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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・下(少年編)
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エピローグ

 ———— 半年後 ————




 厳しい冬を越え春の兆しが芽吹くころ、僕らはあの村に向けて出発した。


 僕らというのは、僕、エミリーそしてモーゼス、ルカを含む傭兵団だ。傭兵団の彼らもロナデム村の新しい住民ということになる。


 幸いなことに僕らが帰国したとき、反逆者として罰を受けることはなかった。まあ、世界を救ったのだから当然といえば当然だろう。


 逆に僕らを処刑すると判断が降ったのなら、僕はそんな国の王の首をさっさと落として亡命していただろう。だけど、そんなことは起こらなかった。起こらなかったから今も僕は、バーバスカムに留まっている。


 さらに僕らの状況はこの半年間で大きく変わった。


 まずは、エミリーが無事北部領の領主として任命されたこと。そしてその付き人として僕の名前が上がったことだ。


 そう。リオラの言った通り二人で統治することになってしまったのである。まあ、こんなの彼らからしたら序の口だろう。


 問題は彼ら傭兵団の方……。


「ああ、なんで俺が馭者やんなきゃならんのだ」


「仕方ないだろう。余ってたの、そのくらいしかなかったんだから。これからは専属で頼む」


 僕がモーゼスの嘆きに返答してやると、モーゼスはさらに嘆いてきた。


「はあ!? おいおい、俺たちを騎士として雇ってくれるんじゃなかったのかよ」


「そんな話は消えたわ」


 エミリーがきっぱりと言った。さらに続け様、最近、衛兵長に任命されたルカが口を挟む。


「それにお頭。もう歳なんだから良い加減退け」


「おい、ルカ。その口調……。いつからお前、俺より偉くなったんだ」


「ひと月ほど前から」


「おい。ラルフ。頼むからどうにかしてくれ」


「無理だよ。僕に決定権はない。嫌だったら祖国に帰るんだな」


「そんな冷たすぎだろ」と、モーゼスは哀しげにこぼす。


 まあ、気持ちは察するが……。


 傭兵団は帰国後、兵役を終えた。衛兵として追加で雇われるということもなく全員が解雇。


 そこで、次期北部領の統治を任されるエミリーが彼らを農民(一部衛兵)として雇うと、言い出しそして現在に至のだが……。


 僕はモーゼスの嘆きを頭の隅に追いやって伸びをする。両腕を高く上げ背中を伸ばし、春の空気を目一杯に吸い込んだ。


 暖かい陽の光。それとは反対に山を下りてきた風は冷たく頬をなでる。木々はそよめき、小鳥は静かに唄う。穏やかな旅路だ。


 油断しているとすぐ眠くなってしまう……。


 僕がうっとり微睡に落ちようとしたとき、エミリーが大声を出す。


「……ぁぁああ。眠い。腰が痛い!」


 自分の眠気を振り払うためなのか、それとも痛みを意識から振り払うためなのか彼女は大袈裟に言った。


 蹄が地面を叩く音は僕を何度も微睡に引きずり込んでくる。到着まで横になって昼寝といきたいところだが、残念なことにそんなことができるほどの余地はこの馬車にはないのだ。


