第5話「起・ボツの部屋7番と知的財産」
エレメンタルワールド、第1の街ライデン、ギルド本部内。
「さてと、色々ほっぽり出して投げ出して。別の場所へ移動するのは通常通りとして。吸血鬼大戦の歴史を観るに、何も置かずに去るのは責任感から忍びないわね」
桃花先生は先の戦争の歴史を知っているので、雨の意味も、ボツになった作品、ネームの行く末を知らないが。おおよそは察しが付く。
即ち、その道は完結しないので、虚無空間みたいになってしまうというわけだ。
情報統合思念体として、天上院姫も敏感にそれを感じ取る。
漫画会社担当のミュウが何か仕掛けそうだ。否、これは確実に仕掛けてくる。いや、ほっぽりだす。
ゲーム会社担当の天上院姫は、自分が動く前に双矢鏡が動き出したので、半ば複雑だった。
片や、アニメ会社担当の星明幸は。依然、内容は変わらず、不動のまま、完結されたままである。
「まあ姫ちゃんなら解ると思うけど、今回のボツは、後々響くだろうね、多分」
「そうじゃな、せめてものバックアップ&フォローはしておくべきだろうな」
解り合ってる2人に対して、咲は何の話かさっぱり判らない、それも当然、咲が生まれる前の昔話なのだから。
「咲に簡単に説明すると。これまで一緒に付いてきた皆が、ボツ世界線に取り残される事によって右往左往散り散りになっちゃうかも……って話よ、私達には関係ない話だけど、ついて来た人達の物語まで破綻する。そんな感じの……たぶん大連鎖」
ボツ作品を出すと大混乱を引き起こす、という、たぶん天気予報だ。
「とりあえず指針が無くなっちゃう人達にとって道標を置いてどっか行くべきって話な訳よ。東へ向かって、とかあの塔へ向かって、とか」
その時、桃花先生はピン、と天啓を誰かから貰う。
「風が通ってればカビが生えなくて良いっぽい」
「……なるほどカビねえ……、せめて風の流れでも示せば良いのかな?」
GM姫は、あっちからこっちの風の流れにそって進んで。とか言えば良いのかな? とか思った。
とりあえず皆はドアの世界中央へ戻る。
ドアの世界中央制御室。近衛遊歩が担当している宇宙空間だ。
「お? どうした? アクシデントか?」
「ううん、私にとってはよくあること何だけど……どうもそれだけじゃ無いっぽいので、応急処置をね……」
言って、GM姫は。
〈アース018ボツの部屋7番〉の扉を開けた。
「簡単に言うとここは物置部屋なワケなんじゃが、たぶん風の流れを通して。7番と1番の部屋の風の通りを繋げてくれないかな?」
避難通路になっているのか微妙だが、とりあえず〈今ある風〉が通れれば良いらしい。
7番のボツの部屋と、1番のエレメンタルワールドのドアを繋げれば、とりあえず良いらしい。
あとは、皆が風の流れのままに、避難誘導できればそれで良い。
「……みたいな感じで良いのかな?」
姫がゲーム進行方法を桃花に聞く。
「さあね、当時ボツにした実感はあったけど。それにより起こる事後処理なんて当時知らなかったし……。リアルタイムで観るのは今回が始めてよ。そうだね……もうちょっと工夫するか……」
言うと、桃花先生は〈風の中を流れ通ってくる迷い人達〉に対して助け舟を出す。
それは、緑色に輝き光る、霊魂、〈言霊〉だった。
言霊達が道に戸惑う人々を明るく照らし、風の道を照らし続けている……。
その光る言霊達は風にふわりフワリと浮きながら〈消えない〉。それを道標に〈アース018エレメンタルワールドの部屋1番〉へ避難誘導している……。
事態を把握している桃花先生は本当に優しいんだな、と〈誰か〉は思った。
把握していないととんでもない狂気と怪物性を隠し持っているんだという畏怖を感じつつ、古参・新参達は移動を開始し始めた。
