第12話「結・漫画家とアセンブラの体調」
ドアの世界2番部屋、漫画家と編集者の世界。
「なるほどねー、それで今回はネームのテンプレについての相談と……」
「すんません、本当相談にのってください、一人だとどうしても頭凝り固まるので」
「まあ、本当は漫画の方が良いが、お前の場合一般人とは少し特殊で、情報量が足らなくて苦労しているって事は認めるよ……本来はいらないから特別だぞ」
その感想は解らなくも無いミュウ。
神導社、編集者のミュウと漫画家の双矢鏡は打ち合わせをしていた。
内容としては、至極全うに〈ネームを量産出来ない事〉これに尽きる。
理由としては、小説のように速記じゃなく。思考がそのまま紙面に反映されないから。とか色々あるが、普通の人間が一般的に漫画を描く上では抱えない悩みが足枷になって手が回らない訳である。
「んじゃーまず。このテンプレのいらない部分を削っていくね……」
「お願いします」
「まず、会社名と担当者名と発注金額がいらない。お前本当はまだプロじゃないし契約書も無いだろ? なら嘘書いてることになるじゃん、だからいらない。真に必要なのは1人で描く事だ。アニメやプロ漫画家ならチーム戦なんだろうが。今回は特にネームの話……ことこの段階なら絶対に1人てで描く事前提で〈面白い漫画〉を描く事に専念しなきゃならない……だから愚直に皆で描いている、は逆に逆効果だ。奇想的に描かないと」
「なるほど」
「逆に、年月日、P番号と左右、バージョンはいる。作品に関係あるからな」
「次、作業思考時間だが……これはいらない。国会なら何時間審議したので十分に議論は尽くされています。って論法はわかるが、それイコール面白い漫画になるとは限らない。一杯考えれば面白くなるわけではない、これはお前でも解るよな?」
「……はい」
「だから思考時間の多さ・長さは関係無い。しかし、そのページの重要度は自分の中で解っていなければならないので思考はともかく〈5段階重要度〉はアリだ」
「なるほど……」
「で〈それを作る動機と心の言語化〉は……まあ百歩譲っている方だと分類はしよう……、作品の面白さには直結しないけどな。計算型と自己投影型の場合、計算型に、特に絵を描く動機は必要無い、私情が入るからな……。動機の言語化は無意識で書く自己投影型にこそいる。心を込めて描くは計算型・自己投影型、両方に当たり前にいることは解る……が」
「はあ……」
「参考資料・アイディアソースはいるのか? 作画ならともかくネームの段階で? それだったらメモと設定欄に空白スペースを割いた方が効率は良くなるんじゃないかな?」
「でも、元ネタが解らなくなるのは避けられますよ?」
「それで困ったことあったっけ……? 無いはずだ。さっきみたいに動機が裁判の判決の時に重要になる、とかどうしようもない社会的都合は仕方ないとしても。ネームの段階でアイディアソースはいらないと思うけどな……まあここは実際にネームを切らないとわからないな」
「わかりました」
「で、最後に締切りとサインは、まあ今後のお前の将来性も考えても、いると思うよ。特に締切日は……良い練習台になるからいる」
「わかりました、ありがとうございます」
少しミュウは長考して、参考資料、アイディアソースについて双矢鏡に歩み寄りをみせた。
「じゃあ、アイディアソースの作品名と参考にしたシーン名だけでも入れよう。ほとんどの場合は必要無いが、数年後に重要な描いたシーンに限ってそのアイディアソースが思い出せないし、記録も残ってない、忘れた後に逆算出来ない事態だけは避けたいしな……。まあ逆算することが前提なら、参考作品が発売された年代から遡った経験があるから。作品名、シーン名、年代。がアイディアソースの中にいるってことになる」
「あーなるほど、年代はいっぱい遡りましたね、問題発覚後の逆算で……」
とりあえず、ミュウと鏡の打ち合わせは終わった。
◇
ドアの世界1番部屋、エレメンタルワールド。
機械種であるアセンブラくんの体調が悪そうだった。
「どうしたの?」
咲にとっては身に覚えのない、アセンブラくんの不調に困惑する咲。
