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迷宮(ダンジョン)攻略②

評価・ブックマーク・いいね、ありがとうございます!!

 青い海、白い雲、頭上の煌々とした太陽からは強い日差しが注がれている。

 髪を揺らす心地の良い風は、海の表面を撫でると波が立ち、足元の砂をさらっていく。

 少し遠いところでは、腰まで海水につかりながらキャッキャと燥いでいるサントラ王子や『巨人の鉄槌』の面々。

 砂浜に腰を下ろした俺は、ボケッとした表情でみんなが海水浴を楽しんでいる様子を眺めていた。


 何故いきなり迷宮(ダンジョン)攻略をしていた俺たちが海水浴をしているのか、疑問に思った人も多いと思う。

 うん、実は俺もだ。


「お前の反応は分かりやすいな」


 物思いに耽っていると、顔に影がかかった。

 見上げると、笑みを浮かべたカリアが立っている。

 可憐な容姿のカリアには、ピンク色のビキニがとてもよく似合っていた。

 どこに持っていたのか、カリアは水着姿になっていて、眼前で前かがみになられると、身体の一部が強調されて目に毒…とはならなかった。

 俺はすっと目線を上げる。


「お前……何か失礼なことを考えなかったか」


「……」


 実に答えづらい質問に俺が黙秘権を行使すると、カリアは呆れたようにため息をつき、俺の横にドカッと腰を下ろした。


「初めて()()()()に来た奴らは、みんな同じ顔をするんだよな」


 この階層。

 そのカリアの言葉には未だに違和感がある。

 目の前に広がっているバカンスにでも来たかのような景色が、実は迷宮(ダンジョン)の内部の光景だということを、どこかまだ信じ切れていないから。


「……信じられないな」


 思わず思ったことを口に出してしまった。

 燦燦と照り付ける太陽に澄み渡る海。

 これら全てが迷宮(ダンジョン)内の光景だなんて、冗談としか思えなかった。


「まあ信じる信じないはお前の勝手だけどよ」


「……」


 第三十層。

 リゾート地のような階層に、俺は足を踏み入れていた。


 キラーマンティス戦で至らない点はあったものの、どうやら実力自体は認めてくれたらしい。

 攻略の最先端である三十層は、御覧のとおり、別世界が広がっている。

 サントラたちが言うには、二十九層までは洞窟のような構造になっているらしく、別世界になっているのは今のところ三十層のみだそうだ。


 三十層に来る際、入口と似たようなショートカット用の不思議な膜――ここからは移動短縮膜(ショートカット)と呼ぶことにする――を通ってきた。

 俺たちは一度もこの迷宮(ダンジョン)を出ていないのだ。

 本来であれば、二十九層の最奥には階段の代わりに膜があり、その膜を潜るとこの空間に繋がっているらしい。


「……それにしても、みんな気を抜きすぎじゃないか?」


 防具を脱ぎ捨て、武器も離れた場所に置いている面々を見て、そう思わずにはいられない。

 そんな俺の呟きをカリアは一笑に付した。


「この場所は、冒険者たちから『安全地点(セーフティーゾーン)』って呼ばれてる。この海岸付近は、モンスターが襲ってこねーんだよ」


「信じていいのか、それ?」


「今のとこ、オレは襲われたことないぜ」


「ほんとかよ…」


 カリアの言っていることを信じ切ることができず、俺は制服姿のままこうして砂浜に座っているというわけだ。

 もちろん、剣も手元に置いている。

 それならちょうどいいと見張り番を頼まれており、遠くで遊んでいるサントラたちの荷物もここにあった。


「疑り深いやつだな。周り見てみろよ」


 カリアの言葉に促され、俺は周囲を見渡す。

 何を言わんとしているかはすぐに分かった。


「人多いよな。みんな冒険者だろ?」


 そう、この場にはうちのパーティだけでなく、他の冒険者パーティの姿も多くあった。

 全部で百人以上はいると思う。


「戦ってばっかじゃ疲れるからな。癒しが必要なんだろ」


 カリアが欠伸をかましながら言ったその言葉が事実なのだろう。

 周囲はとても戦いに来たというような雰囲気ではない。

 それこそ和やか、のんびりと言った言葉がよく似合う。


 カリアは頭の後ろに手を回し、気持ちよさそうに目を瞑る。


「気を張りっぱなしもよくないってことか」


「そうそう、大事なのはメリハリっつーことだ」


 カリアはそれだけ言うと、くーという可愛い寝息をたて始める。

 寝やがったこいつ…。


「俺も一応男なんだが……」


 ちらりと無防備な寝姿を晒すカリアを見る。

 どちらかというと可愛い寄りの端正な顔立ち。

 粗暴な性格を知らなければ、貴族令嬢と言われても全く違和感ない。

 そして凹凸の少ない健康的な身体…。

 うん、ないな。


「いってぇ!?」


 そんなしょうもないことを考えていると、寝返りを打ったカリアから高速の蹴りが飛んでくる。

 腹にもろに蹴りを受けた俺は、暫くその場で悶絶した。




