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vs アンリエッタ①

 視界がチカチカと明滅する。

 抑えようのない怒りが、頭を、全身を支配していた。

 視界が赤く狭まっていく中で、それでもその男の姿だけは捉え続ける。


「ウリド、ブルームゥゥゥゥッッッ!!!!!!」


『身体強化!!』


 身体が、肉体の限界を超えて加速する。

 一陣の風となって接近する僕に対して、ウリドは冷静な表情を崩さない。

 薄ら笑いは引っ込み、感情の窺い知れない顔つきで首から下げた胸元のロザリオを引きちぎった。


「……獅子弓(ライオノート)


 ウリドの呟きに合わせて、前面に獅子の顔があしらわれた巨大な弓がウリドの右手に握られる。

 ()()()()()()()()()、ウリドは弓を引き絞った。


「装填」


 獅子の目が白く発光する。

 すると、ウリドの身体から白い光……神聖力が流れ出して弓へと収束していく。

 いつの間にか、輝く白い矢がそこにはあった。


「本来神聖力には攻撃力がないんですが、この弓は特別でして」


 聞いてもいないのに、ウリドは訥々と喋り始める。


「神聖力を物理的なエネルギーに変換することができるのです。つまり、何が言いたいかと言うと……当たると痛いですよ?」


 ウリドが光の矢を射出した。

 それは風を切りながら、僕めがけて一直線に飛んでくる。

 僕はそれを剣の腹で受け止めた。


「ぐ………ッ!?」


 想像の何倍も重い一撃だった。

 足が地面を滑る。

 防ぐことには成功したが、距離を詰めるどころか矢の勢いに押されて僅かに後退させられた。

 僕は気を取り直して、再び前進しようと足に力を込めたところでそれを目にした。


「では、もう少し増やしてみましょうか」


 ウリドが光の矢を三本構えていた。

 一本一本が致命の一撃となり得るそれを、ウリドは同時に射出する。

 自分の顔が苦々しく歪むのが分かった。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「………アンリ」


 横で始まったルージュの戦いも気になるが、それは意識の外に追いやり、私は目の前の少女に話しかける。

 事前にルージュと立てた作戦……ウリド対ルージュ、アンリ対フリージアの構図を作る、ということには成功した。

 アンリは私じゃないと抑えられない。

 私は、珍しく自身が緊張していると感じていた。


「……はぁ、何であんたの相手をしないといけないのよ。私はルジーと遊びたいのに」


 相対する少女、アンリの顔は今までに見たことのないものだった。

 これまで何度も言い合いをしてきたが、笑っている時も怒っている時も、そのルビーの瞳には色鮮やかな感情が散りばめられていた。

 だが今は、何色でもない冷め切った目が私の視線を受け止めている。


「一体何があったの?」


 私の問いかけに対して、アンリは嘲笑うように鼻を鳴らした。


「あんたのことは気に食わなかったのよね。ずっとルジーにべったり付き纏って」


 アンリは急に苛立たし気に顔を歪めたかと思うと、次の瞬間には喜色がその顔を埋め尽くしていた。

 異常とも言える速度で移り変わっていく表情を見て、私は思わず眉を顰める。


「いい機会だわ」


 アンリがパチンと指を鳴らす。

 どろりと濁った視線がフリージアを射抜いた。


「殺しちゃえばいいんだ!」


 アンリが抜剣し、跳躍した。

 まるで羽が生えているかのように高く舞い上がり、落下する速度そのままに振りかぶった両手剣を叩きつけてきた。

 私はその力任せな攻撃を真っ向から迎え撃つ。


(なんて力なの……ッ!?)


 これまで手合わせした時とは全然違う。

 異常なまでの力が私を襲った。

 硬直したのも一瞬、徐々にアンリの力に押され刃が迫ってくる。

 仕方なく、私は剣を立てるようにして斬撃を逸らす。

 単純な力比べはアンリに分があるらしい。


(……おかしいの)


 急激にアンリの腕力が強くなった。

 そんな馬鹿な話があるわけがない。


 手合わせの時に手を抜いていた?


 私は一瞬浮かんだその考えに対して頭を振る。

 それはあり得ないだろう。

 手を抜かれていたんだとすれば、その違和感に私の目が気づかないはずがないのだから。


 私は一つ息を吐くと、剣を正眼に構える。

 なんにせよ、気を抜ける相手ではない。


(私が正気に戻してあげるの)


 アンリの様子は明らかにおかしい。

 私はじっと観察する。


 アンリを狂わせている何かを見極めるために。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「逃げているだけでは、何も好転しませんよ?」


「うる……せぇよ!」


 休む暇なく襲いくる矢の嵐に、僕は一歩も近づけない状況が続いていた。

 今も身体を貫こうとする矢を横っ飛びで回避したところだ。


(これ以上近づくと避けきれずに被弾する……!くそ、何でこれだけ矢を連発して神聖力が尽きない!?)


