冒険者
「いくよ、シルヴィア!」
「いくわよ、コルド!」
双子だとしても異質なほどの息の合いようで、二人はモンスターへと接近していく。
角の生えた巨大なウサギ――ホーンラビット――を前に、彼らは躍動する。
「きゅううううッ!!」
「へっへーん、当たるもんか!」
自慢の角がかすりもしないことに腹を立てたのか、ホーンラビットはやけくそ気味に角を振り回した。
「コルド、油断は――」
その忠告は遅かった。
ホーンラビットの攻撃は、偶然にもコルドの進行方向と重なるように放たれていた。
「やばッ!?」
『身体強化』
キンッと短い金属音が響いた。
綺麗に両断された角の断面が、コルドの眼前をぎりぎりで通り過ぎていく。
くるくると宙を舞った角の先端が、地面に突き刺さった。
「きゅうぅぅ...」
角が斬り落とされたことがショックだったのか、ホーンラビットは悲しそうな泣き声を上げた。
そんな哀愁漂う姿を見せるホーンラビットに対して、シルヴィアは躊躇なく首筋に短剣を突き立てる。
「きゅうぅぅ...ッ!!」
短い断末魔と共に、ホーンラビットが倒れる。
こちらに歩み寄ってきたシルヴィアがスパコンッ!とコルドの頭を叩いた。
そしてそのまま自分の後頭部を抑える。
「いたた、共有者オフにするの忘れてた...」
互いの五感を共有することができる天恵により、コルドを叩いたシルヴィアにも痛みが伝わったらしい。
自分で自分の頭を叩いたようなものだった。
「コルド!あれほど油断は禁物だって言ってたのに!」
「ご、ごめん」
何とも格好のつかない雰囲気だったが、ズビシッとシルヴィアはコルドに指を突き付ける。
対するコルドは、シュンッと落ち込んだように肩を丸めた。
「まあまあ、討伐には成功したんだからいいじゃないか」
俺は二人を仲裁するように間に入った。
そのまま地面に突き立っているホーンラビットが残した角を拾う。
ホーンラビット本体は、灰のように崩れ去り風に攫われて、その姿は跡形もなかった。
モンスターはこのように、身体の一部を除き息絶えたあとはこの世に何も残さない。
ウリドがそうであったように。
「今日はここまでにしようか」
「ルージュはコルドに甘いのよ」
「う~ごめんってばぁ...」
今にも泣きそうなコルドの声に、思わず笑いそうになる。
そんな雰囲気ではなかったのでぎりぎりで我慢した。
この三人で活動するのはこれで三度目だ。
みんな見習い冒険者と言っていい。
これから幾らでも成長できるだろう。
俺は帰路につきながら、少し前のことを思い出した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「冒険者...ですか?」
予想外の言葉に面食らったというように、バーモンは俺が告げた言葉を繰り返した。
ウリドを倒してから一週間が経った。
体調も回復した俺の周りは、次第に普段の様子を取り戻しつつあった。
アンリの姿がないことを除けば。
今、俺の傍にジアの姿はない。
「ちょっと、甘えすぎてたの。鍛えなおしてくるの」と言って、どこかに行ってしまったからだ。
真剣な顔つきでそんなことを言われてしまっては、送り出すしかなかった。
いや、別に引き留めるつもりもなかったが。
俺は、バーモンに向かって続ける。
「はい。魔神の心臓を探すためには必要なことだと思って」
「なるほど...」
バーモンが顎に手をやって、うーむと考え始める。
魔神の心臓探しをするにあたって、俺は冒険者になる必要があると考えていた。
何故かというと、この世界では一部原則立ち入り禁止とされているような危険地帯があり、そこに立ち入るためには、高位冒険者になる必要があるのだ。
長い間魔神の心臓が発見されていないということは、通常の場所にはないのだろうと考えた。
「確かに、いいかもしれませんね。冒険者の資格は持っていて損はありませんし」
バーモンは一つ頷くと、俺に肯定の意を示した。
俺は内心で少しホッとする。
学園の生徒でありながら冒険者活動を行うには、担任の許可がいるのだ。
断られることはないだろうと思っていたが、それでも少し緊張した。
「ありがとうございます」
「あ、少し待ってください」
早速冒険者ギルドに登録しにいこうと思い席を立とうとすると、バーモンが待ったの声をかけた。
バーモンが鞄をごそごそと漁ると、一枚の封筒を取り出した。
「ギルドに登録するときは、これを見せてください」
「なんですかこれは?」
「推薦状です。普通は初めて登録するとアイアンランクからなのですが、この推薦状を見せればブロンズランクから始められます」
