祭りと聖女と魔神
すっかり日も落ち、普段であれば静けさに包まれている教会前の通りは、賑わいの色を見せていた。
街灯だけでなく、祭りの間だけ出ている出店の明かりなど、人工的な光が人々のを笑顔を照らしている。
「...お待たせ」
僕がぼーっと周りの様子を眺めていると、横から声をかけられた。
僕は声の方向に目をやる。
「...アンリ」
そのの特徴的な紅の髪は、宵闇の暗がりに紛れて蝋燭に灯る火のような儚さを感じさせた。
少し紅潮している頬は急いできたからだろうか。
教会から出てきたアンリは、見慣れた制服姿ではなく、お洒落な私服に身を包んでいた。
健康的な足を控えめに露出した丈長のスカートは、いつもとは違った雰囲気を醸し出している。
「僕も今来たところだ」
我ながらありきたりなセリフだと思いつつ、事実なのでそう口にする。
アンリがきょろきょろと辺りを見回した。
「ジアは?」
「あっち」
僕が指さした方向をアンリは見る。
そこには出店に並んでいる、見覚えのある水色の後頭部があった。
「行こうか」
「...うん」
僕はアンリと連れ立って、フリージアのところへと向かう。
今日は聖女祭の始まりの日だ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「んん~~!!」
フリージアは口いっぱいに串焼きを頬張りながら、幸せそうな声を上げた。
その両手にも剣を模した飴細工やら、香ばしい匂いのパンやらたくさんの食べ物を抱えている。
「ほんっと、ジアっておいしそうに食べるわよね」
見てたら私もおなか減ってきたかも、と隣を歩くアンリがこぼす。
確かに、周りからはいい匂いが漂ってきて、食欲をそそられる。
僕とアンリは顔を見合わせると、たまらず近くのフライドポテトを揚げている店に行き、二人分購入した。
やっぱり出店とかっていつにも増しておいしく感じるよな。
いまだに美味しそうに食べ物を頬張っているフリージアに目をやる。
忘れていたけど、そういえばフリージアって公爵家の人間なんだよな。
美味しいものなんて食べ慣れていそうなものだけど...
そんな僕の思考は、アンリの声によって断ち切られた。
「ねえ見てこれ!」
各々が食べ歩きを楽しんでいると、アンリが通り過ぎかけた店の前で足を止めて弾んだ声を上げた。
「どうした?」
「...ん?」
僕とフリージアが首をかしげると、アンリが手招きする。
なんだなんだとアンリの見ている店を覗くと、どうやら手作りのアクセサリーを売っているようだ。
アンリはその中の一つを手に取り、目をキラキラさせながら見ていた。
それはネックレスだった。
先端に小さな紅い宝石のようなものがついている。
「それが気に入ったのか?」
「うん、それもあるけど...」
アンリはそう言うと、追加で二つのネックレスを手にした。
それぞれ先に蒼と黒の宝石がついている。
「これ、みんなで買わない?」
アンリが僕たちの方を振り返りながら提案した。
「...いいと思うの!」
フリージアは賛成のようだ。
僕としても断る理由はない。
僕が頷くと、アンリは嬉しそうにはにかんだ。
「すみません、この三つください!」
店主にお金を支払い、僕たちはそれぞれネックレスを購入し、その場で身に着けた。
アンリとフリージアはお互いに見せあっている。
「アンリ、なかなか似合ってるの」
「ありがとう。ジアも素敵よ」
二人とも気に入っているようだ。
僕はなんとなく、胸元に垂れ下がった黒の宝石を軽く握る。
「もうすぐ劇をやりまーす!見たい方はこちらへどうぞー!」
少し先にある広場から、そんな声が聞こえてきた。
そういえば有名な劇団が来ているんだったっけ。
「劇だって。行ってみないか」
興味をそそられた僕は二人に聞いてみる。
二人も同じ気持ちだったのか、首肯が返ってきた。
広場には奥に仕切りがあり、それ以上は入れないようになっていた。
