の目が、わずかに細まる。


「欠番、だっけ?」


「……」


「さっきは、俺の力を弾いた」


彼は、刃を一度引いた。


「もう一回、やってみろ」


「は?」


「ほら」


完全に、遊ばれている。


怒りが、腹の奥で燃えた。


「……っ!」


俺は、叫ぶように刀を振った。


その瞬間。


世界が、静止した。


音が消える。

色が薄れる。


俺の刃が、新宿の刀に触れ――


弾いた。


今度は、はっきりと。


「……っ!?」


新宿が、目を見開く。


「拒否……?」


彼の混沌が、剥がれ落ちる感覚が伝わってきた。


「俺の概念を……断った?」


分からない。

理屈なんて。


ただ、分かったことが一つある。


――今なら、斬れる。


俺は踏み込んだ。


全力で。


刃が、新宿の胸元に――


「遅い」


衝撃。


視界が反転する。


「……え?」


気づいた時には、俺は地面に倒れていた。


刀が、手から離れて転がる。


「力はある」


新宿は言った。


「でも、使えない」


彼の刃が、俺の喉元に突きつけられる。


「それが、欠番の欠陥だ」


「……っ」


身体が動かない。


死。


それが、現実の重さを持って迫ってきた、その瞬間。


――キン。


新宿の刃が、弾かれた。


「……遅れてごめん」


渋谷だった。


肩で息をしながら、俺と新宿の間に立つ。


「チッ」


新宿が舌打ちする。


「いいところだったのに」


「それはこっちの台詞」


渋谷は刀を構える。


「春日、立てる?」


「……無理」


「正直で助かる」


彼女は、少しだけ笑った。


「じゃあ、守る」


「悪いねえ」


新宿は後退する。


「今日はここまでだ」


「逃げるの?」


「違う」


彼は、楽しそうに言った。


「次は、本気で殺す」


そして。


霧みたいに、姿が消えた。


静寂。


東京が、元の顔を取り戻していく。


俺は、仰向けのまま天井を見た。


「……負けた」


「うん」


渋谷は、隣に座り込む。


「完敗」


「フォローとか、ないの?」


「初戦で勝つ方が異常」


彼女は、俺の刀を見る。


「でもね」


「?」


「あんたの刀」


少し、震えていた。


「確かに、何かを“断った”」


渋谷は、静かに言う。


「それだけで、十分よ」


俺は、目を閉じた。


身体が、痛い。

心も、痛い。


でも。


――生きてる。


それだけで、今はよかった。


そして、俺は知った。


この戦いは、甘くない。


次は、逃げられない。


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