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13.王宮からの使い

 その日の午後。

 昼下がりの陽光が差し込む玄関前に、一台の馬車が止まった。


「――聖神ゼル様、聖女アーデル様。国王陛下の名において、先の非礼を深くお詫び申し上げます」


 馬車から降りてきた男は、私とゼルを前に跪き、そう口にした。


 彼の名前はヴォルター・エイワーズ。王宮に仕える騎士なのだとか。

 輝く金髪に碧眼。騎士らしく鍛えられたがっしりとした体格。清潔感のある好青年といった印象だ。


「陛下直々の謝罪をしたためた文と、お詫びの品をお持ちしました」


 そう続けて手紙を差し出してきた彼の後ろには、馬車に積まれた大量の荷物。


「どうかお受け取りください」

「……そんなものは、いらぬ」


 ゼルは彼の謝罪に、そっけなく答えた。まるで興味がないとでも言いたげな態度だ。


「ゼル様! どれも一級品ばかりですよ! この布はすごく肌触りがいいですし、こっちの茶器は今王都で人気の職人が作ったものです!!」

「やめろ、オリヴァ。茶器などどれを使っても同じだ」

「同じではありません!!」


 詫びの品を見て、オリヴァは目を輝かせている。

 そんなオリヴァに、ゼルは腕を組んで呆れ顔。私はそんな彼らを横目に、少し困ったように微笑んだ。


「お気遣いなく、ヴォルター様。はるばるお疲れさまでした。どうぞ、お茶でもいかがですか?」


 私の言葉に、ヴォルター様は一瞬驚いたように目を瞬かせた後、すぐに笑顔を見せた。


「よろしいのですか……? それでは、お言葉に甘えて」


 すっかり喜んでいるオリヴァを前に、ゼルも仕方なく詫びの品を受け取ることにしたらしい。

 小さく溜め息をつきながら、ヴォルター様を屋敷の中へと促した。



 応接室に案内し、私は早速いただいた茶器を使ってあたたかい紅茶を淹れた。

 ヴォルター様はカップを手に取りながら、感慨深げに私を見つめている。


「聖女アーデル様には、以前から騎士団も大変お世話になっております。あのときの治癒の力には、皆心から感謝しておりました」

「ああ……ヴォルター様はあのときの……」


 イリスに、怪我をした騎士団の者たちの治癒を頼まれたときのことだろう。

 あのときはたくさんの騎士を治癒したから、一人ひとりの顔は覚えていなかった。


「アーデル様のおかげで、どれだけの者が救われたことか……! あなた様のあたたかく慈愛に満ちたお心に、俺はただただ感服するばかりで……!」

「そ、そんな……大袈裟ですよ」


 あまり褒められ慣れしていないから、そんなに言われると照れてしまう。それに、治癒魔法はイリスのほうが得意だし、私はとにかく無我夢中だったから、彼のことも覚えていない。

 ヴォルター様は素直で実直な方なのね。


「……ふん」


 そんな様子を横目で見ていたゼルが、不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「ゼル? どうかした?」

「いや、別に」


 むくれたように腕を組み、そっぽを向くゼル。


「本当に素晴らしい方ですよね、アーデル様は。美しく、聡明で、慈悲深く……それでいて、わずか十歳で魔王を倒してしまうほど、お強い……!」

「おい、騎士」


 私を褒め続けるヴォルター様に、突然ゼルが声を張る。


「は、はい?」

「おまえ、もう帰れ」

「え……?」


 ゼルの目が鋭く光り、ヴォルター様は一瞬固まった。

 私は慌ててゼルの腕を引っ張る。


「ちょっとゼル! せっかく来てくれたのに、そんなこと言わないの!」

「こいつ、アーデルのこと褒めすぎだろ。なんのつもりだ?」


 ゼルの不機嫌さは増すばかり。私は思わず苦笑し、慌ててヴォルター様にフォローを入れた。


「すみません、ゼルは……その、きっと私ばかりが褒められて、妬いているんだと思います」

「!? ち、違う!」

「ああ……なるほど。それは失礼しました。もちろん聖神ゼル様もとても偉大ですよ! それに、思っていた以上にハンサムなんですね。騎士団にはたくさんの男がいますが、これまで俺が見てきた中で一番いい男ですよ!」


 ヴォルター様は、すかさずゼルのことを褒めてくれた。……本当に優しいのね。

 ゼルも満更でもなさそうにしている。


「む……そうか?」

「そうです、そうなのです! ゼル様は偉大なお方! わかっていますね、ヴォルター殿!」

「はい、聖神ゼル様のご加護があればこそ、この国は安泰です!」


 ヴォルター様とオリヴァが、意気投合してしまった……。



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