17.なんて過激な……! ※ゼル視点
――眠れん。
俺はベッドの中で目を閉じたまま、深い溜め息をついた。
すぐ隣では、アーデルが穏やかな寝息を立てている。心なしか彼女の吐息が妙に耳に残り、気になって仕方がない。
あの流れでつい「俺のベッドを使え!」などと口走ったのが運の尽きだった。
しかし、あのヴォルターとかいう騎士とアーデルが一緒に寝るほうがあり得ないことだから、これしか道はなかったのだ。
……やはりあの騎士は床に寝かせるべきだったか。
アーデルをソファで寝かせるわけにはいかないし、あの騎士のために俺がソファで寝ることもない。
だからこうしてアーデルと同じベッドで寝ることを選んだが、まったく眠れそうにない。
「いやいや、落ち着け。俺は聖神だ。元は偉大な魔王だ。こんな人間の小娘に動揺するなど、あり得ん……」
ぶつぶつと、そう自分に言い聞かせながら、そっと目を開ける。
月明かりに照らされたアーデルの寝顔が、すぐ隣にある。安心しきった顔で、微かに唇が動いていた。
「……ゼル……むにゃ……」
ドクンッ――。
「な……っ!?」
彼女の可憐な唇が俺の名を呟いた瞬間、大きく心臓が跳ねた。
なんだ今のは!? まさか寝言か!?
俺の名前を寝言で……っ!? 俺の夢を見ているのか!? 一体どんな夢なんだ――。
べ、別に動揺することはない……これはただの――。
ゴロッ。
そのとき、アーデルが寝返りを打った。俺のほうへ向きを変え、無防備にすり寄ってくる。
「っ……!?」
やわらかい髪が俺の頬に触れる。更に彼女の腕が俺の胸にぽすっと乗り、そのまま抱きつくような形になった。
どうすればいい!? お、起こすべきか!? いや、しかし寝ているアーデルにそんな無体な……!
冷や汗がじわりと額に滲む。
アーデルの温もりが、まるで俺を試すかのようにじわじわと広がってくる。
「ゼル……ふふ、大好き……」
「っ!!」
爆弾発言が飛び出し、俺の思考は完全に停止した。
い、今のも……寝言だよな!? そうだ、アーデルは俺のことを家族として好きなのだ……以前、俺がフェンリルの姿をしていたときから「好き」と言われていたではないか……!!
「何を動揺して……」
そう言い聞かせながら気持ちを落ち着けつつ、ぎこちなく身体を固くしていると、アーデルが小さく身じろぎ、今度は俺の胸元に顔を埋めてきた。
むにっ。
俺の腕に、何とも言えないやわらかい感触が押し付けられて、限界を迎えた。
「ぬ、ぬぁあああっ!!!」
耐えられなくなった俺は声を上げ、勢いよくベッドから飛び降りる。
「……んぅ? ゼル、どうしたの?」
アーデルが目を擦りながら、ベッドの上から俺を覗き込んでくる。
今自分がどれほど過激なことをしたのか、まるでわかっていないようで、「うるさい」とでも言いたげな顔だ……!!
「お、俺はソファで寝る! いいな!?」
「え……? どうして??」
「いいんだ! おまえのために、そうする!!」
「私のため??」
俺は熱くなっている顔を必死に隠しながら、ソファに毛布を引っ張った。
アーデルは「変なゼル……」と呟きながらも、眠そうにあくびをして再びベッドに身体を横たえさせた。
それからもドキドキドキドキと高鳴って止まない鼓動に疑問を感じながら、俺は朝が来るのを静かに待った。