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第三王子

(一人ってこんなに静かなものだったっけ)


 窓の外をゆっくりと泳いでいる雲を眺めながら、俺はぼーっとそんなことを考える。

 金龍クラスにて授業を受けるとき、いつも隣には誰かがいた。

 剣聖のジアに、騒がしい双子のコルドとシルヴィア。

 けれど、今は誰もいない。


「はあ…」


 無意識にため息が漏れ出た。


「……それでは、これで授業を終了します」


 気づけば午前中の授業が終了していた。

 静かだった教室にが、がやがやとした喧騒に埋め尽くされていく。

 食堂に駆け出す者。

 仲の良い友達と席を寄せ合い、持ってきたお弁当を開く者。

 そして、俺の席を叩く者。


「ルージュ、ちょっといいか?」


 席に座っている俺よりも少しだけ高い目の高さ。

 ずいっと顔を寄せてきたことで、桃色の髪が鼻先を擽る。

 俺は苦い顔つきをしたカリアを見て、学園にいるのは珍しいなと少しずれた感想を抱いた。


「どうかしたか?」


「一緒に迷宮(ダンジョン)に行くぞ」


「…はい?」


 迷宮(ダンジョン)…少しだけ聞いたことがある。

 地下に広がる巨大な構造物。

 その最深部は誰も到達したことがないと言う。

 その内部には多くのモンスターが跋扈しているが、迷宮(ダンジョン)から得られる資源を目当てに攻略に挑む冒険者が後を絶たないらしい。


「いいからついてこい」


「おい、待てって!」


 碌な説明もなく、カリアは歩き出す。

 仕方なく俺はその後をついていく。


 唐突だとは思わなかった。

 迷宮(ダンジョン)に行こうとしている理由はわかっている。


「今、どこに行こうとしているんだ?」


 俺がカリアにそう尋ねると、カリアがピタリとその足を止めて振り返った。


「お前は、放浪王子を知ってるか?」


 カリアは俺にそう問いかけた。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 放浪王子。

 話には聞いたことがある。

 正確に言うと、ロールエントリア王国第三王子。

 王位継承権を持つ正当な王族だ。

 また年齢も俺と近く、学園の金龍クラスに通う生徒でもある。


 次期国王になろうと様々な活動をしている兄たちとは違い、国王には一切興味を示さず、冒険者として好き勝手に活動している。

 時には国外にも出たり、自由で掴みどころのない様子からついた呼び名が放浪王子というわけだ。


「やあ、よく来たね」


 その爽やかな笑みを見て、正直胡散臭いと俺は思った。


 短く切りそろえられた輝かしい金髪に甘いマスク。

 周囲の空気が何となく煌びやかに見えるのは、王族の品格故だろうか。


「お初にお目にかかります、私はルージュと申します」


 王族に対する礼儀作法など全く知らないが、とりあえずどこかで見たような片膝をついて跪くポーズをとってみる。

 俺の所作を見て、目の前の王子は目を丸くした。


「…はじめまして、ルージュ。僕の名前は、サントラ・フォン・ロールエントリア。以前ウリド卿が暴走した際、解決してくれたと聞いているよ。その場には父上もいたからね。代わって礼を言うよ」


 そう言って、サントラは俺に向かって優し気に微笑んだ。

 男の俺ですら頬を赤らめてしまいそうなほどに破壊力のある笑みだった。


「いえ、私は当然のことをしたまでですので」


 俺は謙遜の言葉を返す。

 別に、サントラや国王のために戦ったわけじゃない。

 ただ自分でけじめをつけたかっただけだ。


 俺の言葉を聞いて、うんうんとサントラは嬉しそうに頷いた。


「人柄は合格だね。あとは実力なんだけど…君はカリアに勝ったことがあるんだよね?」


 サントラからそう問いかけられる。

 俺が横に立つカリアの顔を見ると、早く答えろとばかりにカリアは顎をしゃくった。


「はい。武闘祭で当たって、その時は私が勝ちました。…次はどうなるかわかりませんが」


 俺の返事を聞いて、サントラはくすくすと笑った。


「君は随分と謙虚なんだね。カリアの実力はよく知ってるし、彼女にまぐれで勝つことはあり得ない。つまり、君は実力者というわけだ」


 サントラの碧眼が、俺を貫く。

 その真っすぐな賛辞に照れくささを感じた。


「他でもないカリアの推薦でもあるし、問題なさそうだね。ルージュ、君は合格だ。僕と一緒に来てくれるかい?」


 サントラが立ち上がり、俺に手を差し伸べてくる。

 俺は少し慎重にその手を握り返した。


「ありがとうございます。精一杯頑張ります」


 俺はサントラに向かって、そう頭を下げる。


「うん、期待しているよ。詳しい説明はカリアから聞くといい。もう下がっていいよ」


 サントラはそう言って俺とカリアに退出を促した。

 俺たちは軽くお辞儀をして、その部屋を出る。



「王子は、迷宮(ダンジョン)攻略のメンバーを集めているんだったよな」


「ああ、恐らくルージュが最後のメンバーになるだろうな」


 それは何とも都合のいい話だ。

 もはや作為的な何かすら感じる。


「それにしても、なんで王子は迷宮(ダンジョン)攻略をしようと?」


「さあな。それはオレも知らねえ」


 あの角の生えた男が残した言葉が脳裏をよぎる。

 "後で迷宮(ダンジョン)に来い"


(コルドとシルヴィアも、迷宮(ダンジョン)にいるだろうか)


 こうして、俺とカリアは王子が集めたメンバーとして、迷宮(ダンジョン)攻略に挑むこととなった。


いいね、ありがとうございます!!

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