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初投稿です。
よろしくお願いします。
ラガはいつも1人だった。森の古びた洋館、街外れにある廃墟、時には洞窟など。色々な場所に行き、飽きると違う場所へ、転々と住居を変えていった。
ラガには家族も友人もいなかった。話のできない動物と共に暮らすこともあったが、ラガの長い寿命と比べるとあまりに短命だった。
それに、寂しいと思ったことはない。物心のつく前から当たり前に1人で過ごしてきたからだ。何でも自分1人でできた。掃除、洗濯、狩りでさえ。
ただ、困ったことに、最近はそう思えなくなってきていた。ひとりの人間にどうも調子を狂わされてしまっている。今までこんなことはなかったのに。今日も俺は、夜が濃くなり綺麗な月が浮かび上がる頃、同じ場所で彼を待ってしまう。
「よお、ラガ。今日も元気でやってるか?」
彼、ヨルアは太陽みたいな人間だった。他人と間に壁を作ってしまう俺に対して、その壁を簡単に壊して、心の内側に入ってきた。夜しか知らない俺にとって、ヨルアはとても眩しかった。見たこともない太陽に焦がれるほど、ラガにとって彼との時間は大切なものになっていった。
ラガはヨルアの話を一方的に聞くばかりだったが、ヨルアは今日のご飯のこと、仕事のこと、村のことなど、色々な話をしてくれた。俺は特に話すこともないけれど、ときどき聞かれたことに答えた。
初めてだった。何もかもが。自分の知らない村のこと。こちらをまっすぐ見つめるヨルアの眼差し。隣に人がいるときのぬくもり。こんなに誰かを愛しく思うなんて。
ただ、ひとつだけラガには秘密があった。
「今日はもう帰る。」
月が沈んでしまう前に帰らなくては。そう思ってヨルアの話を遮る。
「もう行くのか?全くお前はいつも急だな。そうだ、最近この辺りで吸血鬼が出るらしい。ラガも気をつけるんだぞ。」
「……」
「ったく、聞いてんのか?はあ、心配だ。やっぱり俺の家に泊まってけよ。」
「忠告はありがとう、でも泊まらない。」
「ちぇー、今度は泊まれよ。またな、ラガ。」
「ああ、また。」
ヨルアにはまだ知られていないだろうか。知られてないといいけれど。
ラガは吸血鬼だった。
真っ暗な空に月が出ている間しか外に出ることができなかった。陽を浴びると灰になってしまうからだ。太陽が出ている間は洞窟や廃墟に置いてある棺桶の中にいた。光の届かないとても暗い場所だ。
そして、たまに人間の血を食事としていた。人間は食料としてしか見ていなかった。とは言っても殺すことはしない。少し血をいただくだけだ。
たまに想像する。ヨルアに全てを話してしまえたらと。彼なら受け入れてくれるとも思った。ヨルアは優しいから、そんなことは些細なことだ。俺たちの関係は何も変わらないと言ってくれるだろう。
だけど、彼をきっと困まらせてしまうだろうなと考えて、ラガの正体を言わずにいるのだ。
村中に吸血鬼がいると噂されていると、ラガの身が危なかった。きっと討伐依頼を出されてしまうだろう。危険は排除しなければならないから。村の人たちは正しい。
見つかる前に住居を移さなければいけないのに、それができないでいた。
わかっている。ヨルアの存在が愛しくなるほどつらいことは。だけど、今はまだ、彼の優しさと温もりに浸っていたいと思ってしまうのだ。