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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・下(少年編)
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第六章「逃亡」3

 僕らは、王都サンドリアから北へ進んだ。日の出前からずっと馬で駆けてきたのだ。もうだいぶ進んだはず。僕らは休憩のために止まっていた。ここから先、北側に向かうには山間の道を進まないといけない。その前には色々と準備が必要だった。寒さを凌ぐため大きな毛皮も必要になる。峠を越えるなら尚更だった。


 残念なことに人が住んでいる街は、近くので最後だ。そこから先は教会のあるフィーネラル村しかない。そこから以北は再開拓指定地域である。そこいらは、何度か人が入り作物を育てようとしたが結局育たず、いまだに人が住み着かない地域である。


 それなのに僕らは、乾燥した野菜や肉穀物はあれど、調理用の鍋すら持っていない。これでどうやって二ヶ月近くにわたる旅ができようか。


 街に寄って準備が必要だった。


 だけど、その前に追手が来ていないか調べる必要がある。街中で馬を連れて逃げるのは避けたい。


「待ってな。今、追手がきてないか確認するから」


 僕は木々の梢に目を向けた。


 この時期、コマドリが越冬のため、このあたりでも見られる。全体的に灰色の毛を纏い、顔と胸の部分だけ鮮やかな橙色という洒落た見た目のその小鳥は、見回すだけですぐに見つかった。


 そばの木の小枝にちょんと止まっているコマドリ。


 やることはテレパシーと変わらない。対象と動線を繋いで意識を半分わけてもらうだけだ。そうすると対象の視界を見ることができる。戦場では鷹を使うが、使う鳥は別になんだって良い。


 僕はコマドリに導線を伸ばすとすぐに意思を伝える。僕の意志を伝授したコマドリは高く飛び上がった。僕は目を閉じる。


 色味のない世界が頭の中に広がっていく。そのどこを見回してもバーバスカムの兵と思しき姿はどこにもなかった。


「追手は来ていないみたいだな」


「諦めたってことなのかな」


 エミリーは疑問を口にした。僕は「さあ」としか答えられなかった。


 遠くのほうまで見ても、兵士の姿はなかったので、コマドリに戻ってきてもらう。お礼に燕麦の実を何粒か袋から取り、手のひらの上に載せた。コマドリは、掌の粒を全部啄むと、飛びたった。


 コマドリが元の木に戻ったのを見て、僕らは出発した。


「これからどうするの?」


 エミリーが訊いた。


「とりあえず、次の街で長旅に必要なものは全部揃えよう。今日は一泊して出発は明日だな」


「泊まるのって、皆おんなじ部屋?」


 今度はリオラが訊いてくる。 


「そうだな。三人で一部屋使えば良いだろう。これからいくらかかるのか全くわからない。節約しないといけないしな」


「あんた、それ本気で言ってるの?」


「言ってるさ」


 エミリーは少し嫌そうに顔を顰めるが、リオラは嬉しそうに頬を上げる。


「三人で一緒に眠れるの嬉しい」


 まあ、リオラと一緒に眠れることなんて今までなかったんだ。残りの期間一緒に寝たって問題ないだろう。


 僕はそう思っていた。


 だが、街の宿場についていざ寝るとなった時、問題が起こった。部屋にあったベッドは大きいのが一つだけ。三人で寝られるくらいの大きさがあったから大して問題ではないと思ったのだが、いざ眠りにつこうとベッドの上、リオラを真ん中にして川の字で横になったとき、リオラが背中にべったりと引っ付いてきたのだ。しばらくすると今度はエミリーのほうに抱きついた。最初は寂しかった反動なのかなと思って、向かい合って頭を撫でたり、抱き締めたりしてあげたが、何度もくりかえされたせいで、結局その日は眠れない夜になってしまった。




 ◇




 小鳥が囀る早朝に僕らは街を出発した。山林が近く、なだらかな登りが続く。たまに道が渓流の近くを通る。川を下ってくる風はかなり冷たく感じた。


 しばらく道なりに進むと、木々のない開けた場所に出る。そこから見えたのは見覚えのある白い建物だった。建物の正面から塔のようにタレットが上に突出し、赤土色のとんがり屋根の先端には十字架が取り付けられている。


