第29話「起・無力なままでは終われない④」
♪――時の夢、託した未来、風目覚め、声を信じる、境界越えて――♪
最未来歴2年、昼、真夜ノ剣により夜空となり星々が輝いている。
古来の深海図書館。
繋がりの山脈から膨大なエネルギーの衝撃波が飛んできた。
「あっち側は大丈夫なんだろうな? 第7の街と未来図書館は戦場になっていると聞く」
「我ら獣人族とエルフ族も武器を構えたままでは示しがつかない……!」
「ああそうだな! ヒーロー軍団も助けに行こう!」
「バカ! そんなことしたらここのバリア装置は誰が守る!? ここは待機だ!」
「おっと……そんなこと言ってるから何か来るぜ……!」
獣人族とエルフ族とヒーロー軍団がしびれを切らして持ち場を離れようとしていたその瞬間。マルチバースの世界線ひときわ目立つ赤黒い糸がこちらへ流れ着いてきた。
流れ着いたという軽い表現はもはや適切ではない、それらはまるで、悪意を持った洪水……!
宙を舞い、悪意の洪水がここへ流れ着いた。
《闇の探求者イベルタル、アナザー獣人族、アナザーエルフ族、アナザー非理法権天が現れました、徐々に枝分かれは分岐、増えて行きます……!》
闇の探求者イベルタルだけは個として存在している、それ以外の存在は分岐イベントが発生して分裂してゆく光景が目の前で広がっていた。
名前◇闇の探求獣イベルタル
希少◇SR
分類◇闇雲探求_小ボス_飛行・闇属性
詳細◇明確な悪。始祖の闇から生まれた空飛ぶ闇のモンスター。賢者と呼ばれるぐらい頭は良いが、問題はその時その場で興味をそそられたことを、その時その場で限界まで追求する闇の存在である。この存在が嫌悪で語られるのは、まず他者が闇の探求獣を〈信じていたのに〉本来の目的を放り出して別の目的に興味をそそられると、今あった計画を放り出して、本能のままに突き進む無軌道ぷり。よって神様を信じて〈一緒に追いたい〉信仰者にとっては邪魔極まりない存在となっている。またスキル〈完成〉によって、自分または相手の知らないスキルを知った途端、その未知のスキルを探求追求し、本来の持ち主よりも完成度の高いものを限界まで作り上げてしまう。これだけでも厄介だが、一番の問題はそれを本当に実行・実現・執行できる力を持っていることが大問題である。
例として「空母を作りたいな」と思って思考を巡らせ探求すると、本当に出来上がってしまう所などである。
この獣に権力は無くとも、この獣の〈沢山の信者〉に権力があった場合、それを模範・真似して実行出来てしまう所も問題である。
『ひれ伏せ、我が主の探求の為に、そして我が知識欲の為に、滅びよ……!』
それは闇の探求獣イベルタルの声。
頭の中に直接テレパシーを流し込む怪鳥は黒く禍々しい漆黒が〈可能性の嵐〉を発生させる。
嵐の中はシュレディンガーの猫箱状態となり、箱の外側から観測しても誰も結論を出せない状態になった。
――そして敵も味方も分裂を続けてゆく、嵐を止めない限りこの分裂イベントは止まらない……。
可能性の数だけ、ここでは答えがあって良い状況になった。
「皆行くぞ! 徹底的に叩き潰して解らせてやれー!」
「ああ! 誰に喧嘩を売ったかを教えてやれー!」
こうして、古来の深海図書館でも開戦した。
◇
未来の宇宙図書館。
咲のパートナー、少年型の機械種NPCもそこで戦っていた。
「この熱源エネルギー! 奴がまた来る……!」
闇のゲートの中から現れたのは、四獣王ジゲンドンを神様と信じる信徒の元滅種。
バルバトス・ダイスロールだ。
「久しぶりだな~~ポンコツ機械、こんな場面で会うとは思わなかったぞ~~?」
そんな挨拶などどうでもいいかというようにプレイヤーへ警戒感のある伝令を精霊無線ごしに出す。
『皆! こいつにスキルを使うな! ランダムで別の時間軸に吹き飛ばされるぞ! 体術を使え! あとこいつはプレイヤーの攻撃に対して無敵だ!』
「健気に情報伝達ご苦労様だ、……さあ足掻いて魅せろ、我が信徒にその実力を示せぇーーーー!」
バルバトスは、その6本の腕を自分の意志とは無関係のランダム操作によって、放課後クラブのアセンブラに襲いかかる……!