 ウリドは僕の接近を牽制するように矢を放ち続けていた。

 もう既にかなりの数の矢を放っている。

 しかしその顔には疲労の色が見えなかった。

 使える神聖力には限りがあるはずなのに。


(現状、神経をすり減らしながら回避を続けているこっちが圧倒的に不利......)


 光の矢が肩を掠めていく。

 確かにウリドが言う通り、このままだと埒が明かない。


(これはあんまりしたくなかったけど)


『ファイアアロー』


 僕の周囲に炎の矢が展開される。

 僕がウリドに向かって手を振りかざすと、次々に炎の矢がウリドへと飛んでいく。


「……」


 ウリドは光の矢で応戦する。

 光と炎の矢が衝突し、幻想的な光をまき散らしながら消滅していく。


「う……はあ、はあ」


 僕は血の気が引いていくのを感じた。

 意識して足に力を籠め、倒れないように踏ん張る。


 ……実は、昨日の戦いで消費した魔力はまだ回復していなかった。

 少しの魔法を使っただけで、軽くではあるが魔力欠乏の兆候が出てきている。


 僕は荒い息を吐きながらも、ウリドに鋭い目線を向ける。

 今、僕に向かってきている光の矢はない。

 この隙を逃すわけにはいかない。


「はぁぁぁぁッッ!!!」


 僕は姿勢を低くし、光と炎の爆風を潜り抜けてウリドへと迫る。

 ウリドが少し目を見開いた。

 煙を突き抜けて向かってくる僕に対し、獅子弓(ライオノート)を下げて腰の長剣を引き抜いた。

 僕は構わず、剣を振りかぶる。


 甲高い金属音が鳴った。

 僕とウリドの視線が交錯する。


「……お前か?」


「……」


「お前がアンリをおかしくしたのか!?」


「……くふっ」


 思わずといった様子で、ウリドから笑い声が漏れた。

 無表情だった顔が、気味悪く歪む。


「……そうだと言ったらどうするのです?」


「……許さねえ」


 僕は渾身の力で剣を押し込もうとする。

 だが、ギチギチと刃を細かく打ち合わせるだけで、びくともしなかった。

 僕が両手で剣を握っているのに対し、ウリドの片手は弓で埋まっているというのに。


(どこにこんな力が......!?)


「ふん!」


 ウリドが強引に腕を振ると、均衡はあっけなく崩れ僕は数メートル後退させられる。


 ……おかしい。

 神聖力が尽きないことと言い、異常なほどの膂力と言い。

 何が起きている......?


「きゃあッ!!」


 突然、横から悲鳴のような声が聞こえてきた。

 見ると、


 肩を抑えて膝をつくフリージアと、高々と剣を振りかぶったアンリの姿があった。


 思考が停止する。

 反射的に僕の身体は動いた。


『身体強化』


 重ね掛けの魔法により、千切れそうなほどに僕の身体は加速する。

 通常では間に合わない距離でも、無理やり間に合わせることができる。


 僕はフリージアの前で停止し、剣を掲げた。

 既にアンリは振り上げた剣を振り下ろし始めている。


「……ぐぅッッ!!」


 今まで感じたことのないほどの力に、受け止めた僕の腕からは嫌な音が鳴る。

 限界を超えた魔法で強化しているはずなのに、抑えきれない。


「あれ……ルジー?」


 僕が割り込んだことに気づいたアンリは、普段と変わらない声音で首を傾げつつ剣を下げる。


「なんで邪魔するのよ?」


「……何してんだよ、アンリ」


「何って……そんなの決まってるじゃない」


 アンリはフリージアを指すように剣を持ち上げ、言った。


「その女を殺すのよ」


 ……

 …………

 動悸が、うるさい。

 ぐちゃぐちゃになった感情が行き場を見失っている。

 もう何もかも忘れて喚き散らしたい。

 どうすればいいのか、わからない。


 僕は自分がどんな表情をしているのかわからなかった。

 アンリの目には、僕がどう見えているのだろうか。

 アンリは優しく剣をその場に置くと、ぎゅっと僕を抱きしめた。


「大丈夫よ……怖がらないで」


「……」


 その優しい声色と、理解不能な現実に僕はついていけない。

 抱きつくアンリをどうしたらいいのか、わからない。

 何もかも手放してしまいたい。

 もう、何もしたくない。

 このまま僕も殺される?

 それでもいいかもしれない。

 もう、疲れた――。


「……ルージュ」


 全てを投げ捨てそうになった僕の頭に、澄んだ声がじんわり染みこんできた。

 顔だけをそちらに向けると、顔に苦痛を滲ませながらゆらりと立ち上がるところだった。


「……よく、見て。アンリに何かが纏わりついてる。精霊使いのルージュなら見えるはず」


「……精霊」


 僕はもう何も考えることができなかった。

 フリージアが何を言いたいかはわかる。

 ただ言われるがままに、借り物の力を発動した。


(見えろ)




 その瞬間、世界が闇に覆われた。



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