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乱入者

 薄く、波紋のように魔力を広げていく。

 そして、魔力の波に触れた存在を感知する。


 広大な範囲に魔力を広げる必要があるこの『探知(サーチ)』は魔力消費が凄まじい。

 だからこそ、コルドの合流はシルヴィア任せになっていたわけだ。


(俺から一直線に離れて行っているのはシルヴィアだろうな...その向かう先には、反応が二つ。コルドと、他に誰かいるのか?そしてもうひとつ、()()()()()()()()()()()()()()


 俺はおおよその位置関係を把握すると、すぐに移動を開始した。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 音を立ててしまったのは迂闊だった。

 手痛いミスだ。

 角の生えた人間、魔族の顔がこちらに向けられる。

 コルドは自分の息が少し荒くなるのを自覚した。


「...誰だ」


 若い男の声が響いた。

 草陰に身を隠している僕の姿はまだ認識されていないらしい。

 そこに何かがいる、という認識に留まっているようだ。

 それでも、魔族の男はこちらに向けて歩みを進めてくる。

 バレてしまうのも時間の問題だろう。

 僕はその場で立ち上がった。


「...お前は、人間か」


「魔族がこんなところに何の用だ?」


「...ほう」


 魔族の男の綺麗な顔立ちが愉快そうに歪む。


魔族(われわれ)のことを知ってるのか?」


「...君こそ、()()()()()()()()()()()()?」


「なに?」


 魔族の男が目を細める。

 そして首を左右に振った。


「知らんな。ちんけな人間のことなど」


 多分、僕は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていると思う。

 状況が、悪い。


「まだ質問に答えてない。なんでここに魔族がいる?」


 僕の言葉を聞いた魔族の男は、そっとジャイアントボアの頭を撫でる。


魔族(われわれ)のことを知っているというのなら、ここにいる理由もわかるだろう?」


「...王都イグナスを襲撃するためか」


 魔族の男はパチンと指を鳴らす。


「その通り、あの忌々しい都をぶっ壊すためだよ」


 くつくつと魔族の男は愉しそうに笑う。

 ジャイアントボアの頭から手を放した。


「なんでこんな話を人間のお前にするかわかるか?」


 無意識に、ごくりと喉から唾をのむ音が鳴る。


「お前はここで死ぬからだよ」


 魔族の男の瞳が凶悪な輝きを放つ。

 それまで大人しかったジャイアントボアが大きく吠えた。


「ブモオォォォォォッッッ!!!!」


「...くッ!?」


 ジャイアントボアの攻撃の中で、最も気を付けるべき突進攻撃。

 あまりの脚力に柔い山の地面が大きく巻き上げながら、こちらに向かって一直線に突貫してくる。

 焦ってはいけない。

 ジャイアントボアは一度突進を始めると止まるまで進路変更ができない。

 油断さえしなければ大丈夫だ。


 僕は、ジャイアントボアの動きを注意深く見ながら、横に大きく回避する。

 直線にしか進めないジャイアントボアの進路から外れ、その突進は当たらない。

 ――はずだった。


「...なッ!?」


 ()()()()

