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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・下(少年編)
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第六章「逃亡」1

「ラルフ、起きて」 


 少し大人びた少女の声。それと体をゆする手の感触で、僕は目を覚ました。覚ましたと言っても、目蓋が重たくてすごく眠い。まるで体が寝台に根を張っているように重く感じる。


 僕は徐に手を伸ばし、窓のカーテンを捲り上げる。


 外は真っ暗だ。日の出前に出発しなければいけないとはいえ、まだ起きるには早すぎる。


 チラッと見えた月の位置からして夜明けまで、まだだいぶ時間がありそうだった。前日の疲れもまだ残っている。この短時間で休めという方が無理だろう。


 僕はもう少しだけ眠りたいと布団を被った。しかし、その布団は一瞬にして引っぺがされてしまう。


「起きて、ラルフ」


 今度は目蓋を全開させた。その少女の姿を見るため、指に明かりを生成する。銀色の髪に煌めく黄色い瞳。間違いない。リオラだ。待ちこがれた彼女が今、僕の真横に立っている。


「リオラ……、目覚めたのか……」


 僕は彼女に触れようと手を伸ばす。すると、その手はまるで虫を叩くようにあしらわれてしまった。一瞬、何が起こったのか理解できず、僕は瞬きを何度かする。


 そんな僕にリオラは真剣な眼差しをむける。


「今は再会を喜んでいる場合じゃない。急いで出発の準備をして」


「準備って、朝になったら船で出発するけど?」


「その方法では駄目。悪魔と契約している人がいるから」


「どういうこと?」


「とにかく説明している時間はない。早くエミリーも起こしてここを出ないと」


 リオラが何を言っているのか半分も理解ができないが、彼女の切羽詰まった様子を見れば何かあるのだと感じざるを得ない。


「わかった」


 リオラに部屋の外で待ってもらい、僕は手早く着替える。もう二度と戻らないかもしれないと思い、姉の形見の腕輪も身につけた。


 金色の腕輪。細身ではあるが金属特有の重みなのか、ずしりとしている。僕は、身に付けた腕輪を袖の中に隠し、剣を持つと部屋を出た。リオラを連れてエミリーの部屋へ向かう。真っ暗な廊下。エミリーの部屋の扉を叩く。


「エミリー、起きてくれ。急いで出発する」


 エミリーは扉を開けると、眠気まじりの声をだす。隙間から眠たそうな顔を覗かせる。瞼が半開きの状態だった。


「ラルフ、こんな時間に何よ…………」


 眠たすぎるのかエミリーは目を擦りながら顔を出す。その顔がリオラの方を向いた瞬間、時が止まったかのように彼女は固まった。


「リオラ、あなた起きたの?」


「エミリーも早く出発の準備をして」


 エミリーも僕と同様にリオラが何か切羽詰まっている雰囲気を感じ取ったのか、特に細かい説明をしなくても理解を示してくれた。


「わかったわ。すぐに準備する。リオラ、服を貸してあげるから中に入って」


 エミリーはリオラを部屋の中に引き入れる。扉を閉めようとするエミリーに僕は言う。


「僕は食料と馬の準備を先にするから、準備ができたら馬小屋まで来てくれ」


「うん、わかった。気をつけて。食物庫には衛兵がいるから」


「わかってる。そっちも気づかれないように出てきてくれ」


 了解の言葉を聞いて、僕は急いで食物庫へ向かった。




 食物庫の扉の前には衛兵が二人待機していた。僕は平静を装いながら二人に近づく。もちろん話をするだけで中に入れてもらえるとは思っていなかった。


「やあやあ、お勤めご苦労様」


「ロドリゲス。食糧の詰め込みはもう終わっているはずだが、何のようだ?」


「ええ、ただ、僕はそこに用があるんだ」


 僕は二人の首根に指で触れ、指先から微弱の電流を流した。


「「何を!?」」


 二人の体は一瞬にして硬直し膝から崩れ落ちる。僕はその体を受け止め脇の壁にもたれさせた。


 誰かに気づかれる前に中へ入り、麻袋の中に干し肉や燕麦オートミールや乾燥させた野菜を詰め込んでいった。三人分であっても、袋一杯に詰め込めば、四日は持つだろう。僕は食糧を麻袋いっぱいに詰め込むと、食物庫を後にした。


