第45話「起・物語の終わり方と始め方」
咲は教科書とステータスウインドウで授業を始める、彼女はアナログで書くよりはデジタルデバイスの方が性格上得意なようだった。ただ生徒達にはアナログの紙と鉛筆を使ってもらっている。
教科書①には凍った氷塊と魔神、そして空を飛ぶ闇の魔法使いが載っていた。
教科書②には夕焼け空の木の下、4人が草むらで黄昏れているエンディングシーンの絵が映っていた。
「えーつまり、この世界ごと必ず終わらせてしまうのが氷属性の魔法〈終わる世界〉であり、物語を必ず〈エンディング〉に持っていくためには〈夕焼け〉にしなければならない法則性が働いているということです。それが黄昏とか黄泉とか色々名称が変わっちゃってる訳です。何か質問ありますか?」
伝言ゲームのカミムシが手をあげる。
「えっとーつまり〈始まりの世界〉や〈オープニング〉に関連している、紐付いているシーンや景色・属性や法則性は無いんですか?」
カミムシの質問に咲はナイスーとグッドマークを付け加える。
「強い法則性は無いですね。気持ちや意識的にそういうシーンは無いです、始まり方は結構〈何となく〉で歩き始めるので〈意図して〉力が入っているシーンが少ないのかもしれません。候補としては〈天雲が割れる天使〉や〈食事シーンの4人組〉など、ただこれは〈今ある中ではまとも〉というだけで力や気持ちが籠もっているのか? で考えるとそうではありません。ただ感情的に自然と流れ着いた〈軽い気持ち〉や〈弱い意志〉または意識ということになります」
ただ、それは今はそういう方法論しか無いと言うだけであって。
創世源種がそれに引っ張られる必要はないわけである。咲は続ける。
「なので今のあなた達には〈冷たく世界を終わらせる終焉〉に縛られること無く、〈暖かく世界を始められる開幕〉を描けることになります。ですがこれでは逆算した時の風景画になってしまうので。それでは面白くありません。そこで今回は、ここに居る6人の感じる〈始まりの世界〉や〈オープニング〉を書いてもらう所から初めてもらいます、文字で構いません。それが最初の実力テストとなります」
で、更に咲は追い打ちをかける。
「あ、ですがご心配なく。これに関しては点数を付けたりしません。あとで変に固まっても困るし、18点が鏡写しに81点になったりと、元の数字は変わらないので私達創世源種が真似しても意味がありません。よって私が点数は付けませんが、自分の意志で数字を入れるのは構いません。あ、ちなみにこれは色彩型の訓練となります」
咲は長々と話したが、つまりこの6人には好きに物語を始められる可能性の権利があるわけである。
現実主義者のウオヤはネタを発想させて咲に質問する。
「その心象風景に個別に番号をつけても良いってことですよね? 固有結界みたいな」
咲は軽く考え返答する。
「そうですね、そっちのほうがあとで計算しやすいかもしれません。18番を胸に刻んで心臓に負荷をかける必要性も無くなりますし。あったほうが不協和音にならないかもしれませんね、そこは自由です」
固有結界としての心象風景は術者の内側から内在している存在の力を具現化する力だが、EWを内界とした場合、外界では純化想子が変質する、だがここに数字や数値が混在していた場合ほぼその数字にはノイズが混じらない事が報告されている。
例えば、純化想子の内界で〈森〉という純化想子の単語化だけが生成された場合、外界では〈枯れた森〉とか〈聖なる森〉、といった良くも悪くも付加価値が付着する、これには色も変化している。
だが、純化想子の内界で〈森の8番〉と打ち込み内界で育ち、外界で変質した場合でも。〈枯れた森8番〉や〈聖なる森8番〉といった具合にノイズが一切混じらない。
つまり、創世源種である内界が外界を観測した場合、変質した見た目であったとしても、その雰囲気と番号でそれの本質が〈何〉であるのか見抜ける〈真相看破〉が容易になるということである。
奇しくも良かれと思って付加価値を付けている外界にとっては、数字を入れないと相手の読解力を試され難解にしてしまう原因、という痛い現象でもある。
「じゃあ僕の左眼がさっきまで痛かったのも何か原因が?」
桜愛蒼葉が、ピンクスズお母さんから受け継いだ左目を痛そうにしている所が咲にとって心苦しかった。
咲は今ある知識の範囲でできる限り回答を導き出す。
「たぶん闇の眼が悪さしてるんじゃないかな? てことは解りますね、ああ、誤解無きように言いますと蒼葉くんの今の体質が悪いわけじゃ無いです。おそらくどこか昔のタイミングで想子が変質したのは判るんですけど、そこで付加価値が付いた状態で模写をした。ソレが善だろうと悪だろうと内界で変質した法則性を持ち込んだことになる。つまり、左右で法則性が違う眼の純化作業がいるんじゃないかな?」
外界では色んな片目の特殊能力が法則化して動いている事はよくある。