「すまないね、荷物番を任せてしまって」


 少しして、遊んでいたサントラたちが帰って来た。

 開口一番サントラが俺に謝罪の言葉を口にするが、俺は横に首を振る。


「いえ、どうせ暇だったので気にしないでください」


「ふふ、ありがとう」


 整った顔で微笑まれると、少し照れくささが押し寄せてくる。

 俺は後頭部を掻きながら、ちょうどいいと思って口を開いた。


「…一つ、聞いてもいいですか?」


「ん?何をかな?」


 サントラが首を傾げる。

 男にもかかわらず、あざとさすら感じるその仕草になぜか頬が熱くなった。

 俺は頭を少し振って、無理やり心を落ち着ける。


「なんで、俺を……いや、新しいメンバーを加えようと思ったんですか?」


 サントラがこの迷宮(ダンジョン)に潜るのは初めてではない。

 道中の戦闘を見ても、戦闘力が不足しているようには見えなかった。

 新しく信頼関係を築くのも手間だろうし、どうして俺をパーティに入れてくれたのかがずっと引っ掛かっていた。


 サントラは、俺の疑問を聞いてぱちくりと目を瞬かせた。


「……何か新しい発見があるかと思ってね」


 少し考えるような様子を見せた後、サントラはそう口にする。


「発見?」


「第三十層……ここは、停滞の地と言われているんだけど…」


 サントラがどこか遠くを見るように、呟く。

 それはオレに向かっているようであって、独り言のようでもあった。

 遠回しな表現で、サントラが何を言おうとしているのか、俺にはいまいちわからなかった。


「停滞の地…ですか?」


「うん」


 燦燦と照り付ける太陽が、じりじりと首筋を焦がしている。

 サントラは、そんな暑さなど微塵も感じさせない涼しげな顔で微笑んだ。


「ストレートに言うと、次の階層への行き方が分からないんだよ」


 誰もね、とサントラは後頭部に手をやりながら、あははと笑った。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「つまり、長い間次の階層へと続く道が見つけられないから、いつもとは違うメンバーを連れてくることで何か進展することを期待されている…ってことか」


「みてーだな」


 鬱蒼と茂る密林の中、興味なさそうな返事が隣から返ってきた。

 海辺とは違い、じっとりと湿った風が頬を撫でる。

 少し不快だ。

 俺はちらりと隣に目をやりながら、サントラから手渡された地図を開く。


「この辺りは探索済みみたいだな…というか、探索済みじゃないところがないんだが」


 もらった地図には、大雑把な俯瞰図に手書きでいろいろと書き込まれていた。

 地図を見たところ、どうやらこの三十層は四つのエリアで分割されているらしい。


 一つ目は、先ほどまで俺たちがいた海辺エリア。

安全地点(セーフティーゾーン)』として知られており、冒険者たちの休息エリアとなっている。

 前世でたまにやっていたRPGゲームなんかでは、大体ボス部屋の前などに休息エリアがあるイメージなのだが、この地図を見る限り海辺エリアの周りには何もなさそうだった。


 二つ目は、今俺たちがいる密林エリア。

 虫系統のモンスターが多く生息しており、湿度が高いのが特徴。

 周囲には木々が生い茂っており、光が遮られているため常に薄暗い。


 三つ目は、草原エリア。

 背の低い草木によって構成されており、獣系統のモンスターが多いらしい。

 草の陰に隠れてモンスターがひそかに接近してくるため、常に注意が必要。


 そして最後に、岩山エリア。

 大小の岩がごろごろしていて、固い地面が傾斜を作り山となっている。

 岩を主食とするモンスターなどが生息しており、四つのエリアの中で最も危険なエリアだ。


 手元の地図には、エリア毎に出没したモンスターの種類であったり、調査結果や注意事項が細かく書き込まれていた。

 その書き込みの量に、既にこの階層は調査されつくしているのではなかろうかとすら思わされる。


「だから王子も困ってるんだろーよ」


 俺の呟きに、カリアがふんと鼻を鳴らした。

 事実、カリアの言う通りなんだろう。

 それこそ、藁にもすがりたい思いということかもしれない。

 その場合の藁は俺だけど。


(そういえば、王子は何で迷宮(ダンジョン)を攻略したいんだろうか?)


 以前カリアにも聞いてみたが知らないと言っていた。

 機会があれば聞いてみよう。


「敵襲!キラービーが数体!」


 パーティの先頭で、前方を警戒していたレントールが大声を出す。

 ピリッとした緊張感が、一瞬にしてパーティを包んだ。


「ルージュ、十二層の続きだ。遅れんなよ?」


 カリアはそれだけ言い残すと、前方に向かって駆け出していく。

 どうやら考え事をしている時間は終わりのようだ。


 俺も鞘から剣を引き抜き、カリアの後を追った。


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