第28話「結・無力なままでは終われない③」
真夜が駆け巡る、星々が輝き出す。
異変を感じたのは最果ての軍勢のアイン……ではなかった。真夜ノ剣から記憶が流れえ来る感覚、その剣の先には天上院咲。
咲にとっては何でだかは解らないが、真夜ノ剣の中に居る、日曜双矢のコピーが〈そこへ行け〉と言っているということだけは咲に判った。実際には感じただけで声を発してはいないのだが……。
少女には何があるのかは〈解らない〉、だが、このタイミングで光がその方向へ導いたという事は〈何か有る〉ということだけは判った。
咲が解った事は、真城和季の意思に反して動いたのは桜愛夜鈴、その方向に導いたのは光の守護者達、そしてその光を説明不要・無条件に発動できる状況下にあるのは信条戦空。
「やって! 咲ちゃん!」
「やれ! 咲!」
異変と戸惑いを感じている中、桜愛夜鈴と信条戦空が迷いを絶ちきるように後押しする。
全ては、遠い昔、湘南桃花が諦めた過去の雨の日、ということだけは湘南桃花には解った。
ソコで何が起こるかは解らないし、これまで積み上げてきたものも解っている、でも、光の守護者達がそこへ導きたいのなら……咲はそれを信じたかった。
「……大丈夫だよ桃花先生、私達なら、きっとまた会えるよ――!」
だって歌声だけは雰囲気だけで世界線をぶち抜いてるからね……!
そうして彼女は解っていた、選んで、悩んで、迷った末に、決断する。
咲は光の力を天から流れ星を出現させる。
「――天啓――!」
咲は叫んで星を振り下ろした。
よって、信条戦空がまず〈ザ・ユニティ〉を発動。
可能性の光を咲が天から降り光が戦空へ繋がり、力を与える。
光の光源が輝き、それを叶える――。
次に、天上院咲が何かがあると思われる〈雨の日〉に微調整。
繋げるように、桜愛夜鈴が詩分割刀の〈万有引力〉を発動、あの日の湘南桃花と今は名前は違うがオーバーリミッツの間に〈万有引力〉を設定する。これで2人は〈つなぎ止める力〉が発動している。あとついでに〈秩序の魔法〉も付け加える。
そして湘南桃花は、今居た時間から、皆が望んでいた時間へと吹き飛ばされた。
――……湘南桃花の視界は暗転する、時空のどこかに、またはどこかの世界線に吹き飛んでしまった――……。
視界がまるでノイズの入ったテレビのように画面が切り替わる。
そうして、メインの湘南桃花は、何故自分は雨の中、木の下で泣いていたのか忘れてしまうぐらいの時間と記憶を残して、そこに泣き崩れていた。
ヒザに泥がついていた……。
皆の姿が突如として、忽然として、消えた。
◇
――……彼女の事を、救えない――!
彼女は涙を流していた。そう思った次の瞬間、――意識と意識が、自分の予測しない方向から重なった。
誰もいない、しとしととした静寂の中……、雨だけが降り続いていた。
「……どこだここは……?」
湘南桃花はそう思った、なにせ〈あの時〉地図は描いていない。
皆も居なくなってしまった……、解るのは、あの時、桜愛夜鈴……スズちゃんが〈万有引力〉を発動させて消えた事……。つまり、歩けばきっと彼女に会える。
そのことだけは解ったので、泣いていた涙を拭って……、彼女は立ち上がった。
心と体が一致したこの状態で……一体何が出来る……? 心も体も非力だった。
「いや、正確に言うと。今はいつ? というより、ココはいつ? と言った方が正しいだろう……」
道標が無いからしょうがないので星を見る……。
「えっと……〈証明終了〉の前だから……2010年2月より前か……」
それ以上の記録と情報は読み取れない。
何故この時代に飛ばされたのか解らない、きっとさっきまで居た皆も、誰も解っていなかったに違いない。
ただ、光を信じた結果ココに居る。という結果だけが残っていた。
「えっと……結局私があそこから持ち込めたのって……運命の糸と運命論の違いだけ……??」
あとは〈変えられる〉のがお前の仕事、とかレジェンドマンが言ってたっけ……。
混乱に混乱が重なる。
なぜ皆がココにつなぎ止めたのか、わからない、歩いて、歩いて、歩き続けて。結局残った感情は……。
「――疲れたよ……」
愚痴だった。こんな雨の中外で寝たら、普通の人間は死んでしまう。
「アリスの家に戻るか……」
でも確か、追いかけていたはずだ……彼女を……。
「追い……かける……か……」
そういえば、いつも誰かに追われていた気がしたのは何故だろうか……?