◇
第7の街ノット。
この街のバリアは古来と未来の図書館を突破しない限り壊れことはないとはなっているが、インカージョンが発生した場所が悪かった。
四獣王ジゲンドン3匹に猛攻撃を足止めする前に、時間軸が枝分かれしすぎて、アナザー地球防衛軍の数が100億に分岐している、その全てを防御しているのが最果ての軍勢、不動武と不動文の2人だけ……。
まるでアリの大群に群がる死んだ昆虫のような状態だった。
死骸の緑色のバッタに黒点のアリの大群が群がっている状態。
その全ての攻撃が物理攻撃、流石に無理である。
『トップ、流石にもう時間切れだ……第1のバリアが破られる……!』
「ちっくしょーう! こっちだってなあぁー! 能力は最強だがエネルギー源は無限じゃないんだよー!? ふっざけんなーー!?!?」
武も文も自分2人の限界を感じていた。
自分達の能力を最強だと自負してた軍勢にとっては苦い経験である。
だが流石に、元の地球防衛軍の戦車の数7万台、空軍用機の数6万機、海軍艦の数5000隻。
それが100億に分岐しているので、戦車の数700兆、空軍機600兆、海軍艦50兆では物理の限界を超えて、相手にならないし洒落になっていない。
不動武と不動文は、2人だけでこの物理技を約1分間耐えた事となる。
これがただの軍事的な暴走ならまだ良かったのだが。これがアナザー全国民の投票の末の市民による決定なのが恐ろしい。
そう、これはアナザー全国民の意志なのだ。
オリジン国民よりもアナザー国民の方が数は多いい、これは多数決による意志決定なのだ。
『了解した! 第7の街のバリアの中へ入ってエネルギーの補給をしてくれ、あと出来ればアインの割り算の勉強を教えてやってくれ』
真城和季が指示を飛ばす。
『了解したトップ』
「畜生ー! アインのヤツ後でぶっ殺してやる!」
不動兄妹は泣く泣くバリアを解除、第7の街へ逃げ帰り、バリアの中へ入った。
もうダメだ……と誰かは言った。
600兆の弾丸やミサイルや砲弾がメインバリアに直撃するその時……!
一匹の大怪獣が600兆の破壊兵器を一直線に破壊光線で全て破壊した。
――轟音――!
黒い煙の中から現れたのは破壊の象徴だった。荒ぶる神の化身がついに現れた。
四獣王ジゲンドン3匹は「来たか……!」と思った。
《一獣王ゴッドジーラが第7の街ノットの戦場に現れました!》
「「「ビヒヒイイイイイインン!!!!」」」
「ギイイイイガアアアアアアアアアアンンン――!!!!」
お互いの豪快な咆哮が戦場に轟く。
一応、武は真城に精霊無線で情報を伝える。
『こちら武、一獣王ゴッドジーラが現れた、まだ時間は稼げると思われる』
『了解、アインにさっさと割り算覚えろと伝えておいてくれ!』
「おらアイン! さっさと割り算覚えやがれ! 割り算割り算割り算割り算!」
「ひいいいいいい!?!? なんでこんな事に~~!?!?」
鼻水垂らして泣きながら頑張って割り算を覚えようとするアイン、泣きたいのはこっちだと叫ぶ大怪獣文の咆哮が響いた。
始祖の闇のエネルギーが枯渇するまで残り8分30秒。
♪――ケミストリ、明日の心、この夜明け、キミなら届く、キミから届く――♪