 早足で馬小屋まで行き、僕は奥の倉庫から鞍を物色する。戦ようの硬い革製の立体的な鞍ではなく、綿が大量に挟まれた布製の柔らかい物を棚から引っ張り出す。


 鞍を馬の背に回し、ベルトで固定した。もう一頭にも同様に鞍を取り付け、その上から食料が入った袋を落ちないよう、馬の体と密着するようにロープでくくりつける。


 出発の準備が着々と整う中、そこへエミリーとリオラが合流した。急いで僕は馬に手綱を掛ける。


「エミリーはそっち(食料がくくりつけられている方)に乗って」


 僕は先に馬に乗り、リオラに手を伸ばす。


「リオラ、つかまって」


 リオラが僕の腕を掴んだ。僕は彼女の腕をしっかり掴むと引き上げた。あの頃とくらべ成長していても軽々と持ち上がった。魔法を使ったのかもしれない。


 リオラが馬の背を跨ぐと、僕の両肩に手を置いた。僅かに彼女の吐息を感じた。


「しっかり捕まって」


「うん」


 リオラは、僕のお腹の上の方に腕を回し、密着するようにぎゅうっと抱きついた。彼女の温もりが背中から伝わり、愛おしいという気持ちが込み上げてくる。


 だがしかし、リオラの訝しんでいる雰囲気が背中から伝わる。


「ラルフ。変なこと考えてる」


「いや、考えてないよ。しっかり掴まって」


 僕は馬を走らせる。それにエミリーも続く。


 夜間、通常なら城門は閉じられている。だが、今宵は船に荷物を搬入するため開けられている。城からの脱出は容易だろう。しかし、それでも衛兵は門を警備しているため戦闘は避けられない。もしかすると殺すことになる可能性だってある。


 王都に住み始めてから対して優遇されてきたわけではない。それに衛兵とは親しみを持って接したこともほとんどなかった。けれど、顔見知りではある。


 近づく段階では、衛兵はいつもと変わらない様子で道を開けた。しかし、僕の後ろに乗るリオラの姿を見た瞬間、血相を変える。


 衛兵皆が手に持つ銃を構えた。そして一人が戸惑いのある声で叫ぶ。


「ロドリゲス、止まれ!!」


 同時に跳ね橋が上がり始めた。このままでは渡れなくなってしまう。


 どうすれば良い。


 僕がまともに使えるのは、攻撃に適した火炎魔法と雷魔法。それと光弾を生成する魔法とあそび程度に浮遊魔法が扱える程度。


 光弾で鎖を断ち切るか。切ってしまうと橋板が落ちた衝撃で崩落する危険がある。


 雷魔法で全員を気絶させるか。いやだめだ。こんな広範囲な雷魔法を放ったら皆殺しにしてしまう。


 答えを探そうとしても寸時には出てこない。


「私に任せて」


 と、リオラが後ろで言った。


 すると、鎖の上の方——、巻き取り口近くに氷の塊が寸時に出来上がった。


 その氷の塊が巻き取り口に引っかかって、橋の閉上は止まった。


 止まった橋を見て、一人の門兵が銃を構える。


「ロドリゲス、止まれ!! 止まらねば撃つ!!」


 僕は門兵の前に波動を発生させた。兵を押し退ける。立ち上がろうとする兵にもう一度波動を当て、とにかく門から遠ざける。その隙に馬を上がりかけの桟橋に昇らせる。


 エミリーが乗る馬が橋板に乗るのを見て、僕は馬を進めた。僕はちらっと兵の方を向いた。彼らは唖然とただ僕らが抜け出すのを見ているだけだった。


 明かりの落ちた街道を馬で駆ける。片手に光球を生成しながら僕は手綱を操った。


 しばらくして、非常事態を知らせる鐘が鳴り響く。この音を聞いた瞬間、街の衛兵は門を閉ざすことになっている。幹道を走り抜け、門に通じる路に出た。城壁が近くなるにつれて門も目に入るようになる。案の定、門は閉ざされていた。 


 門の前では衛兵が立ち塞がっている。僕は光球の生成をやめると右手に光弾を生成した。光弾を見て道を開けてくれることを望んだのだが、衛兵は全く動じない。誰一人として退こうとしなかった。


 僕は右手に光弾を生成したまま肘を引く。放つため、腕を突き出そうとしたその瞬間、リオラが僕の腕を掴んだ。


「——ラルフ! だめ!」


 それでも、抑えきれずに放たれた光弾はまっすぐ門に向かっていく。その前にいる衛兵に確実に着弾する軌道だった。


 着弾の直前。兵士が突然外側に飛ばされた。リオラが魔法でどけたのだ。光弾は門の扉を吹き飛ばした。


 僕らはそのまま駆け抜けた。

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