第2話「承・努力の止め方」
「王道と覇道って何が違うと思う?」
「え、何? いきなり哲学?」
ドアの世界からエレメンタルワールドへへ降り立ってからの草原で、姉妹の開幕1番の発言がそれだった。
「いやさ、科学サイドと魔術サイドみたいな、明確な区分がはっきりしていると後の展開がやりやすいなと思ってさ。8種類の職業クラスを考えるよりも、まず王道か覇道かの方を考えた方が〈私達らしい〉かなってさ」
つまり、今後は王道サイドと覇道サイドの物語をやりたいな、とGM姫は思っているということである。
確かに今の今まで道という曖昧で概念的な歩幅で歩いてきたが、その種類は決めてはいない。
咲は敵対勢力を作るのはあまり良い気はしないが、わかりやすさという意味では、別けておくというのは解らないでもない。
「その区分で行くのなら、私達、放課後クラブと四重奏は王道サイド。逆に、非理法権天と最果ての軍勢は覇道サイドになるんじゃないかな? 真っ二つに別けると」
「ふむ、まあ間違ってはいないGIG4でもその区分だろうな」
物語的にはギルドカードに書く内容みたいな感じだろうか……。
「じゃ次、8種類のクラス別け。流石にここまで冒険してきたら、嫌でも分類できるじゃろ」
「そうだね、少なくとも。怪盗は存在するね」
海賊の比重が大きすぎるし、桃花先生の内容にも泥棒が関係している。無関係とは今更言えない。
その上で優先順位を決める。
「王道サイドの怪盗と、覇道サイドの怪盗が存在するってこと?」
「そんな感じそんな感じ。まあこの世界の王道と覇道の定義も曖昧だけどな」
内容はクラス分けの段階に入った。
「じゃざっくり、今までのクラスをつらつらと言うよ。精霊・魔法剣士・運営・政府・AI・幻獣種・神族、秩序派……あとは人間かな」
体質と言うなのタイプを度外視しての職業欄だとそんな感じだろう。
草案としては上々だろう。
「これらをクラス化すればいいのか、怪盗士、精霊士、魔法士、運営士、政府士、機工士、幻獣士、神族士、秩序士、人間士……もうちょい練れるな」
現在10個ある、これから削るという削り作業が何よりも難しい。
それから色々と議論して……。
「統治士、精霊士、秩序士、怪盗士、魔法士、機工士、人間士」
今度は削りすぎて8クラスじゃなくて7クラスになってしまった。
「あと1つ足りないね、どうしよっか?」
「んー戦闘士じゃな」
「……そうだね、バランス的にそうなるか」
あとは順番を入れ替えて。
8クラス。人間士、戦闘士、精霊士、怪盗士、魔法士、機工士、秩序士、統治士。の順番に並べ替えて。8職業の完成である。
「あとはギルドカードだね」
「そうじゃな」
2人はのギルドカード簡単にこうなった。
天上院咲
2サイド、王道サイド。
8クラス、戦闘士。
体質、文法型。
天上院姫
2サイド、王道サイド。
8クラス、統治士。
体質、自然型。
「まあ、こんなもんか」
「あとは?」
「ギルドカード作ったらあとはギルドの受付嬢だろう」
◇
第1の街始まりの街ライデン、ギルド本部。
そこには湘南桃花受付嬢が居た。桃花は自分の右手をスイっと上げて、時間と空間を止めた……。
「ああ、警戒しないで、別にドアの世界の燃料切れを狙ってる訳じゃないから。ただ2人の思考が追いつくのを待っているだけ」
理由が解らなかった姉妹2人はたっぷり数秒使って、ようやく思考が追いつく。心と体が追いついた。先に声を出したのは咲。
「……スズちゃんの神速の所から動いていない?」
「世界が……時間が……止まった……」
姫はその原因を察して、桃花がその答え合わせをする。
「正確には努力が止まった。よ……。私の大学時代の卒業論文で、継続して努力し続ける方法、って論文があってね。そのアンサーは〈1日1回1本線を引き続ける〉を習慣化すれば努力は続くってものよ。これが真実。これが答えよ」
そこへ、思考と原因と社会が流れ続ける意味を理解した姫が言葉を紡ぐ。
2人の神には時止めは効いていない。
「とはいえ、鉛筆やペンタブレットは止まったけど。タイピングは止まらなかったわけか……。だから今の今まで手は止まらずに先へ先へと進んでいったと……」
桃花がその意味を補足する。
「そういうこと、つまりこの〈時止め〉の制御の法則は、手の行動と意思で、書く描く事と、何より願う事に本質は有る。例えば、スズちゃんが描き、スズちゃんが望み、そして世界が叶える。そうして、世界全部が止まる。紙は問題じゃない」
なるほど……、と姫は納得するが咲は事態が飲み込めない。姫は例え話をする。
「咲、具体例をあげるなら禁書目録の〈元の世界〉と〈次の世界〉の攻防があっただろ? 私達は世界を先へ進めたい、でも、世界が元に戻したい。その理由は世界がスズちゃんの神速を使った所で止めていたからだ。だから禁書の内容的にも元の世界へ戻った、言い換えれば、スズちゃんが神速を願わなければ次の世界へ行けたことになる」
当時のスズちゃんに、世界そのものを操っている万能感や全能感は無かったはずだ。
しかしそれでも長年・数年・十数年間、止められたのは本当に。スズちゃんが願い、皆も、世界も願ったからだ。
願いを叶える本質はそこに有る。だからペンでも紙でも、ましてやサインや印鑑でも効果は発揮しない。〈その時願っていたかどうか〉に全てはかかっているのだ。
咲は、桃花先生とGM姫の説明に、思考と理解が、立ち止まってようやく追いつく……。つまり結論は〈変わっていない〉。
「そっか、えっと、つまりキャクターに関する所は全部止まってた訳か……」
咲は自分なりに噛み砕いて解釈する。
桃花先生が間を一息ついてから「で?」と質問する。
「戻って来たあんた達は何処に行きたいの? 今は」
つまり、次の道標、アンカーポイントを何処に決めるのか? と聞かれているわけだ。主人公の咲がそれを〈願えば〉、世界がそれを〈叶えて〉くれる。
世界がソレを叶えてくれることは、折り紙付きで実証積みだった。
「……、確認ですけど、次のアンカーポイントを決めれば。世界はそこで止まるって事ですよね? 願えば」
桃花はダンマリしながら頷く、首を縦にふる。
「なら、〈神様になった日〉と〈ソラは知っている〉あたりをアンカーポイントにしてください。〈再証明終了〉は、ちょっと自信無くなって来ました……」
桃花は、にっこり微笑んだあと、念のために――神速。
再び手をひらりと回したあと、時間と空間を動かし始めた……。




