武闘祭開幕!
パッパラパーと、どこかで聞いたようなラッパの音が鳴り響くと、その場にいる者たちが一斉に歓声を上げる。
それを制するように、壇上に立つ青鷹クラスの担任教師、アデルは手を掲げた。
「これより、国王様よりお言葉を頂戴する!みな静粛に!」
アデルの言葉に続いて、赤いマントをたなびかせた壮年の男性が姿を見せた。
顔に刻まれた皴の数々が、その男のこれまでの歩みを物語っているようだった。
その男の名前はオルグ・ロールエントリア。
この国の王だった。
「この国の将来を担う卵たちよ。自らの力を存分に振るい、輝きたまえ。諸君らの健闘に期待している」
その言葉には、思わず耳を傾けてしまう。
オルグの言葉は、そんな重力とでも言うべき吸引力があった。
ニカッと笑う姿には、思わずついていきたくなるカリスマ性が感じられる。
僕には一生かかってもそんなもの出せる気がしない。
非常に短いその言葉は、先ほどの歓声が嘘のように静まり返った生徒たちに浸透していった。
「陛下、ありがとうございます。――よし、これより組み合わせを発表する!各自確認し、時間通り行動するように!遅刻は失格とみなす!――第二十二回、新入生武闘祭を開催する!」
その言葉を合図に、再び歓声が静寂を打ち破り場を埋め尽くした。
誰もかれもが割れんばかりに声を上げている。
武闘祭が、始まった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
武闘祭は個人戦、タッグ戦の順で進められる。
今日は個人戦、明日はタッグ戦だ。
個人戦・タッグ戦ともに、予選と本選がある。
十人一組の集団に振り分けられ、その中で勝ち残った上位二名が本選に出場できるのだ。
予選は全部で四戦あり、僕は一試合目、アンリは三試合目、フリージアは四試合目だった。
予選で当たらなかったのはかなり幸運と言っていいだろう。
アンリはフリージアとの訓練でかなり力をつけているし、フリージアは言わずもがなだ。
せっかく参加するなら、予選ぐらいは突破したい。
「じゃあ、一戦目だから行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。負けたら承知しないわよ」
「...頑張ってなの」
アンリは僕に向かって拳を突き出す。
僕は自分の拳を合わせた。
コツンと小気味のいい音が鳴る。
「それ、なんなの?」
「昔、村でやってたんだ。挨拶...みたいなものかな」
「むぅ」
フリージアがかわいく唸ると、アンリのように僕に拳を突き出してきた。
僕が驚きで目を丸くすると、早くとでも言うようにずいっとさらにフリージアの拳が近づいてくる。
僕は苦笑しつつ、拳を合わせた。
「二人ともありがとう」
僕はそう言って、会場である闘技場に向かった。
一回戦開始まで残り五分といったところ。
既にほとんどのメンバ―は揃っていた。
制服を見ると、青鷹クラスが一番多くて金龍クラス次に多い...というより僕を除いて青鷹か金龍クラスしかいない。
まあ、黄猫クラスは闘いとは無縁だし当然こうなるか。
金龍クラスで授業を受けていることもあって、金龍クラスには何人か知り合いがいるが、この場にはいなかった。
僕は軽く頬を叩き、集中力を高める。
実はさっきまで少し緊張していたのだが、アンリとフリージアに見送られて大分緊張は和らいでいた。
その代わりに、今は心地のいい高揚感が身体を支配している。
「よし、入場しろ」
短刀の教師の声を合図に、僕は闘技場に入場する。
途端に轟音のような歓声が鼓膜を殴ってきた。
武闘祭の期間中は、すべての授業がストップするため、観客席には新入生だけでなく上級生の姿も多い。
周囲をぐるりと人の群れが囲んでいる。
僕はその光景に思わず圧倒された。
「位置につけ。そしてこれをつけろ」
参加者一人ずつ初期位置を指示される。
武闘祭のルールはいたってシンプルだ。
四辺百メートルほどのステージから落下するか、今手渡されたブローチを胸につけ、対戦相手に割られたら負け。
