第22話「承・絶対点のワンシーン」
最古来歴10年、第7の街、破局した世界ノット。インカージョン発生空間。
桜愛神武と親友の湘南竜尾は〈始祖の闇〉と対峙していた。
始祖の闇には実体が無い、そして〈金星の力〉も使っていた。
桜愛神武は吸血鬼大戦の余波〈波動〉を科学と魔術でコントロールできたので、自分が大罪や責任、桜愛夜鈴や湘南桃花の過去の世界線や〈始祖の闇〉を一身に受けて、その代償として湘南竜尾の〈運命寿命〉が急激に消耗していた、もはや文字通り風前の灯火だった。
それでも時間は流れ続ける。自分達の居る時間は止められた、だが別方向、否、あらゆる方向から押し寄せてくる時間の洪水には対処出来なかった、例えるなら別世界線の激流……。
今、始祖の闇は桜愛神武を憑代としている、これで諸悪の根源は体内に封印できたが。その代償が親友の命だった。神武は悲鳴をあげる。
「こんなはずじゃ……! 失敗だ、失敗だ、失敗だ! 何かの手違いだ! 間違いだ! 大丈夫! きっと治せる! 待っててくれ! 未来の私に何とかしてもらおう。可能性の世界線を無限に探る! だから待っててくれ! 必ず俺の手で……!]
「やめろ、そういう問題じやない」
闇の力の代償で瀕死状態な中、湘南竜尾は桜愛神武の止まらない手を優しく静止させた。
「じゃあどういう問題なんだ! なぜ私が知らないことを知っている!?」
桜愛夜鈴同様、桜愛神武も同様に混乱する。これはつまり、湘南竜尾しか知らない独自のルールが存在していることの表れだった。
「どの時代や暦に移動してもこの事象は変えられない、上書きは出来ない」
何かとてつもない重要なことを伝えようとしていることだけはわかった。
「……!?」
友が死に際に呟く一言一言を、神武は忘れないように脳内に叩き付ける。
「ここは……〈絶対点〉だ、私がここで死ななければ、光の守護者達は過去へ過去へと振り返り続ける、それじや駄目なんだ。時の流れは変わらない」
「え!? 何!? どういうことだ!? どこを視ている!?」
神武は竜尾が視ている視点が、完全に別次元の方向性だと確信した。
「インカージョンはまだ終わっていない」
視ればわかる、時の流れはあらゆる方向に止まっていない、流れ続けている。
「光の守護者達を導くには、元の世界も多元世界も未来に目を向けて貰わなければならない。そうしなきゃこの負の連鎖は変わらないんだ」
桜愛神武が過去を視ていることは仕方ない、実際過去の人間だからそこしか視れない、だが、それを視た光の守護者達まで過去の光を伝承し続けたら、バタフライ効果で連鎖的に過去話だけが伝播する。湘南竜尾はそれを恐れているのだ。
過去から過去へ、また過去から過去へ、その積み重なりの負の連鎖。
つまり未来に時間の流れが流動しないのだ。
「……あんた何者なんだ。科学でも魔法でもない、その力は一体何だ!?」
桜愛神武は湘南竜尾の事はよく知っている、何の取り柄もないごく普通の人間だ。
ただの人間だ、そのはずだ、なのに湘南竜尾は科学でも魔法でもないもっと根源的な〈何か〉を持っていることに気がつく。
「私は……、人間だ。人間として、人間が出来る範囲のことを人間としてやる。……そういう生まれだ」
竜尾はありのままを言い、神武を言葉のままに受け止めた。
「竜尾……! 死ぬな! 戦人は何をしているんだ!? 何故ここに居ない!? あいつは光そのもののはずだ、なぜ助けに来ない!?」
「おそらく……お前は闇に染まったが〈害虫〉には想えなかったんだろう。戦う理由がない、だから彼は来ない」
死にゆく友の前にすら、信条戦人は助けに来ないのか……!
「神武、お前は未来を照らし続ける闇で有り続けろ。次の世代を、たのんだぜ」
例え闇であったとしても、未来を照らし続ける灯台であれと、人々の道標となれと、竜尾はそう言った。
「竜尾……!?」
「俺からの、最後の遺言はただ1つ」
「竜尾……――!」
「変えるなよ、この、ワンシーンを……」
そうして、心臓の流脈は止まり、彼の命の灯火は消え、瞳の光は消え、息を引き取り、手が力なく地に落ちた。
「ちくしょう……! ちくしょおおおおおおおおおおおおおおーー!!!!」
こうして、湘南竜尾が命を賭して作った時空間〈絶対点のワンシーン〉が完成した。
その後、桜愛夜鈴や湘南桃花に大罪や責任の意識は芽生えなかった。理由や動機は大罪や責任、戦争の傷跡を次の世代の娘たちに引き継がせたくなかったから。
だが、桜愛神武は光の守護者達に、これらの出来事や歴史。見聞を広めることは許した。
こうして〈古来の深海図書館〉と〈未来の宇宙図書館〉が出来上がり、そこを神武は海賊団として〈縄張り〉とした。
その後、桜愛神武は己の無力さから。最古来歴1年、最果ての軍勢の原型、陰陽五行論思考が出来上がる。
◇
ピ――――――……!
同時刻、現実世界。
湘南桃花の父親、湘南竜尾の〈本体〉も息を引き取った。
「お父さん……何で……寿命じゃないのに、どうして……」
湘南桃花は何も解らないまま、ただ時間だけが過ぎて行った……。
桃花は悲劇に慣れすぎてしまったので〈涙が滲む〉ぐらいしか感情が出なかった……出来なかったのだ……。