 僕の動きに合わせて、ジャイアントボアは突進の方向を微調節する。

 今の僕の身体は、直撃ルートのど真ん中だ。


「コルドォォォッッ!!!」


 聞きなじみのある声。

 横目に、僕とは鏡写しの髪色が映った。


「シルヴィア...」


 もう回避は間に合わない。

 反撃の動作に入っていた僕の身体は、回避できる体勢になかった。

 ジャイアントボアは、その強大な牙で僕を突き上げようと突っ込んでくる。


 僕と瓜二つの少女の顔が泣いていた。

 ダメだ。

 僕は、まだ死ねな――


()()()()()()()は小回りが利く。油断は禁物だぜ?」


 目前まで迫っていた牙が、目の前に割り込んできた何者かの手によって大きく弾かれる。

 あの突進の威力をはじき返すなんて、とんでもない膂力だ。


「あ、あなたは...」


「あん?オレか?」


 突如乱入してきた人物が振り返る。

 華奢な体躯に可憐な桃色の短髪、そしてそれらに見合わない武骨な大剣。

 その少女は二カッとした笑みを浮かべた。


「カリア・ランページだ。よろしく頼むぜ」


 この人、知ってる。

 武闘祭でルージュと戦ってた女の子だ。


「コルド!無事なの!?」


 僕の思考は、シルヴィアに強く抱きしめられたことで、強制的に中断される。

 僕の肩に顔をうずめて体を震わせている姉の背中を、ポンポンと叩いた。


「僕は大丈夫だよ」


「...よかった。本当に」


「あー、あんましわかってないんだけどよ。お前らはなんでこんなところに?学園の生徒だろ?見たことあるし」


 泣きながら抱き合う僕たちを見て、カリアは困ったように後頭部を掻いた。

 シルヴィアは話せそうになかったため、僕が答える。


「僕たちはシルバーランクへの昇格試験を受けて、ジャイアントボアを狩りに来たんだ」


「ん?ジャイアントボア?」


 僕の言葉を聞いて、カリアは一瞬首を捻る。

 そして、今しがた吹き飛ばしたモンスターの方をちらりと見やって、あー、と納得したように嘆息した。


「お前ら、あれをジャイアントボアと勘違いしたわけだな」


 カリアの言葉に僕は目を見開く。

 今までジャイアントボアだと思っていたモンスターは、実は違うモンスターだったらしい。

 そういえば、カリアがさっき別のモンスターの名前を言っていた。


「...グレーターボア」


「そうだ。ジャイアントボアとは違って小柄なのが特徴だな。だからと言ってジャイアントボアより弱いかと言われるとそんなことは全くない。むしろ、突進のスピードも速く小回りの利くグレーターボアの方がよっぽど厄介だ。ギルドの決めたランク的にもグレーターボアの方が高いしな」


 突然の乱入者に対して警戒しているのか、ジャイアントボア――改めグレーターボアは、鼻を鳴らしながら遠巻きにこちらの様子を窺っている。


「まあその辺の話は、あいつを片付けてからにしようか」


 カリアが可憐な少女とは思えないような獰猛な笑みを浮かべる。

 思わずひっと声にならない空気が喉から零れた。


「...勝てるの?」


「あーん?オレ様を誰だと思ってやがる」


 カリアが、グレーターボアに向かってくいくいっと手首を立てて挑発するように指を折る。

 その行為の意味が理解できたのかは定かではないが、グレーターボアは激昂したように大きく鳴いた。


「フゴォォォォ!!!!」


 グググっと身体を沈ませたかと思うと、弾丸のように凄まじい勢いで突進を開始する。

 標的はもちろん、不敵な笑みを浮かべて仁王立ちしているカリアだ。


「クククッ」


 カリアは地面を引きずるように大剣を構える。

 微塵も避ける気がないのが分かった。

 堪えきれないといった様子で、その口からは笑い声が漏れる。


「シルヴィア!ここから離れよう!」


「え、ええ」


 このままここにいると巻き添えを食う可能性がある。

 僕とシルヴィアはグレーターボアの進路から外れるように移動した。

 グレーターボアはカリア以外に興味がないようで、真っすぐに突進する。


「舐めんなァァッ!!!」


 グレーターボアの牙と、カリアが振り上げた大剣がかち合う。

 ドゴォッと剣とは思えない音が周囲に木霊した。


「グモォォォォッ!!?」


 白い何かが宙を舞う。

 それは叩き折られた牙だった。

 僕は思わず目を瞠る。

 僕の腕よりも太く長い立派な牙が、僕よりも小柄な少女によって斬り飛ばされたのだ。


「...すごい」


 自分の口から出た感嘆の言葉に、僕は気づかない。

 桃色の少女が、躍動する。


 牙を折られた痛みか、衝撃か。

 自慢の突進を止めてしまったグレーターボアは、カリアからすればただの獲物だった。

 突進の威力で宙に浮く身体をぐるりと回し、振り上げた大剣を振り下ろす。

 突進の力すら利用した一撃が、グレーターボアの脳髄を砕いた。


「グモォ......」


 グレーターボアの目から急速に光が消えていく。

 細々とした鳴き声と共に、グレーターボアはその場に倒れ伏した。

 その屍の前で、少女は大剣を地面に突き刺す。


「さてと」


 グレーターボアの輪郭が黒ずんで朽ちていく。

 それには目もくれず、カリアはそのさらに奥へと視線を飛ばした。


「見てるだけみてーだが、趣味の悪い角生やしてるお前は何者だ?」


 グレーターボアを圧倒したカリアを見て、魔族の男は不機嫌そうに少しだけ眦を吊り上げた。



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