第32話「結・無力なままでは終われない⑦」
♪――響け飛べ、花の導き、白い鳥、後にもこない、先にもこない――♪
最未来歴2年、エウローパ大陸、繋がりの山脈。
始祖の闇&桜愛神武VSBIG4。
夜空の中に可能性の星々が煌めく。そこに〈雨の結界〉が降り注ぐ。
「ち、微妙に射程範囲内か。だが問題ない、私はアナザーでも変異体でもない。オリジンだからな……!」
桜愛神武が鼓舞するように魔法を執行する。
桜愛夜鈴が信条戦空の不安定さに気づく。
「ちょっと戦空! 動き鈍いわよ! あんたの〈ザ・ユニティ〉って何度も撃てないの!?」
「やってるけど! 視野が広すぎて集中出来ねえ! 選択肢が多すぎる!」
可能性の星が多すぎてどれにしようかな、と目移りしているような状況だ。
夜鈴も過去、そんな経験をしたので共感と同感を受け取る。
「!? なるほど、戦空の場合本能で個体に専念出来たけど、今は全体に視野が広がってる感じか……咲ちゃん! 何かアドバイス無い!? あんたの方が経験値あるでしょ!?」
言われて咲は双剣をだらりと下げて、やっぱりこれしか結論はないと思って言う。
「……これは、酷かもしれませんけど。漫画のネームみたいに、あえてコマを削って下さい! つまり、あえて繋がりを断ち切るんです! 切らないとズルズル引きずられます! 集中するために断ち切る勇気と覚悟です!」
「そうか! 解ったやってみる!」
本当に戦空は素直で良い子だ、真っ直ぐに咲の事を信じてくれる。信頼してくれている。
(そうか、今までやってた事と同じだ。可能性の光をシーンのコマだと思えば良い、つまり切らなきゃ全体の威力が落ちるし効果が薄くなる!)
漫画のコマの削りは漫画作業の中で辛いものナンバーワンだ。
それだけ言われると知らない人にはいまいちピンと来ない人も居るだろう。
だが可能性の光を切るとなると解ってくれるかもしれない。
人と人との、心と心の、繋がりを断ち切る、絆を切る、そうしなきゃ得られないものがあるから切るのだ。
今までの想い出、大切なもの、大事なアイディア、時間と努力の結晶、それら全てを自分で否定する作業。
アイディアを全部を紙に入れると〈詰め込みすぎ〉になるし入れすぎないと〈画面が殺風景〉になる、画面作りと物語とキャラクターの大小などのバランス、塩梅問題。決して全部は表現できない。
仲間との繋がり、知らぬ人との信頼、期待に応えたい、それら全部の繋がりが、彼の、信条戦空の情報処理速度的、反応速度を下げる。
だから、全部は拾わず、必要最低限の可能性の光だけに焦点を当てて、その光がもっと輝くように調整する、全部の光を束ねると集中力が落ちるし、技量に合っていない。
シーンを削って削って、可能性を消して消して、繋がりを切って切って切る!
――本当に大事なものを手放さないために――!
「可能性の光! ――全展開――!」
すると夜空の光が、人々の願いや想いが輝いて瞬いた。合唱によるバタフライ効果とは明確に違う戦空のコントロール。
「皆の光とウチの光を……――連結――!」
すると可能性の光が星座のように線を描き、繋がり戦空と全て束ねて繋がった。ここまでは良い、綺麗な形だ。だが、問題はここからである。
(断ち切る覚悟を持て! 自分! 本当に大事なものを守り抜くために……!)
戦空は一瞬戸惑う、これまで築いてきた大切なものを大なり小なり失う、辛い訳がない、だがやらなきゃ守れないものがある……! 戦空は再び咲を信じて決断・自由に飛ぶ。
「……! 収集情報全集中、――絶縁――!」
それは痛みを伴う決断、否、勇気。収集した可能性の光がブチ! ブチリ! と音を立てて断ち切られる。その後この体内で溜め込まれた光、可能性の中で自分に出来る範囲のことを体内で再構築してゆく作業を戦空はする……。
その上で、戦空はコントロールする。まずは念じた通りの現出以上の敵の存在の〈視える化〉だ……。
視覚出来ない概念を収束固定して視認する。具現固定化。
瞳の色は赤、形は地上から視る天体で一番輝く一番星であるシリウス1点を、〈双鏡の両眼〉で捕らえる形となっていた。
それは集中して標敵を見定めるための不可視の眼。戦空はゆっくりと瞼を開ける。
「最上位の眼、――具現鏡眼――。これでもう、うちはお前を見逃さない……! 逃げられると思うな!」
それは常識と非常識の狭間、天上天下人間が出来る事と出来ないことの狭間。
境界線の上の星、恒星シリウスAが、鏡合わせに存在していた。
より具体的に言うと。
太陽の約2倍の質量、重力は地球の約2倍、光度は太陽の約25倍、地球からの距離は約8.6光年の両眼力が〈虚〉と〈実〉を理解できるように見抜き動く!