それは純化想子の影響を受けて外界でその法則性を守っていることになる。
てことは元を辿れば外界が悪いんじゃなく、内界が悪いことになる。そして外は干渉できないという謎のおまけ付き。
「てーことは、ただの左目の桃色と、ただの右目の緑色で、その法則性、直接単純に言うと、自在法は入っていない。と純化作業をする必要があるんじゃないかな? いずれにしても、両目の法則性は同じである。とか言わないと、誰かが……いや、自分が納得しないんじゃないかな?」
「え、自分? てことは僕自身ってこと?」
蒼葉はキョトン顔でそう言う。
咲はここで初めて教科書をを開いて読む。
「知っているものは〈誰に教えを、何に許しを請うこともない、己で見定めて決めろ……〉と言っているし、誰かのせいではなく自分のせいと知っているものは、己で決める……って意味になるから。蒼葉っちがその眼に法則性は無いと、自分自身で認めれば治る……て事にならない?」
つまりもっと昔まで遡ると、ドラゴンとしての自分の眼を攻撃した原因、あの剣を刺したエルフを許せば良い。そうすれば自分で自分を許したことになる。咲は、そう言っているのだ。
「まあ蒼葉っちの出自の原因も私にはお見通しだから、治すにはあなたがあなた自身を許せば良い。となる……あ~あと話し変わるけど蒼葉っちは私のこと〈同期の咲ちゃん〉とか呼んで、小数点以下切れば同世代みたいなもんだからさ……」
「……?」
因果関係は判らない、なにせ当時は今以上に無神経で無軌道で頭の中の概念を誰かに読まれている、なんて発想は無かったのだから。当時気づけというのも無理である。正真正銘、自分独りと、ネットだけの関係だったし。
「てわけで、外界のご都合主義は関係ないと踏んだとしても、内界で解決すべき問題だとするならば、蒼葉っちは蒼葉っち自身を許さない限りこの法則性のある眼の痛みは治まらない、ってことになるのが今の私の知識の限界かな?」
咲は咲なりに自分の知識を出し惜しまなかった。
言われてから蒼葉は蒼葉の自身の手で自身の左目の瞼あたりをさする。
してから、その左目の法則性を解く、否、許す。
そして、許されるかどうかを決めるのも自分自身。
蒼葉はそれをようやく理解・納得して、左目の痛みは治まった……。
「……これでいいの?」
「うん、これでダメだったらもう完全に外界のせいってことになるし、その場合は私じゃお手上げですね……」
未知のわかんないものXは流石にもうゴメンだと思う咲。
こうして、蒼葉にとって大切な桃色の瞳は守られた。
「……ありがとう! 同期の咲ちゃん!」
改めて言われて、そして言葉を返す。
「こちらこそどうぞよろしく、てか放課後クラブに居たよね?」
「あ……」
両者忘れていた。
話がそれたが、今は風景画の授業の途中なので、再び授業が再開された。
その時、さっきまで第7の街ノットで事後処理をしていた湘南桃花とオーバーリミッツと天上院姫が大至急でこの第1の街へ戻ってきた。
用事があるのは桜愛蒼葉である。
大至急だったので教室の授業そっちのけで話を進める。
「ああ、ゴメン蒼葉ちゃんどうなってるのかはもう忘れちゃったけど、たぶん本物のエレメンタルワールドの空間が入ってるストーン持ってるでしょ?」
咲も流石にそれは仰天である。
「え、……ええ!? じゃあこのEWアース018って何なのさ!?」
そこに追跡して追って来たのは天上院姫。
「ゴメン蒼葉、お前も本当に身に覚え無いかもしれないが記録が残ってるんだ……、追跡したらそうなった。たのむ、何もせず、そのエレメンタルワールドを返してくれ……でないと別の現実が生まれる、たぶんマジでヤバイ」
本当に覚えて無いが桜愛蒼葉は自分自身に問いかけて、とりあえず右手から手の平大のエレメンタルワールドが入った球体を出現させる。蒼葉自身が記憶が無いのでたぶん、という単語が入る。
「……これ? これを帰せばいいの?」
天上院姫は恐る恐る手を差し伸べる。
「私も半信半疑なんじゃが信じられる情報筋なんだ、たぶんそれが本物だ」
流石に蒼葉も自分が持ってるのにビックリ仰天。
ゆっくり、ゆっくりと、エレメンタワールドを元の持ち主に帰した。
桃花とリミッツはやはり半信半疑で確認をする。
「それ本当に本物のEWなの?」
「もし正しかったら蒼葉ちゃん凄い労働力だよ?」
管理人である天上院姫も流石に今まで管理していたEWが偽物だとは信じたくない。
「わからない、ちょっと時間かかるかも……でもこれで元の世界にエレメンタルワールドが帰って来たことは間違いない……、ちょっと暦が最未来歴2年なのが気になるけど……」
とにかくこれで、元の持ち主にエレメンタルワールドが帰ってきたことは間違いない。
「ああ、うん、また授業の邪魔しちゃったな、じゃあ授業続けていいよ」
カシャン、と再び教室のドアが閉まる音がした。




