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1入学式は遅刻するのが主人公の十八番

ある朝、一人の男が通学路を爆走していた。その額には大粒の汗が浮かんでおり、彼の焦り様がよくわかる。


「まずい、まずいまずいまずい! 入学式から遅刻とかシャレにならないって!」


彼が入学する異能者養成学校、八剱第一学園は今日が入学式だった。ちなみに集合時間は9時、そして今の時間は11時。


二時間の大遅刻を初日からかましたわけだ。


入学式と達筆な字で書かれた看板の置かれた校門を駆け抜けて昇降口へ向かい、ドアを開けようとすると一枚の張り紙が目に入る。


「俺の教室は... 1- E か、って 最上階かよ!」


近くの階段を駆け上がり廊下を突っ走ると、1 - E と書かれた教室のプレートを見つけことが出来た。


「よし、入るか... いや、入りずらいな」


教室のドアの前から一歩も足が動かない、こんな時はどうすればいいのだろうか。


このまま入ると、どう考えても悪目立ちしてしまうので、仮病を使ってまた明日来るという考えが浮かんだが、ダメだと思いなおしてまた入ろうとする。


しかし、なかなか腕を前に出せずにその場に立ち往生してしまう。


すると教室の中から声が聞こえてきた。


「御剣! さっさと入ってこい」


鋭い女性の声だ。声色的に先生だとは思うが、その言葉で覚悟も決まり扉を開けると、教室中の視線がこちらに集中するのが感じられる。


...うっ 吐きそう


だが、そんな気持ちの中でも先生はお構いなしに話を続けた。


「とまあ、これが私の異能 ”探知” だ。一定範囲の生命体を探知できる。範囲は狭いが、一校舎くらいは監視できるので問題行動は即バレると思うように。そして最後、御剣!」


「へ?」


素っ頓狂な声を上げる俺に対して、先生は眉間にしわを寄せて黒板を指さした。


『自己紹介』そういうことね、完全に理解した。


「御剣健人、異能は ”造兵” 色んな物を武器型に加工できます。これから一年間よろしくお願いしましゅ....」


やばい、噛んだ。


その自己紹介に教室のいたる所から失笑が聞こえてくる。


「....これで全員の自己紹介は終わったな。御剣、お前の席はあそこの空いている席だ。あと放課後、職員室に来い」


「はい...」


いや~ セーフ! 全然セーフじゃないけど、放課後呼び出しだけで入学式をサボれたのは、むしろ良かったかも。


そして速足で席に向かうと、先生がまた説明を再開した。


「改めて、入学おめでとう訓練兵諸君。

 だが、まず一つ言っておこう。八剱学園の目的はただ一つ、国守の八剱の所有者を選定することだ。

 これこそが至上命題であるが故に、この学園は実力主義が採用されている。

 弱き物は不要、このクラスには最底辺の E ランク異能者が集まっているが、この中で一年後も在籍しているのは例年通りだと1、2人くらいかな?

 居なくなった他大半は自主退学か、試験で死亡したかの二つに一つ、そうなりたく無ければ死ぬ気で強くなれ。

 このクラスから八剱の所有者が排出されたことは創立以来一度もないが、異能国防軍の隊員として活躍した者も少しくらいはいる。諸君の中から一人でもそんな英雄が生まれることを願うばかりだ。

 そして万に一つもないだろうが、八剱の継承戦に参加できるのは校内序列戦の上位10名に名を連ねる猛者のみ。この学園での評価のすべてが序列のポイントに換算されるので、普段から努力を怠らず、全てに全力で取り組むことをお勧めする。以上だ」



Eクラスの進級率が低いという情報は事前に知っていたとはいえど、オブラートを突き破ったその物言いに教室の雰囲気は一気に重くなる。


だが事実、E ランクの異能者の扱いなどそんなものだ。


E ランクの基準は、「異能を持ってはいるが、妖魔に対して殺傷力のないレベル」というもの。つまり、異能者が異能者たる所以である能力で、妖魔を倒すことができないのだ。


「では明日からは通常授業が始まるので準備をしておけ、以上だ」


最悪な雰囲気の中で、それだけ言って先生は教室を出て行くと、教室の雰囲気が少し和らぎ何人かは雑談をはじめた。だが、大半のクラスメイト達は帰宅の準備を整えている。


俺は... まぁ、初対面で自分から話しかけるなど絶対にできないので、下校時刻までここで突っ伏していようかと思っていると、横の席から誰かが声を掛けてきた。


「なぁなぁ、なんで遅れて来たんだよ」


声の主のほうを向くと、随分と活発そうな顔をしたやつだった。第一印象は陽キャ、それもクラスの中心にいそうなタイプ、眩しすぎて目がつぶれそうだ。


「あぁ、寝坊しちゃって」


「マジか、入学初日で遅刻かますとか猛者すぎるだろ」


「目覚ましつけ忘れちゃったんだよ、えーっと...」


「お、一応自己紹介しとくと俺の名前は 神楽木 大地、異能は射出だ」


「えっ? 強くない?」


射出という異能は、結構ありふれたものであるが、銃のように様々な物を打ち出せるので汎用性が高い異能だったはず...


「そんな事ないんだよなぁ、なんと動かせるのはたったの100g。しかも、威力は自分で投げるのと同じくらいしか無いんだ」


「なるほど納得」


「納得すんじゃねぇ! もっと他にいい言葉があるだろ」


「俺の能力は物を武器型にするだけだが?」


「まさかの謙譲語スタイル!」


雑談を続けているとチャイムが鳴り、放送で下校時刻が伝えられる。


時計を見ると、今から30分後だった。


「今日からよろしくな、ついでにRHINE交換しとこうぜ」


「お、おぉう」


慣れない手つきでQRコード画面を見せると、友達登録が終わったようで友達数が一つ増えている。


「んじゃ! また明日!」


そう言って神楽木は教室を後にしたのに対して、俺は一人教室に残り体を震わせていた。



「高校生活一日目で友達ゲットォオオオォォォ!」




この後職員室に下校時刻10分前に職員室を尋ねるという、姑息な手段でお叱りを回避した主人公であった。



〇 解説コーナー

 国守とは

初代の異能者が遺した強力な異能を宿す八振りの(つるぎ)国守の八剱(くにもりのやつるぎ)に適合した者のこと。

国の最高戦力であり神妖を討滅し得る唯一の存在と言われている。

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