そこで1つの疑問が繋がるが……もう気力が出ない……。
たぶん、また星を見れば情報も入ってくるのだろうが。そもそも動く体力気力がもう出ない、前後で発生した記憶と想い出の量が、尋常じゃ無い情報量が、彼女を苦しめていた。
「何で……ここに……」
意識が盲ろうとする、アレだ、気疲れだ……。もう自分1人、人間1人ではどうすることも出来ない。
それだけ言い残して、結局彼女は、またしても、というより、ついに、力尽きた。
意識が途切れた――。
◇
小雨の中、朝日が昇る、森と木と地面の這いつくばり、彼女は居た。ポワリ――と、暖かな光の泡が彼女の身を包んでいた、凍死とか、衰弱死をしていない……。当時、湘南桃花が身に付けていた〈太陽の波紋ブレスレット〉が起動していた。
これにより熱エネルギーが奪われずに済んだ……。
「そうか、証明終了の前だから、私が攫われる前か……」
だからブレスレットが破壊される前なんだ……。
まず状況確認しよう、ここは2010年2月前、アース018なのは間違いない。
ついでに吸血鬼大戦前後の時代だ。
「あともう1つ数値が欲しいな……座標とかそれっぽいの……」
とりあえずこの暦は西暦なんだけど……今現在歴でもさして変わらないだろう事は想像はついた。だが問題は場所だ、本気で吹き飛ばされたのでマジで判らん。
ひとまず状況を確認しよう、そう思った時……。
♪――変わらない、変わり続ける、今巡る、会えない時も、キミが伝わる――♪
頭の中から歌が響く、周りに居る動物達には聞こえていないようだった。
いきなり歌声が聞こえたので動揺したのが自分だけ、他の動物達は動揺や反応をしていない。よって、この時間軸に影響は与えていないことは判るのだが……。
「世界線をぶち抜いて歌声が聞こえてくる……、まだ皆何処かで戦っているんだ、行かなきゃ……」
でもその前に、この時間に〈つなぎ止めた意味〉を知らないといけない。
でなければ永き昔も、今も、〈この雨〉を展開する動機が無い事になる、目的が無ければ光の守護者達がこの雨に固執する意味が無くなる。それはおかしい。
1回だけなら偶然で終わるが、2回や3回や〈今さっき〉まで〈ずっと〉やってたとなると流石におかしい、意味が無い方がおかしい……。
やったのはスズちゃんズの誰か、おそらく天命アリス=スズちゃんだろうが。
感覚論になるが、運命を変える力があったとしても。その過程にはまず〈理解・分解・再構築〉が必要になる。
だからまず本人が知ること〈理解〉することから始めないと変えられないのだ。
今無理矢理強引に、元の世界へ戻っても、運命も変えられないし、未来も変えられない、あの状況下で、あえて過去へ飛ばしたということは何かしらの意味があるはずだ……それを探さなければ。
前提条件として光の守護者達を信じるなら、が付けられるが。
〈やるべきこと〉は確かにある、だが桃花は〈やりたいことをやる〉と決めた。
――さあ、立ちなさい、立てるはずです――。
誰かが言った、否、自然が言った。
朝日の中、なおも暖かな小雨は降り続けている、この何かしらの〈法則性を持った雨〉が……。
「……?」
サア……と風がなびいた、桃花は〈風を読む〉を使う、大自然でのサバイバルテクニックだ。スキルとかアビリティとかではなく〈感じる力〉なので〈センス〉の方向性だろう。彼女はただの普通の人間だがセンスだけはあった。
「この雨……結界らしいな……」
判る範囲だと、闇の力を上書きしている光の力……ぐらいしか読み取れなかった。
一夜明けて体力が回復したので、彼女は再び立ち上がる。
「……今度は太陽の波紋ブレスレットを破壊されないように動くか……」
確証は無いがそれだけを指針にして動き始めた。
ここは確か、やぶれた世界というか、本当に破局したあとの世界なので、ここから先の時系列は何も無い。それを今から歩いて進む。
「ん~……秘十席群も同行させたいところだけど、念のために亜空間歴で〈目覚めの力〉の解放の為に眠って貰ってるしな~……」
そもそも目覚めの力とは、吸血鬼大戦の時に〈未来でよりよい可能性に賭けて眠りについた私〉だったはずなので。
確か〈今はこの可能性が最善、だからこの世界線を通ろう!〉と決意して受け入れたはずだ。でも……祈っただけで……。
「描いてないんだよなあ~……」
たぶん助けたい一心だったのだろうけど、まさかここまで重要になるとは思っていなかったのでどうしたもんかとは思う。
「……〈かいてない〉場合のお作法をクールマに教えないとな~~……」
今はそんな余裕は全然無いのでとりあえずてくてくと歩く、何か良い感じのものはないかと探索を続けた。
だが、EWの法則として言える事はある。
それは【ザ・ユニティ戦で眠りについているのは秘十席群であり、湘南桃花は目覚めている】ということである。
始祖の闇のエネルギーが枯渇するまで残り9分00秒。