「ふん……器用なことをする……! 本能だけじゃこうはならんな! 元より逃げる気など無いわ……!」
無理もない、生理的に嫌なものをあえてする行為を本能とは言えない。そこには勇気と、非情なまでの合理性が求められる。
刹那――神速――!
その時〈何か〉が追って来た。気付いたのは、始祖の闇と信条戦空と本体のオーバーリミッツだけ。
――始祖の闇は神速の極小時間の中で思った――。
この神武という肉体は、刹那単位なら見切れる眼と魔力を持っている、それは問題ない強力な力量だ、だがそれよりも速い神速で何か来た。
それも始祖の闇は未来予知できた、だが、それよりもっと速い速度と〈天撃〉ではなく〈神撃〉の力を持って来て、その何かは追い付いてきた。
〈何か〉は無色透明で何者でもない存在だった、数値でも計れず番号も解らなかった、肉体ではない、アストラル体? 霊体? だろうことはわかったが、そうじゃ無ければ説明がつかないほどの速さと強さを持って来た。だからこそ、始祖の闇はその刹那の中の神速で〈何か〉に驚愕と共に敬意と尊敬で訪ねる。
『――!? オ前は誰ダ――!?』
桜愛神武の口や肉体は動いていない、瞳の瞬き一つ許されないその極小時間で、始祖の闇は念力テレパシーで信条戦空とその〈何か〉に問いかける……。
刹那が追いつく、0.1秒が追いつく、桜愛神武はその時今更気づく。信条戦空の気配が、存在感が別の者に変わっていた、否、重なっていた。否、別の動きをしていた。なので神武の肉体は反応が取れず遅れた。
光が2つ、声が重なって拳を握りしめ、振り下ろし、叫ぶ。
「「私は! 一番弱かった頃の! 私だー! ザ・ユニティ――真紅――!」」
1刹那後、桜愛神武は戦空の炎拳をモロに受けて、真下へ吹き飛ぶ、繋がりの山脈に深々と大地にぶつかり衝撃波と地響きと爆音と火炎が巻き上がる――!
桜愛神武は避けられなかった、始祖の闇は防ごうと思えば防げた、だが出来なかった。もっと出遅れた、もっと手遅れだった存在が、同じく神速でソレを展開する。
――天上院咲の真昼ノ剣――。
世界がいきなり照らされた。その剣が放出した光の、太陽の重力。
桜愛夜鈴の万有引力という闇の力ではなく明確な光の力が。信条戦空と1番弱かったオーバーリミッツの拳と、始祖の闇と桜愛神武の顔面を引き寄せた、引き合わせた、巡り合わせた。
「……家族の善神が、出遅れようが手遅れだろうが闇の反撃なんて真の正義が許す訳ないでしょう……!」
今更ながらに譲れない信念がそこにはあった、独りよがりだろうが何だろうがここはお先にどうぞ、という訳にはいかなかったのだ。
だから闇の反撃・逆撃を問答無用で完封する……!
山と森の山岳地帯。
桜愛神武はすぐさま起き上がり体制を立て直す、まだ2撃目だ、こんな所で失神するわけにはいかない。まだまだ全力を……暴れたりない……!
その時、森の中から待ってましたとばかりに、筋肉達が東西南北、四方向面から走ってくる。
「ういーはっは! 獲物が落ちてきたぞ!」
「見せ場だ! 合わせろよテメエら!」
「合わせるのはお前達だ!」
「行くぞー! ギルド、脳筋漢ズの地上限定必殺技――!」
ムキムキなパワーが、一直線正拳突きで桜愛神武に命中する――!
「「「「クワッドナックルパワーーーー!!!!」」」」
「!?!?!?!?」
轟音と覇道の黒稲妻がバリバリバリと雷鳴した! 衝撃波で木々がへし折れた。
正確に具体的に言うと、月曜日と水曜日と水曜日と木曜日による同時攻撃。
少年漫画好きなジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオンによる連携技だった。
「あれ? 時差ボケしてね?」
「1週間単位なら同じだろバカ!」
「誤差だ! ガッハッハッハ!」
「勝てば正義なんだよ! 負ける訳にはいかねーんだ!」
筋肉達は自分達の筋肉を見せびらかし、俺のほうが面白いんだ合戦をまたいつものように始めた。
桜愛神武はこの時、この場に居る1番の脅威を認識する。
「天上院咲……やはり場慣れしている……!」
始祖の闇のエネルギーが枯渇するまで残り7分00秒。
♪――ありのまま、ただあるがまま、そのままで、そういう風に、定まっている――♪




