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迷宮(ダンジョン)攻略①

 迷宮(ダンジョン)第十二層


「キェェェェ!!!」


 耳障りな奇声を発しながら、俺たちのもとに突貫してくるのはでかい蟷螂だ。

 ギラりと存在感を放つ二振りの鎌は、人なんて簡単に真っ二つにしてしまいそう。

 そのモンスターの名前は、キラーマンティス。


「ふん!」


 そんな凶器を、巨大な盾を掲げたガレンがいとも簡単にはじき返す。


「ユレイア、レントール!」


 自慢の鎌をかちあげられたキラーマンティスに大きな隙が生まれた。

 学生の身でありながら熟練者の雰囲気を持つ『巨人の鉄槌』が、そんな隙を見逃すはずがない。


 ガレンの呼びかけに呼応して、一人の男子生徒がガレンの脇を抜けてキラーマンティスに肉薄した。

 その背後ではもう一人、女子生徒が愛用している弓をキリキリと引き絞る。


「はッ!!」


 弓を放った女子生徒――ユレイアの矢がキラーマンティスの目に突き刺さった。

 紫色の体液が噴き出るとともに、キラーマンティスが不快な泣き声を上げて仰け反る。


「シッ!!」


 だらりと垂れ下がった鎌を、肉薄した男子生徒――レントールが根元から斬り飛ばす。

 鈍く光る鎌がくるりと宙を舞って、地面に突き立った。


「すごい…」


 思わず感嘆の声が漏れ出る。

 目の前で見せられた無駄のない連携は、一種の芸術のようだった。

 互いの考え方、どう動くかを完璧に理解しており、途切れることのない連撃はキラーマンティスに反撃する余裕を与えない。

 たまにキラーマンティスが苦し紛れに繰り出した攻撃も、ガレンの盾がガッチリと受け止め、更なる隙へと繋がっていく。


「キェェェェッ!?」


 気付けば、両方の鎌を斬り落とされたキラーマンティスは虫の息だった。

 力なくだらんと垂れ下がった頭にレントールが剣を突き刺すと、キラーマンティスは力のない断末魔を上げて倒れる。


「うぇーい♪」


 先ほど弓を放って前衛二人の援護をしていたユレイアが、戦闘中に浮かべていた真剣な表情を緩めて両手を掲げる。

 レントールとガレンも片手を掲げて、三人は仲良くハイタッチをした。

 聞くところによれば、三人はもともと幼馴染みらしい。

 随分と仲がよさそうだ。


「おーい、ルージュ」


 少し離れたところから三人を眺めていると、ガレンがこちらを見て手招きをしていた。


「なんですか?」


「そろそろ迷宮(ダンジョン)には慣れてきたか」


「そうですね、少し慣れてきました」


 そうか、とガレンは二カッと笑みを浮かべた。


 今俺たち一行は、かなりゆっくりとしたペースで進んでいた。

 サントラや『巨人の鉄槌』パーティは、既に三十層まで攻略を進めているらしいのだが、現在十二層でモンスターと戦っているのはほとんど俺のためと言っていい。

 ちなみにどういう理屈かはわからないが、入り口のすぐ横にあった不思議な膜を潜ると、到達したことのある階層であればすぐに行くことができるらしい。戻る時も同様。

 さらに、パーティの誰かが到達した階層であれば、身体に触れながら一緒に膜を潜ることで未知の階層でも行くことができるそうだ。


「そう急ぐことでもないさ。ゆっくり行こう」


 そのサントラの言葉で、とりあえずは十層あたりから肩慣らししていこうということになったのである。


「よーし、次はルージュがやってみるか?」


 洞窟の奥の方でがさりと、何かが動くような音がした。

 ガレンがぱっと洞窟の奥へと顔を向け、ちらりと横目で俺を見る。


「…わかりました。俺の戦いも見せないといけないですしね」


 俺もガレンに倣って洞窟の奥へと鋭い視線を向ける。

 やがて、音の主がゆらりと姿を現した。


 先ほど『巨人の鉄槌』が相手したキラーマンティス…それが二体。


(二体か…少し面倒――)


 そこまで考えたところで、ザッと俺の隣に並ぶ影があった。


「そろそろ身体を動かしたいと思ってたとこだ。一体もらうぜ?」


 そちらに目を向けると、獰猛な笑みを浮かべたカリアがいた。

 既にカリアの目は俺の方を見ていない。


「勝負しようぜ、ルージュ。どっちが先にあいつを倒すか…な!」


「おいちょッ!?」


 俺の返事も聞かず、カリアは左のキラーマンティスに向かって駆け出していく。

 俺はやれやれとため息をついた。


「たく、しゃーないな」


 俺は一つ息を吐き、右のキラーマンティスへと視線を向ける。


 キラーマンティスの表皮は固く、生半可な攻撃は通らない。

 それに、いつの時代も虫は()()に弱いと相場が決まっている。

 俺の掌で、ぼうっと空気が熱を帯びた。


炎霊の粛清(イフリート・フレア)


 燃え滾る炎の奔流が、キラーマンティスをのみ込んだ。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ばっかやろぉ!!!」


 キラーマンティスとの戦闘が終わったあと、俺はその場に正座させられていた。

 俺の目の前では、ガレンが腕を組みながら鋭い視線で俺を見下ろしている。

 その隣ではカリアが呆れたような視線を俺に向けていた。


「…なんで俺が怒っているか、わかるな?」


「……すみません、こんな場所で炎系の攻撃をすべきではありませんでした」


 俺の魔法は、キラーマンティスを一瞬で灰にし、焼失させた。

 そこまでは良かったのだが、洞窟という密閉された空間で炎系の魔法を使ったことで一瞬にして周囲の空気が薄くなってしまったのだ。

 カリアを除いて、他は見ているだけだったからそこまで大きな影響はなかったが、もしも戦闘中だったらかなりまずいことになってしまっていたかもしれない。

 ちなみに、カリアは酸素不足のせいで動きが鈍くなり結構危なかったのだが、俺が慌ててフォローしたことにより何とか無事だった。


「わかっているならいい。何事にもミスはある。次どうするかが大事だ」


 ガレンはそう言うと、俺から離れる。

 代わるように近づいてきたカリアが、ブスッとした表情で俺の前に屈みこんだ。


「…勝負はお預けだからな」


「え?」


 カリアはどこか悔しそうな顔で言い捨てると、すたすたとその場から歩き去っていった。

 俺はボケッとした表情でその様子を眺めつつゆっくりと立ち上がる。


(久々にガチ説教を食らってしまった…確かに俺が悪かったな)


 どうして近い年齢の人に怒られるとダメージが大きいのだろうか。

 どうにも気分が落ち込んでしまい、俺は深いため息をつく。



「キラーマンティスを一撃だと?全く、とんでもねえな……」


 そんな冷汗をかきながら呟いたガレンの言葉は、シュンと肩を落とす俺の耳には届かないのであった。



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