乱戦の中、ブローチをいかに守り切れるか。
ステージ端にいれば被弾は減るが落下のリスクがあり、中央にいれば落下のリスクはないが被弾が増える。
そのあたりの駆け引きが重要となるだろう。
参加者全員が位置についたらしい。
審判役の先生が手を高く掲げた。
「これより、武闘祭予選一戦目を開始する!――はじめッ!!」
予選第一戦目がスタートした。
僕は状況把握のため、素早く周囲に目を走らせる。
既にいくつかの局地戦が始まろうとしていた。
それを横目に見ながら、僕はステージ端を目指して走る。
(この予選では無理に戦う必要はない)
最後の二人に残ればいいのだから、序盤で体力を消費しないほうがいいだろう。
僕の考えは甘かった。
そう考えるのは僕だけではないという当たり前のことを考えていなかった。
「おや」
戦闘の隙間を縫うようにステージ端までたどり着くと、そこには先客がいた。
首元にはマフラーのような長い布を巻き、鼻までがすっぽりと覆われている不思議な格好をした女子生徒だった。
僕を見て、その女子生徒は腰の短剣を抜いた。
「できれば序盤はおとなしくしておきたかったんですが」
「...それは奇遇だな。僕も同じ考えだ。いっそ、二人で高みの見物といかないか」
「あら」
クスクスと笑う女子生徒。
その余裕そうな態度に、僕は警戒心を強めた。
「それもいいですが、あなたのことが信用できませんからね。ルージュさん」
「...なんで僕の名前を?」
「参加者のことは一通り把握しています。特にあなた方灰狼クラスの人は情報が少ないので、要注意です。私は不安材料を残しておきたくない人なので」
女子生徒は、短剣を構えた。
僕も剣を抜く。
シャリンと、鞘を滑る音が響いた。
「サツキと申します。以後お見知りおきを」
少女が僕に向かって近づく。
そのスピードはあまり早くない。
サツキが突きの攻撃姿勢を取ったのが見えた。
落ち着いて対処を――
(いや、違う!)
僕は咄嗟に横っ飛びした。
脇を短剣が掠める。
サツキとはまだ距離があったはずなのに。
「あら?」
僕はサツキから距離を取りつつ、体勢を整える。
サツキは不思議そうに首を傾げていた。
「なかなかやりますね」
ニコリと、本心を包み隠した表情でサツキは称賛する。
全く褒められている気がしない。
(なんだ、今の)
理屈は分からないが、急激に嫌な予感がして回避したら間一髪だった。
明らかにサツキの攻撃が届く間合いではなかったにもかかわらず、だ。
こめかみを嫌な汗が流れる。
思わぬ強敵の登場に、僕は歯噛みした。
「今度はこっちの番だ」
『身体強化』
相手の攻撃の手品は分からないが、それなら先に攻撃して倒してしまえばいい。
わざわざタネ明かしに付き合ってやる必要ない。
僕は魔法によるブーストもあって、矢のような速さでサツキへと肉薄する。
予想外の速度にサツキの反応が明らかに遅れた。
スローモーションのように、ゆっくりと距離を取り始める。
旨のブローチを狙った剣の切っ先が、サツキの制服を掠めた。
そう、掠めただけ。
「...な!?」
「ふう、危ないところでしたね」
どう見ても剣の間合いに入っていたはずのサツキは、既に僕から距離を取っていた。
一体どうなっているのか。
ゆったりとした動作で、サツキは再び僕との距離を詰める。
まだ数メートルの距離がある。
お互いに間合いの外側。
そう、間合いだ。
サツキから攻撃を受けた時は、明らかに間合いの外だったにもかかわらず僕に剣が届き、僕が攻撃しようとしたときは、間合いに入っていたにもかかわらず届かなかった。
そのからくりが分からない。
「...雑念が混じっていますよ?」
「...ッ!?」
その声は、僕が思っているずっと近くで聞こえた。
反射的に胸元を剣で隠す。
ギィン!と甲高い金属音がこだまする。
目の前にサツキの顔があった。
「くそ!」
僕は剣を強引に振り払い、サツキを牽制する。
それをサツキは、素早く後ろに跳んで回避した。
(...ん?)