 その原因は僕にある。


 僕がリオラが書いた大量の絵に額縁をはめて積み込んだせいで三人が余裕で寝っ転がれる馬車の半分以上が埋まってしまったのだ。


 まだ、後方にも馬車があるが、そっちはそっちで元々運ぶ予定だった荷物と移民でぎちぎちの状態だ。つまり、窮屈である。


 だが、リオラが残したものをあの城に残しておいたらそのうち燃やされて畑の肥料にされてしまうだろう。だから、仕方がなかったのだ。


「まったくあんたも律儀ね。そんなに好きなんだったらリオラを生かしてほしいって願えばよかったのに」


「願ったさ」


「でも叶ってないじゃない」


「ああ、そうだよ。だから、神様は許してくれなかったんじゃないかな。一度死んだ人が生き返るのは禁忌だからね。


 それに僕は現実を受け止められているし、きっと、こうならなくちゃいけなかったんだって思てるんだ」


 半年が経った今なら、なぜ星の子が必要だったのか、はっきりとわかる。


 神様はきっと知っているのだ。人が汚れやすいことを。荒んだ心を浄化するのは何なのか。それは日々の尊さを実感することだ。


 僕らが生きられるのは当たり前ではない。人は病で突然死ぬ。飢餓でも、戦でも。


 だからこそ星の子の奇跡が必要だったのだ。


 そこに住む人々全員が死に瀕し、一人の命を代償に生き残る。


 そんな機会が必要なのだと神様は考えたのだろう。


 だから、僕らは今この世界があることを当たり前だと思っていないし、奇跡だと思っている。


 その日生きられる奇跡を、日々を歩む喜びを感じながら今を生きている。


 そんなことを頭で考えているとエミリーが腑に落ちない様子で呟いた。


「随分と達観しているのね」


「英雄だからね」


 はあ、と唸るようにエミリーは吐き捨てると首を傾げた。


「はあ、て僕は世界を救ったんだよ。裏切りの王族なんて汚名も返上されたわけだしね」


「残念だけどあなたは後一年もしないうちにウィリアムズ家に婿入りすることになってるから……」


「断る。せっかく英雄になったのにロドリゲスの名を捨てるなんて嫌だね」


「でもやるの」


「絶対むりー」


「あんたね。もうすぐ十六になるって言うのに聞き分けの悪いこと言うじゃないの。餓鬼じゃないんだから」


「エミリー、無理を言わないでくれよ。僕はただ誇り高い家名を失いたくないと言っているだけだ。これのどこが餓鬼なんだい。餓鬼はエミリーだろ」


「あんた、良い加減に……」


「どっちも餓鬼だな」


 モーゼスがいきなりつぶやいた言葉に僕もエミリーも食ってかかる。


「何ですって!」「何だと!」


「モーゼス。あなた開拓民に格下げされたいみたいね」


「そういえば、東の方にまだ進んでないところがあったな。そっちに送るか」


「お頭……、墓穴ほったな」


「おいおい。俺は心配なんだぜ。本当にそんなんでちゃんと統治できんのかよ」


「馭者が何言ってんのよ」


「ほんとだよな」


 と、僕とエミリーが口々にするとモーゼスがさらに続ける。


「第一、ラルフはリオラと愛を誓ったんだろ。じゃあ、それを壊すことなんて出来るわけねえよな」


「でも指輪、返されてたじゃん」


 余計な口を挟むエミリーをモーゼスはキリッと睨む。


「お前は黙ってろ」


「だけど、モーゼス。僕はリオラと一緒に生きたい、って願ったけど結局叶ってないんだよ」


「そんなのわかんねえだろ。神様は案外怠惰かもしんねえ。半年叶わなかったぐらいで諦めるもんじゃねえよ」


 モーゼスの言葉を僕は簡単に呑込むことができない。だって、人が生き返るのは禁忌だから。この世の理に反することは絶対に叶わない。叶ってはいけないんだ。


 だけど、よくよく考えたら一千年前も見送りの後、どのくらいで願いが叶ったのか記録に残ってない。だったらもしかしたら、これから叶うこともあるのかも……。


 僕は少しの希望がある気がして空を見上げた。


 澄んだ青い空には、綿のような雲が峰を掠めて流れていく。


 もしかしたらここではないどこかで彼女はもうすでに暮らしていて、この空を眺めているのかな……。


 そんなことが、ふと頭に浮かんだ。


 そうだと良いなと思って僕は微睡に落ちようとしたその時。


 馬車がいきなり停車した。まだロナデム村とはだいぶ距離がある。何で停まったんだと訊くと、モーゼスは少し戸惑った様子で答える。


「いや……、人がいてよ」


 人……。新しく移り住む人だろうか……? この辺は開拓されて人が住めるようになったばかりだ。それに移住もまだ済んでいないから、十分に考えられる。


 だけど、残念なことに、すでにこの馬車は人も荷物も過剰なくらいに乗ってしまっている。詰めれば乗れないこともないが……。まあ乗せてと言われても断るんだな……、とモーゼスに無言の圧をかけた。


「あの、すみません」


 若い女性の声だった。歳は僕と同じくらいだろう。


「どうしたんだ。嬢ちゃん」


 モーゼスが訪ねると、少女と思しき人はあからさまに困った口調で話す。


「ロナデム村まで行きたいんですけど、近くまで乗せてもらえませんか?」


「嬢ちゃん。近くまでと言わずに、ロナデム村まで連れて行ってやるよ。俺たちもそこに向かってるんだ。なあ良いよなラルフ」


 いきなり決定権を振られ僕は言い吃った。


「……いいけど、こんな狭くてむさ苦しいところに若い女性を乗せるのは気乗りしないね」


「私も若いんですけど」と、隣からささやき声が聞えた気がした。僕は聞こえないふりをする。


 そんなやり取りを知らないモーゼスは顔をこっちへ向けた。なぜか笑顔になっている。


「そんなふうに言うこたねえだろ。お前も顔出してこの嬢ちゃんを見てみろよ。結構上玉だぞ」


「んな、くだらない」


 僕は念の為、どんな娘がいるのか確認しようと馬車から顔を出す。


 だが、僕はそこで息を呑んだ。


 だって、そこにいたのは、今一番会いたかった人だから。




 僕は少女に手を差し伸べる。掴んだ手の感触はとても柔らかく暖かくて懐かしい。乗り込んだ少女の姿を見て、誰も拒んだりなんかしなかった。だって彼女は……。




 銀色の髪に黄色い瞳の少女なのだから。


 


 少女を招き入れると僕らは再び出発した。これから長く続くであろう福禄な旅へ————。




 ——おしまい——

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