第3話「転・世界種クールマ」
「まーた女性陣だけで話ししてるじゃない。いい加減この連鎖何とかならないの?」
「うちのせーじゃないだろ!? あの時うち居なかっただろー!?」
咲、姫、桃花がギルドの受付まで難しい話をしている中。ギルド『四重奏』の2人、信条戦空と桜愛鈴がいつものように喧騒しながらこちら側へ歩いてきた。
「あ、戦空さん、鈴さん、こんちちは、丁度あなた達の話をしていたところです」
咲が難しい顔をしながら思考を回転させ、長考に陥った所で助け舟が来た。
ただ歩いてきた戦空と鈴は、そこで立ち止まって3人を見つめる……。
そんな中、原因を作った鈴は、鈴なりの解答を指し示す。
「とりあえず風呂入れ。咲ちゃんと姫ちゃんはギルド内になある温泉に入って。〈終わる世界〉の氷魔法で、極低温の中に閉じ込められてる気分みたいだから。まずはゆっくり体を温めて氷を溶かさないと。桃花先生はとりあえず、夢の世界じゃなくて、現実世界で8時間寝ること! 昼寝でも何でもいいし、まずは体調悪化から体調改善に持ち直さないと!」
当たり前の事を当たり前のように言った。まずは負の連鎖から抜け出さねばならない。恋愛をしたいならその後にしてくれ。
光の雪側に居る3人の件はこれで物語は継続できるが。
太陽と共にある戦空の方はまだ自由度が高かった。
「何か生気が出るモンスターメシでも狩ってくるか? ウチだったら別にミノタウロス狩っても平気だよな?」
というよりいつも通りの楽観視である。何が出来るかは判らないが、今は手助けをしたい気持ちだった。
観察眼だけはいっちょ前に少年である。牛丼でも食いたいのかこの少年は?
「……、とりあえず、状況を確認しましょうか」
咲は銭湯へ向かいながら提案する。男性陣は戦空しか居ないし、戦空はミノタウロス討伐クエストへ向かったので、別に良いのだが、とりあえず話のすり合わせはしたいところである。
ギルド本部内、銭湯。
咲、姫、桃花、鈴の4人は体を洗ってから温かい湯船に浸かり始めた。今の冷え切った体温に対して、温泉はちょっと熱いぐらいに感じる。
「あぁ……温かい……体がホッテリだわ……」
ゆっくり湯船に浸かってのほほんと体を整えてリラックス、流石に氷が溶ける余裕はあるが……。その間も惜しいくらい。桃花先生はGM姫に注意点を言う。喋りながらでも体温は温まっていくのでそれはそれでいい。
「ところで姫ちゃん。あんた色んな所でゲームゲームばっか言ってたから、本や電子書籍よりゲームの方が売れてるの知らないでしょ?」
一泊間を置いてから、何でそうなったんだ? と疑問の声が漏れる。
「……え?」
「だから姫ちゃんがやるべきことは、出自上。ゲーム会社なのはわかるけど、まず小説や漫画の出版社を運営しなきゃ、アニメやドラマや映画のサブスクはあくまで遠回りした副産物だからね? わかってる?」
勿論、咲と姫は解っていない、なぜなら……。
「わかってるわけないじゃろ!? 夢が勝手に叶うなんて最近知ったんだから!?」
厳密に言えば、夢を叶える為の努力はしている。
してるがそれは願えば世界が叶えてくれるという大前提を知らなかった話を、知らなかった訳だ。
あくまで、漫画や小説の中でゲームをやるのが楽しいのであって、本や電子書籍を蔑ろにしていい理由にはならない。
本当に売れなきゃいけないのは、漫画や小説の方だ、もっと言うなら原作者や作画担当の給料面の方。あと担当編集者。
なのに咲&姫がゲームゲーム言ってたから、ユーザーがゲームばかりをプレイヤーとしてやっている。
確かに咲&姫は小説や漫画とはあんまり言っていないが。だからって本筋がおかしな事になっている。
「でも、世界が願えば叶えてくれる。なんて今さっき知ったんだから。私やお姉ちゃんにそれを早く気付けってのは無理な話じゃない?」