「緊急事態だし、最果ての軍勢にも手伝ってもらう……?」
「……そうじゃな、あとの事は最果ての軍勢に任せよう。ちょっと未確認な事案が多すぎるし……たぶん完成原稿のボツは始めてじゃな」
というわけで、あとの事は最果ての軍勢に支援要請を送って丸投げした。
◇
姫と桃花の真面目な2人コントが開催される、正確には商売の話なので真面目過ぎて疲れる話題である。
「じゃ次〈知的財産〉についてやっていきましょー」
「私は面白い物語を作るのが仕事であって。それでどう商売をするかは他の人の仕事と毎回定期的に言っている気がするんですけど……?」
姫は桃花に自分の不手際を桃花に擦り付けようとする。
「でもそのせいで何も思考しないし実現しないし、原作者にお金回ってこないし、今でも無料で作品作ってるんだろ?」
「それは世の中の問題と、私の問題がイコールにならなかっただけ。願いが叶うカメさんの存在を知ったあとなら話は別」
桃花はそれはそれ、これはこれ、と区別する。
「とりあえず、まず何やったほうが良いと思う?」
「ん~……ぱっと見た感じ……。週間雑誌に【多言語翻訳部署】を設置したほうが良いと思う。お金と人材投入して」
桃花先生は、まず具体例として一番売れてる漫画雑誌、ジャンプを例に出して提言する。
「あれは週刊連載で作家も編集者も皆忙しいから、雑誌と電子書籍の日本語版までで終わってるんでしょ? だから有志達が勝手に翻訳して、仕方なく海賊版を手にして読むことしか方法論が無いのなら。同時期に多言語翻訳版を出すしか無い。日本語版だけ先に出版しても有志の人が我先にと翻訳するので意味がない。やっぱり同時期に多言語翻訳を正規版として売らないと……」
まずは海賊版対策から始めるのが良いと考えた、そりゃそうだ、基本的に売れてた雑誌本誌を売らなきゃ意味がない。
「それが物理的労力、週刊連載で出来ない場合は?」
「その場合は伝統と歴史が積まれている週刊連載ごと辞めたほうが良いって話になるよ? そんなの出版社はプライド的に嫌だよね? わかるよ、だからそこには投資しないと……って話になると思う。ブロックチェーンとかはよく解んないけど、まず正規版を海外の人が正しく手に入れられる土台を作らなきゃ……」
原作者の給料面は置いておいて、まず読者の違法制を封じようという話だ。
「あとアニメの製作委員会方式をぶっ壊さなきゃとか、韓国形式のウエブトゥーンの漫画制作形式は魅力的だね、とか色々有るが。まず今一番売れてる原作の多言語化から始めるのが良いと思う」
つまり、正直なド直球に言うと。超人気漫画、ワンピースを○英社主動で本腰になって多言語化を毎週売る覚悟、が求められる。でなきゃネットの流通は物凄く早いのでこのイタチごっこは終わらない。
多言語版を同時期に売るしか方法がないのだ。
だから専用の部署の現状拡大が必須。とはいえワンピースだけ多言語化しても効果は限定的、1作品だけをやるのは簡単だが。やるのなら雑誌丸ごと多言語化しないとこの問題は終わらないし、好転もしない。
何なら漫画家さんの家に行ってネームを読み、その段階から多言語翻訳の作業を始めるとかしても良いくらいだ。完成原稿を待ってたらとてもじゃないが週刊連載に間に合わない。ネタ出しの段階でも良い。これは時間との戦いになる。
多言語翻訳者の理解度が上がっていなければそもそもこの話は成立しない。
なので専用の部署が居る、という話だ。
「まあ、いち漫画雑誌愛読者のイチ意見だと思ってくれればいいよ」
桃花先生の漫画雑誌愛と、違法でしかたなく読む海外の漫画読者への対策案で、この話は一回区切る事にした。