仕切りの手前側に椅子が並べられているが、既に満席のようだ。
「お、学生さんたちも見ていかれますか?立ち見なら無料ですよ!」
「あ、ありがとうございます」
急に話しかけられて少しどもってしまった。
二人にどうするか尋ねると、無料ということであれば見ていこうという話になった。
すぐに始まるそうなので、僕たちは談笑しながらその時を待つ。
時間としては五分ほどたったころ、ピイッ!と空気を引き裂く笛の音が鳴った。
どうやら始まるらしい。
(そういえば、演目を確認していなかった)
ちょうど舞台脇に看板が立てられており、そこに演目が書いてあった。
「聖女と...魔神?」
「...そういえば、ルジーは知らないのね」
どうやら声に出ていたらしい。
僕の呟きが聞こえたのか、アンリが話しかけてくる。
その時、前方から歓声が沸き起こった。
演者が姿を見せたようだ。
中心に立つのは一人の少女。
眩いブロンドの髪に、見慣れないデザインの修道服。
恐らくあれが聖女役だろう。
そんな少女が一人で出てきて、祈りを捧げるように膝をついた。
タイミングを逃したのか、元から大した話ではなかったのか、アンリが話しを続ける様子はない。
僕は劇に集中することにした。
劇の内容は、ありきたりと言うと聞こえが悪いが、よくあるような話だった。
この世界に存在する二柱の神。
人間や亜人を生み出した女神エラリア。
モンスターを生み出した魔神ディアス。
モンスターを引き連れ人類の領土を脅かす魔神ディアスは、人類の敵だった。
そんな状況を憂いた女神エラリアは、人類の救世主として一人の少女を産み落とした。
女神の寵愛を一身に受けた少女は聖女と呼ばれ、女神や人類と協力し、魔神を封印することに成功する。
そんな物語。
魔神...か。
初めて聞いたが、アンリは何か知っている口ぶりだったな。
「アンリ、魔神って何なんだ?」
僕は興味本位でアンリに問いかけると、アンリは首を横に振った。
「私も大して知ってるわけじゃないわ。名前とモンスターを生み出したってことぐらい。王都では有名な話みたいよ。おとぎ話として聞かされるらしいわ。私も村にいた頃は知らなかったけど」
アンリも王都に来てから知ったらしい。
教会にも関係のありそうな話だし、当然と言えば当然か。
「それにしても、初めて見たけど結構面白かったわね」
「ん?聖女祭は毎年やってるんだろ?今まで劇を見たことはなかったのか?」
特に何も考えずそう聞くと、ジトッとした目を向けられた。
「...ルージュはデリカシーがないの」
フリージアからも何故か呆れたような目を向けられる。
え、僕なんかしたか?
「一緒に祭りに行って劇を見るような友達が、今までアンリにいたわけないの」
「な!?ジア、あんたねぇ!!」
こらー!と拳を振り上げたアンリがフリージアを追いかける。
フリージアは笑いながら逃げ回った。
もはやこの流れは日課のようになっている。
僕は呆れてため息をついた。
フリージアの最初の無口キャラはどこへ行ったのか。
端から見たら仲の良い姉妹のようだ。
「...アンリ」
僕はいまだにフリージアを追いかけているアンリを呼び止めた。
アンリはピタリと立ち止まり、僕の方を見る。
「どうしたの?」
「来年も、来よう」
「え?」
アンリは一瞬目を丸くした後、優しく笑った。
「...そうね。また、一緒に」
「私も勿論一緒なの」
僕とアンリの間から、いつの間に近づいてきたのかフリージアが顔を出して言った。
「はあ...ふふ、しかたないわね」
アンリは苦笑しながら承諾する。
もう怒っていないようだ。
劇の後も、僕たちは当てもなくぶらぶらと歩きまわり、祭りを楽しんだ。
月明かりが、僕たちを優しく照らしていた。
「いいね」くださった方ありがとうございます!
そろそろストーリーを動かしていこうかと思いますので、今後もよろしくお願いします!!