「あ、ありがとうございます!」
冒険者のランクは下から、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンド、マスター、グランドマスターの順に高くなる。
ランクを上げるためには指定された条件をクリアする必要があり、アイアンをスキップできるというのは非常に助かることだった。
「じゃあ、早速登録しに――」
「ちょ、ちょっと待って!」
ギルドに向かおうとすると、再度待ったの声がかけられた。
今度はバーモンではない。
声の方向に視線をやると、見知った双子が立っていた。
「僕たちも、ついていっていいかな?」
コルドがおずおずと尋ねてくる。
突然のことにびっくりしたが、俺は首を縦に振った。
「ああ、別にいいぞ。二人も冒険者になりたいのか」
コルド、そしてシルヴィアは首肯した。
俺はバーモンに視線を向ける。
「先生、二人に推薦状を上げることはできますか?」
「ええ、構いませんよ」
バーモンはすでに鞄を漁っていて、封筒を二通取り出すとコルドたちに渡した。
「よし、いくか」
俺はコルドとシルヴィアを連れて、ギルドに向かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「サナさん、これお願いします!」
コルドの元気のいい声で、俺の意識は現実に戻ってきた。
いつの間にかギルドまで帰ってきていたようだ。
目の前では、コルドが受付に立つ女性に戦利品を渡しているところだった。
「ありがとうございます。コルドくん」
サナと呼ばれた女性は、丁寧な手つきでコルドから戦利品を受け取る。
コルドは嬉しそうに頭を掻いた。
「はあ、将来悪い女に引っかからないか不安だわ」
そんなシルヴィアの呟きが聞こえたが、地雷原に飛び込む趣味はないので聞き流した。
このサナという女性は、俺たちのギルド登録時に対応してくれた女性で、垂れ目に黒縁の眼鏡をしているのが特徴的な美人だ。
細いウェストとは対照的に出るところはしっかり出ており、優しい笑みに惚れこんでいる冒険者は多いらしい。
コルドも類にもれず、そんな大勢の一員だった。
「確認できました。ホーンラビットの角が一つと、グリーンフロッグの舌が二つですね。全部で百四十ギルになります」
コルドがひーふーみーと手渡された硬貨を数え、問題ないことが分かるとシルヴィアに渡した。
「もうホーンラビットを討伐できるようになったんですね、すごいです!」
「いやーそれほどでも...」
「あんたは足引っ張ってたでしょ」
「そ、そんなことは...あるかもだけど」
突如始まった双子の言い合いに、サナは目を白黒させる。
その様子を見かねた俺は二人に声をかける。
「ほら、サナさんも困ってるだろ」
「あ、ごめんなさい」
シルヴィアが初めてサナの様子に気づいたという風に謝罪を口にする。
サナが慌てて手を横に振った。
「いえいえお構いなくッ!もう少しでシルバーランク昇格戦を受けられますから、頑張ってください!」
「ありがとうございます!頑張ります!」
元気よく返事をするコルドに、シルヴィアがジトッとした視線を送っていたが、この場では抑えることにしたのか何も言うことはなかった。
用事の済んだ俺たちはギルドを後にする。
「はい、ルージュ」
ギルドから出ると、シルヴィアに呼びかけられ何かを手渡される。
それは七枚の十ギル硬貨だった。
「これは多すぎるんじゃ...」
「いいのよ。コルドを助けてくれたし」
シルヴィアは、サナと話せたことがうれしかったのか上機嫌のコルドを見やって、そう口にする。
俺が何を言っても、シルヴィアの決定は覆りそうになかった。
「じゃあ、ありがたく」
「ん」
俺が硬貨を受け取ると、シルヴィアは満足そうに頷いた。
俺はそのまま財布にしまった。
「ルージュが付き添ってくれて、本当に助かってるわ」
「それはお互い様だ」
これは、本当にそう思っている。
授業終わりに一人でモンスターと戦うというのは、きっと想像以上に精神的にしんどいだろう。
そんな中で隣にいてくれる賑やかな双子は、とても有難い存在だった。
(それでも――)
俺の目的は楽しく冒険者活動をすることではない。
一刻も早くアンリを救うことだ。
ゆっくりのほほんとしている暇はない。
(早くランクを上げて、行けるところを増やさないと)
そう考えている俺の横顔をシルヴィアがじっと見つめていることに、俺が気づくことはなかった。
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