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10.俺の復讐は終わっていない ※ゼル視点

「――それにしても、聖獣フェンリルだと思っていたら、まさかゼルが聖神だったなんてね」


 王都から来た者どもを帰らせた後、俺の隣でアーデルがぽつりと呟いた。


「言っただろう? 俺は何百年も生きていると」

「本当だったのね」


 まぁ、元はおまえにやられた魔王だがな。


 聖神は魂レベルで何百年も生きてきた者にしかなれない存在。

 俺は魔王の時代から異常なほど魔力を持ち、聖女の力によって滅ぼされ、魂が清められるという奇跡的な経緯で聖獣フェンリルに生まれ変わったのだろう。

 その後、更にアーデルとともに過ごしたことで、俺は聖神になったのだろうか――。


 元魔王の俺が聖神とは……笑える話だ。

 魔王と聖神は、まさに正反対。相反する存在だというのに。


 だが、まぁいい。

 そんなことより、俺は人の姿を手に入れた。


 さぁ、今まで犬扱いしてくれた礼をたっぷりさせてもらおうか……!


「よくも俺を犬のように洗ったり梳かしたりしてくれたな。仕返しをしてやるから、覚悟しろよ、アーデル」

「え? 仕返し?」


 俺の言葉に、きょとんとした表情を浮かべるアーデル。

 大きな瞳がぱちぱちと瞬きをして、俺を見つめてきた。


 ふ……、そんな無邪気で可愛い顔をしても無駄だ。

 この俺を辱めた報い、きっちり受けてもらうぞ。


「……それって、今度はあなたが私の身体を洗ったり、ブローしてくれるってこと?」

「!?」

「気持ちは嬉しいけど、さすがにその見た目だとちょっと恥ずかしいなぁ」

「ち、違う! そういうことではなくてだな――!」


 一瞬それを想像しかけて慌てる俺を見て、アーデルはくすくすと笑う。まるで俺の反応を楽しんでいるかのようだ。


「聖神ゼル様。私はこれからもあなたをお守りし、仕えます」


 そして、不意に表情を引きしめ、淑女らしい所作で胸に手を当て、俺の前に跪く。

 そのあまりの豹変ぶりに、鼓動が高鳴った。


「……ふん、おまえは聖女だろう、俺が守ってやる。特別だぞ」

「あら」


 アーデルの慣れない態度に、俺は動揺してしまった。その動揺が悟られないよう、視線を逸らして呟いたが――。


「そういえばゼル、エドガー様に『アーデルには指一本触れさせん』って言ってたよね。あれすごく格好よかったよ」

『あれは……! 単なる言葉の綾というか、単にあいつらにだな――!』

「ふふ、ありがとう、ゼル。大好き!」

「……!!」


 アーデルが可愛らしい笑顔で俺に抱きついてきた瞬間、俺の心臓は一際大きく跳ね上がる。


 ――これは、なんだ? アーデルに抱きつかれると、なぜこんなにドキドキするんだ――。


「か、勘違いするな! 俺には別の目的があるだけだ――!」

「ふふ、そうなのね」


 にこにこしているアーデルを前に、不意に訪れたこの鼓動の乱れに戸惑いながらも、俺はすぐに自分を取り戻す。


 ふ……っ、せいぜい油断しておくがいい、聖女アーデル!


 おまえに復讐するのはこの俺だ! 他の者には指一本触れさせん!!


 俺の復讐は、まだ終わっていないのだからな!


 ふははははは――!




ここで一章(聖獣編)完結です!

面白いと思っていただけましたら、祝福の気持ちを込めてブックマークや評価★★★★★をぽちっと押していただけると励みになります!( ;ᵕ;)

これからは人型になったゼルとアーデルのやり取り(ラブコメ)メインでお送りします!\(^o^)/

はたしてゼルはアーデルに復讐できるのか……!?

読んでくれた方が少しでも楽しい気持ちになれますように。

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