なんだ、今のサツキの動きには違和感があった。
そうだ、短剣という武器にもかかわらず距離を取りすぎなんだ。
それがミスでないのなら、何か理由があるはず...。
僕の中で一つの推測が出来上がっていく。
再びじりじりとした展開になる。
サツキは間合いを図るように、少しずつ距離を詰めてきた。
明らかに間合いの外。
僕は無造作に剣を振り払った。
「...くッ!?」
剣の届くはずのない距離、にもかかわらずサツキは初めて焦ったような様子を見せ、回避行動をとった。
僕の中で推測が確信に変わる。
「...足の運び方だ」
「...よくわかりましたね」
サツキがこちらに接近するとき、必ずゆっくりとした距離の詰め方をしていた。
そして僕の攻撃を避ける時も、素早い動作ではなくゆっくりと避けていた。
あれはスローモーションのように見えたのではなく、本当にゆっくりと動いていたのだ。
「見えている動きと実際の速度が合っていない。だから僕の間合いが狂わされている。時々大きく距離を取るのは、間合いの狂いを大きくするためだ」
サツキは、ゆっくりに見えるが実際はそれなりに速い速度で動いている。
そのトリックにより、実際の距離よりも遠く、あるいは近く見えていた。
サツキの顔から、余裕そうな表情が消えた。
サツキが地面を蹴った。
今までとは全く違う素早い動きで、短剣が僕の胸へと迫ってくる。
僕は咄嗟に剣で防御の姿勢を取った。
衝撃が――来ない。
(...タイミングをずらされた)
先ほどまでとは逆、見た目よりも遅く動く技術。
構えた剣越しに見えたのは、短剣を振りかざしたサツキの姿。
数舜の後、あの短剣が僕のブリーチを砕くのだろう。
防御のタイミングを外された僕が、防ぎきるのは難しいだろう。
敵ではあるが、その見事な技術には賞賛の拍手を送りたい気分だ。
だからと言って、素直に負けてやるほど僕はお人好しではないけど。
『スパークマイン』
バチバチと眼前に稲妻が迸った。
詰めの一手を指そうとしていたサツキは、その攻撃をもろに食らう。
「...がぁッ!!?」
稲妻に焦がされたサツキの身体は、痙攣したようにビクビクと震え、地面に倒れ伏す。
僕はゆっくりと、サツキに近づく。
「そ、そういえば、あなたは精霊使い...で、したね。すっかり、失念、していました」
無暗に傷つける気はなかったので、威力は抑えてある。
それでも、簡単に身動きできなくなる程度には強力な一撃だった。
身体が痺れるのか、サツキは呂律が回らないようだ。
僕はゆっくりと、サツキの胸元のブローチに剣を添え、砕いた。
「...お見事です」
「ありがとう。君も...強かった」
(予選では攻撃魔法を使う気はなかった。でも、使わないと勝てなかった)
担架で運ばれていくサツキを眺めながら、そっと息をつく。
非常に危ない戦いだった。
自身の成長のためにもできるだけ剣で戦おうと考えていたが、甘い考えだったようだ。
やはり、エリートの集まる学園というだけあり、アンリやフリージア以外にも強い人はいる。
僕は、ステージ中央に目を向けた。
「そこまで!」
「え?」
突然審判役の先生の声が響いた。
ステージの中央、そこには一人の小柄な少女しか立っていなかった。
予選は上位二人の勝ち残り。
つまり、勝ち残ったのは僕とあの少女ということだろう。
自分の戦いに集中している間に、どうやらとんでもないことになっていたらしい。
呆然と少女を眺めていると、目が合った。
少女はにやりとした笑みを浮かべると、こちらに向かって歩いてくる。
桃色の髪を短く切り揃え、貴族の令嬢と言っても違和感のない可愛らしい顔には、似つかわしくない獰猛な笑みが浮かんでいる。
そして最も目を引かれるのは、片手で背中に乗せるように持つ背の丈以上の巨大な剣。
あの小柄な身体であんな大剣を振り回せるのだろうか。
でも、あの少女が僕とサツキ以外の参加者を全員倒してしまったことは事実。
その実力は疑いようもないだろう。
「なんだ、サツキは負けたのか。やるじゃねーか」
馴れ馴れしい、というよりも粗暴な口調でその少女は話しかけてきた。
見た目とのギャップに驚きながらも、僕は何とか質問を口にする。
「君は、一体...?」
「あーん、オレか?」
一人称をオレと名乗った少女は、唇を大きく吊り上げる。
「オレの名はカリア・ランページ。よろしく頼むぜ」
ウィンクとともに名乗られた名前に、僕は聞き覚えがあった。
「カリアって、あの金龍クラスの問題児か!?」
「お、オレって結構有名だったりする?」
目の前で豪快に笑うカリアという少女は、有名な人物だった。
入学してから一度も授業に参加せず、先生の呼びかけにも応じない。
金龍クラス、第一席。
通称、金龍クラスの問題児。
今年最高成績で金龍クラスに入学した、天才少女その人だった。
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戦闘シーンを書くの難しい......。