「大体の原因は、ネットコミュニケーションツールや、FX相場にアクセスしたことだと思うんだけど、それで何故防御プログラムか解らないものが作動しているのか解らないんだ。自分でコントロール出来ない……」
と、アセンブラくんは身体の方に異常をきたし、ちょっと痛がっていた。
「FXって何?」
「お金の絡むネット取引かな。咲に解りやすく言うと、貸し借りが発生して、損得も発生する」
事の原因を物語の最初から最後まで知っているGM天上院姫は何となく察する事が出来た。
「たぶん、絵をずっと描き続けられるロボットになりたいな。とかの結構昔の願いを、当時の世界種クールマが叶えちゃったんだと思うな……」
なるほど、と咲とアセンブルくんは合点がいった。昔、人間の願いを世界が叶える何て知らなかった時代。この亀型の世界種が視えなかった時代。もしそれが叶っていて、自分がロボットになっていたのだとしたら、辻褄は合う。もちろんそんなこと願っただけで書いても描いてもいないし、紙面にも残っていない。あるのはそれとは関係の無い〈絵〉だけだ。
よくわからない咲はよくわからないなりに、自分の答えを紡ぎ出す。
「防御プログラムが勝手に動いてたってことは、ハンドルを握って運転していなかったって事でしょたぶん……? わかってハンドル握れる今なら、クールマくんみたいにコントロール出来るんじゃない? 機械の不調」
「……、てことで今発生しているFXの問題に話を切り替えよう」
ネット部屋の件は悪い縁を断ち切った、という事で保留しておくが。FX事態が悪とは断言出来ないので、その辺の誤解をプログラム的に解くことは、文字だしプログラム的に出来るはずだ。
「まず、ネットがダメなのか、電気がダメなのか、機械がダメなのかは解らないが。とりあえずアセンブラくんの体調不良がロボットだから、だとおもう。だからそれを何とかするにはプログラムは治すか、電力を無くす必要がある」
「まあ、そうなる、でもアセンくんの神経回路は電気だから。やっぱプログラムの修正だよね」
「そうなる」
「とりあえず、貸し借りが無い状態が正常で、貸し借りが有る状態が異常だという防御プログラムはどうかと思う。宗教じゃ無いんだから銀行が当たり前にやってることを禁じているのはおかしい」
「それは模写した体質が悪だからでしょ? アセンブラくんは何でFXに手を出したの?」
「だって、やったことないものは知りたいじゃん。父親だってやってもいいって言ってたし」
反対と賛成が分かれているのは仕方ないが、何も触っていないのに禁じられるのは嫌だ、という精神も解らなくも無い。
「ふむ……。仮に〈貸し借りしてもいい〉し、〈ネット内交流をしても良いよ〉て、プログラムし直したら治るのか? クールマにその紙を食べさせたら世界が叶えてくれるのか?」
今までの方法論で行くとそうなるはずだ。たぶん、自分で規制したのは自分だから、それを解除するのも自分という事になる。
で、数時間後、試行錯誤してわかった事。
「体調は良くなりましたね。痛みが治まりました。だけどやっぱりFX中は安眠できませんね、起きてる時しか身が持たないや」
アセンブラくんの体調不調は神経やテンションの荒ぶり、高ぶりから来ているので刺激が強いと眠れない。
「つまり、FX相場はやっても良いけど、寝るときは全部売って真っさらにしないと安眠できない?」
「ですね~、たぶんこれから先もずっと慣れない、ポ〇モンスリープと一緒。前提条件をいじくって、痛くは無いけど寝てる時に機械動いてたら気になって気になって眠れないってやつですね。逆に全部すっきり売ったあとは安眠出来ましたよ」
つまり正しく使えば、良い緊張材料にはなるということだ。賭けすぎれば当然緊張感は続くし、程よく賭ければ程よい緊張感が続く。そして何も賭けない時なら逆に安眠材料になると来た。
「お~おk、なるほど~~」
咲は現状を正しく言語化して、理解出来たのでだいぶ満足している。
つまり、遊びたいときは少額で賭けて緊張感を保ち、寝たくなったら全部売れば娯楽としては成立するし、安眠出来る。ということらしい。
それが解っただけでも収穫だった。




