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ランク昇格試験①

「おめでとうございます!規定討伐数に達したので、ランク昇格試験を受けることができます!」


 冒険者ギルドで今日の成果を報告していると、唐突にそんな言葉をかけられた。

 冒険者ギルド受付嬢のサナが、パチパチと手を叩く。

 俺とコルド、シルヴィアは顔を見合わせた。


「早速試験を受けられますか?」


 ニコリと、サナは俺たちに笑いかける。


「どうしよっか?」


 コルドが俺とシルヴィアを交互に見ながら尋ねる。

 俺の返事は決まっていた。


「俺はもちろん受ける」


「ルージュはそうだよね。僕たちはどうしようか、シルヴィア」


「……受けるに決まってるわ」


 気のせいだろうか。

 どことなく、シルヴィアが苛立っているように見えた。


「……わかった。サナさん、僕たち三人とも試験を受けます」


「分かりました!試験内容を伝えますね!」


 えっと……と言いながら、サナは引き出しを漁る。

 やがて目的のものを見つけたのか、一気に手を引っこ抜いた。

 その手には一枚の紙が握られている。


「試験内容はジャイアントボアの討伐です!」


 ジャイアントボア……。

 最近授業でやったな。

 簡単にいうと、デカい猪。

 その鈍重そうな見た目とは裏腹に、突進時の速度はかなり速く、舐めていると轢かれる。

 逆に言えば、油断さえしなければさほど討伐は難しくない。


 俺たちはサナから手渡された紙に目を走らせた。

 ざっくりした内容は以下の通り。



 ────────────────────


 目標は、オレスティン山に生息するジャイアントボア一頭の討伐。

 期間は今日から三日間。

 討伐証明として、ジャイアントボアの牙を提出しなければならない。

 失敗時、今後一ヶ月間ランク昇格試験を受けることができない。


 ────────────────────



 オレスティン山というのは、王都から1時間ほど南下した場所にある山のことだ。

 そこまで標高は高くなく、地球(ぜんせ)であればそこそこ人気な登山スポットになるのではないだろうか。

 生憎この世界ではモンスターが蔓延っているが。

 ホーンラビットを討伐したのもこの山だ。


「これって三人で一頭でも良いのかしら?」


「ええ、大丈夫ですよ。こちらとしても、ソロで討伐できるとは考えてませんので」


「それは有り難いわね」


 シルヴィアはサナの回答に満足げに頷いた。

 それよりも俺には気になることがある。


「失敗すれば、一ヶ月試験を受けられない……か」


 アンリを助けるためにも、早くランクを上げる必要がある。

 一ヶ月も足踏みできない。


「じゃあ、早速準備しましょうか」


 パンっとシルヴィアが手を叩く。

 俺の意識が現実に引き戻された。


「それもそうだな。……挑戦は明日でいいか?」


「ええ、構わないわ」


「えー、一日ぐらいゆっくりしても……」


 コルドの間延びした声に、シルヴィアの視線が少しだけキツくなる。


「私たちが明日行かないとしても、ルージュはきっと一人で討伐に向かうでしょ?」


 突然話を振られ驚いたが、シルヴィアの言う通りだったため俺は頷く。


「もし明日休んじゃったら、ルージュと一緒に試験を受けることは不可能になるわ。そうなったら面倒臭いでしょ?」


 シルヴィアがチラリとこちらを見る。

 面と向かって俺を都合の良いように利用すると、あっけらかんと言ってみせるシルヴィアに、俺は目を丸くした。


「シルヴィア……お前なぁ」


「あら、気に障った?それは申し訳ないわね、私素直だから」


 コロコロと笑うシルヴィアに、思わず俺の口からはため息が漏れる。

 先程までのピリピリとした雰囲気はどこへ行ったのか、シルヴィアはすっかりいつもの様子に戻っていた。

 うん、こちらの方がよっぽどいい。


 シルヴィアの戯言を聞き流しながら、俺たちは冒険者ギルドを出る。


「それじゃ、また明日な」


「ええ、また明日」

「また明日!」


 真っ直ぐ寮に戻るコルド、シルヴィアと別れ、俺は明日の準備のために街へと繰り出した。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「遅くなったわね、待たせちゃったかしら?」


「いや、俺も今来たところ」


「なら良かった」


 早朝特有の張り詰めた空気は、静謐さを多分に含みその領分を侵すことを躊躇わせる。

 その結果自分の返答が幾分か小声となってしまったため、返事があったことに少し安心した。


 俺たち三人は、王都の南門で待ち合わせをしていた。

 こういう時、必須授業が無いことのありがたみを感じる。


 装備としては、全員が制服を着用していた。

 腰に下げたポーチには、念のための回復薬(ポーション)を突っ込んでいる。

 昨日購入したのだ。

 神聖力を含んだ液体が、淡く白い輝きを放っている。


「じゃあ、行きましょうか」




 オレスティン山までの道中は、特に何事もなく進んだ。

 馬車代が勿体無いので徒歩。

 オレスティン山の入り口で、休憩がてら三人で会議をする。


「最初に言っておきたいことがあるわ。この試験、ルージュにはあまり手を出さないでほしいの」


 開口一番、シルヴィアから予想外の言葉を告げられ、俺は戸惑う。


「……理由を聞いても良いか?」


「きっと、ルージュなら一人でもクリアできるでしょ?でも、ルージュに任せっきりにしてしまうと私とコルドのためにならない。この試験は、自分の力で突破しないといけないと思うのよ。ね、だからお願い」


 シルヴィアは俺に対して頭を下げた。

 朝焼けの色を写した金と銀のコントラストが、風に靡く。

 そんな姉の行動にコルドが目を丸くしているところを見ると、事前に話などはしていなかったのだろう。


「……わかった。でも、危なくなったら問答無用で助けるからな」


「……そうしてくれると助かるわ。そのためについてきてもらったもの」


 シルヴィアは悪戯っぽくウィンクする。

 俺は苦笑を返した。

 コルドは何か言いたそうな雰囲気だったが、結局口を開くことはなかった。


「よし、そろそろ行きましょう」


 すくっとシルヴィアが立ち上がる。

 その表情からは笑みが消え、真剣な顔つきとなっていた。

 俺とコルドも頷いて立ち上がる。


 木々のアーチで光を拒む山の入り口は、どこかいつもより不気味に映った。


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