咲は、自分達姉妹にはその情報は無かったので気づくのは無理だったと反論する。
「時間の流れを変えないでここまで来たのならそうなる。あと付け足しだけど〈世界〉って言葉が抽象的過ぎてて、使いにくいから。姫ちゃん、世界種みたいな種族作ってくれない? 誰に話しかけてるのか解んなくなる。ルビは〈世界種〉とか……」
桜愛鈴が〈人間が願えば世界が叶えてくれる〉だと視覚的に分かりづらいので、姫の体質同様、宇宙種、コズミックビーイングみたいに実体化してくれ。という要望申請だった。
「まあ、それは一理あるな。鈴ちゃんが時間を止めてたのはこのキャラのせい。ってのが無いと。確かに分かりづらい……」
流石に神霊種でも見えない存在でした、だと今後のゲームや物語の展開に支障が出る。故にそこは大いに姫と鈴は同意する。
「じゃあそのキャラ? 世界種族第1号は私が作って私が育てるわ。咲には別のペット居るもんな」
姫が言っているのは守護霊獣の眞井と言う名の犬のペットである、普段は咲の影の中で寝ている小型犬だ、一応、神霊種や、守護霊獣である。
「あーうん、居るねマイちゃんが」
というわけで、創造神の名のもとに世界種を創造・生成する。
「流石に最初はカメさん型かな……この子がわしの使い魔じゃ」
概念系世界種のカメさん。姫はこのキャラに名を、クールマと付けた。
「なあ~~~~?」
可愛らしい手のひら大のカメさんが温泉の中から浮かび上がり、姫のもとへ寄り添ってきた。
名前◇クールマ
希少◇SSR
分類◇世界種_概念系_亀型の使い魔
解説◇天上院姫の使い魔。〈人間が願えば世界が叶えてくれる〉を視覚化した存在、本来人の目には見えないくらい大きく。また神霊種ですら視認することが出来なかった。願いの力がエネルギー源。クールマとは、インド神話に登場する亀で、ヒンドゥー教の主神ヴィシュヌの第2の化身とされる。
所持スキル
〈念願成就〉心から願っていたことが実現する。
人懐っこいクールマは姫に頭をナデナデされて気持ちが良いらしい。
「なあ~~」
「これで、世界視えない問題は解決じゃな」
姫が万事解決な表情を浮かべるが。現実問題、ゲームのほうが本や電子書籍より売れている方が地に足ついて問題である。
だがその現実問題は今すぐどうにかなる問題ではない、ゆっくり時間をかけて軌道修正と、解決する案件だった。なので切羽詰まった急を要する問題は現時点では解決したと受け取る咲。
「ん、じゃあ湯船に浸かってちょっと呆けていい?」
「うん、いいよ」
桃花先生が許可を出す。
やっと女性陣4名はひとまずリラックスタイムに入れた。体にくっついていた氷が溶けた気がした。
「あーじゃあテイルズ的な物語がいつもラスダン前の街は雪国だったのはそういうことだったのか……」
姫が他人事のように理解して言う。確かに今、4人で氷は溶かしたが〈終わる世界〉は何度でも使えるし、何度でも残り続ける。
つまり、必ず終われるという意味だ。元の時間軸に戻すという意味でもその有効度は群を抜いている。
だから例え、術者の体質が悪かろうが、きちんと終われるのならばそれを使って元の世界にお返しする。と言うのは、他人のキャラを勝手に動かし勝手に使い、元の場所へ戻すという意味では願ってもない場所だったわけだ。
つまり、ほぼ絶対に動かない固定されたレンタルショップみたいな感じだ。
ここを使えば。借りたものを必ず返せる、そう姫と咲は認識した。
とりあえず、これでやらなきゃいけない前情報は終わった。あとは自由である。
「姉ちゃん、このあと温泉からあがって、ミノタウロスの牛丼食べて、そのあとどうするの?」
「ん~、……五獣王ジゲンドンの件が残ってるだけだけど。あれもなー……ま、あとで考えるわ。1ターン休憩」
「……了解」
姉妹2人は、とりあえずこれからやることを後で考える事にした。