「あの建物って……」


 エミリーが呟くように言った。


「フィーネラル村だ。ここは五年前とあまり変わってないな」


 僕はそのままフィーネラル村を通過しようと思っていた。ここによっても嫌な記憶が蘇るだけだ。教会の前を通り過ぎようとした時、エミリーが僕を呼び止めた。


「待って。お墓に行かなくていいの? もう戻って来れないかもしれないんだよ」


「僕はもうとっくにお別れしたんだ。今更行く必要なんてないよ。それに今日中にパラナ村につかないと野宿することになるよ」


「ラルフ。嘘ついてる。本当は行きたいくせに時間がないからって言い訳してる」


「おい、リオラ言うなって」


「ラルフも学習しないね。リオラに嘘なんてつけないんだから」


 と、茶化すエミリー。エミリーは教会へ馬を歩かせる。どうやら教会に寄ることは決定事項らしい。


 僕も、後を追った。


「おい、野宿でも良いのか?」


「良いわよ。どうせ何処かで野宿する羽目になるんだから」


 墓地の傍までやってくるとエミリーは馬を降りた。


 僕も馬を降りるとそばにある木に手綱を縛ってからリオラと一緒に墓地へ向かう。


 教会の表にある墓地にはたくさんの墓石が並んでいる。その並んでいる中にロドリゲス家の墓もあった。


 以前来た時には、墓標は木材を組み合わせたものだった。だけど、今は台形に石工され綺麗に磨かれた墓石になっている。


「いつの間にか綺麗にしてくれてたんだな」


「よかったね」


 隣でリオラが微笑んだ。


 立派な墓石を見たとき、父様と母様と姉様のことを、恨んでいる人ばかりじゃないってことがわかってすごく嬉しかった。


 不意に近づいてくる足音が聞こえた。エミリーのものではない。エミリーが履いているブーツとは違う。革製の靴の硬い足音だった。


「ラルフ様……ですか?」


 掠れた老人の声。だけど柔らかさと温かみのある声は、どこか懐かしさを感じた。僕の知っている声だ。


 振り向くとそこには、長髪でタキシードを着た初老の男が立っていた。白髪が混じって灰色になった髪と顎からも長い髭をたらしている。


 その見た目に見覚えがあった。懐かしい。五年前まで毎日学業を教えてもらっていた。


「ジョセフ……なのか……」


 その男は信じられないという顔をしていた。ただ呆然と僕を眺めている。けれどその目は何か過去の懐かしい記憶を探すように泳いでいた。その目が止まった時、男はおぼつかない足取りで駆け出してくる。


 そばまで駆け寄ると僕の手を握って目に涙を浮かべた。


「良かった。生きておられたのですね」


「ジョセフも無事だったんだな」


「ええ、この通りピンピンしてますよ」


 再会の喜びもほどほどに僕はジョセフに事情を説明した。さすがは、教人をしていたとだけあって、ジョセフはすぐに理解を示してくれた。


「なるほど、星の子を連れてヨサ王国に向かうのですね。ということはもうすぐ彗星が見られるということですな」


「それに追手が来るかもしれないんだ。なるべく早く国を発ちたい」


「でも今日はもう陽が傾いておられます。私の家にでも泊まってくださいな」


 確かにあと少しで夕暮れになる時間帯だ。それにここから先、人のいる村はない。


「わかった。そうさせてもらうよ」


 僕らはジョセフの家に泊めてもらうことにした。



 フィーネラル村から少し離れたところに大きな家があった。木造の立派な建物。貴族の教人を務めていたとあってお金はあるらしい。地主の屋敷ほどの大きさはないが農民の家とは比べ物にならない広さがありそうだった。


 その日の夕食は豆と野菜、燻製肉を一緒に煮炊きしたスープだった。元々畜産と野菜の栽培が盛んだったボリオス地方ではよく食べられていた。懐かしいスープのおかげもあってか、話に花が咲いた。


 聞いたところ、ジョセフは今、この辺りの植物の研究をしているそうだ。国から公に任命された研究で、監視の兵が週に一度尋ねてくるらしい。けれどそれ以外の待遇がとても良いという。


「ラルフ様。あと衝突まで何日と聞いておられますか?」


「あと一月半はある」


「陸路で向かうとしても、まだ少し余裕がありますな……」


 ジョセフは表情を陰らせる。


「何かあるのか?」


「ええ、実はジルク様からラルフ様に伝えて欲しいと頼まれていたことがあるんです。明日、屋敷まで来ていただけますか?」


 正直、自分の家が襲われた跡なんて見に行きたくない。だけど、父様が僕に残したものがあるというのなら話は別だ。


「わかった。行こう」


 父様の遺言。父様が僕に将来伝えたかったことがようやくわかる。


 明日は早く出発するという話になり、早く寝ることにした。

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